第8話 ネルラ君愛用の剣

 目を覚ますと、やはり魔剣がそこにあった。

 ので思いっきり持ち上げたあと、外に向かって全力疾走、からの森の木の下に埋めた。最早躊躇無い動きだったと後から思い返しても思う。


 スッキリとした顔で俺は戻ってきて、ゴーレムを倒した。昨日よりも少しだけ早く倒せた気がする。多分気の所為だと思うけどね。


 ……今日は別に街まで行く必要は無さそうかな。俺はそう考えて、とりあえず今日の水を汲んでからダンジョンに戻る。


「ふぁ〜〜〜くそう、やっぱり寝れねぇ。まあそりゃ二度寝したもんなぁ……」


 そんな事をぶつぶつ言う。次のゴーレムのリスポーンまではあと6時間ある。……最大毎日4回、それがこのダンジョンのゴーレムのリスポーン頻度だ。


 ちなみにくっそ少ないし遅い。

 普通のダンジョンなら2時間に1回とか、30分に1回とかが多いのだ。だってそうしないと素材もお金も入らないでしょ?

 だからそういった効率的な意味も含めてこのダンジョンに入る人がいなかった訳だ。


 俺は干し肉を麻袋から取り出して、齧る。……やっぱり塩味が欲しい……くぅぅ……。

 とはいえ今から街に行く気にならないので俺は我慢して食べ切るのであった。


 ◇


 2時間後────。


「まさかこんなに暇だとは……ああ、スマホが恋しいぜ……なんでもない暇な時間が……こんなに辛いとは」


 当然な話だが、この時代というかこのゲーム内にはスマホやゲーム等は無い。なので怠惰に生きると言って寝続けても、寝れない時間は死ぬ程暇という訳だね。

 普段寝て起きたらスマホをポチポチ触って、ソシャゲのログインだけ済ましたら動画サイト(ナニがとは言わないが)をダラダラと眺め……そして仕事の日なら「だるぅぅう」と文句を誰に言うでもなく垂れ流してから起きる。

 休日ならそのまま二度寝三度寝、からの起きたら適当なご飯をレンジでチン、からの動画みながらダラダラと食べる。

 んであとはアニメでも倍速で見て、掲示板漁って友達と適当なLIN〇をして。

 んで気がつくと夜だからとエナドリキメてゲーム三昧。

 途中で洗い物とかしてない事に気が付き、誰かやってくれよ!とか言いながら終わらせてゲーム。


 ……そんな生活を毎日送っていた俺からすると、今の生活ははっきりいって暇が多すぎる。

 え?元々暇ばかりだったって?うっさいなぁその通りだよなんで分かんだよ。

 ただその暇を潰せる道具があの時代あの場所にはあった、今は無いってだけなんだからさ。


 なので最初は地面のマス目を数えてみることにした。3分位で飽きた。


 次に外に出て森を駆け巡ってみることにした。魔物とかに出会ったら即逃げすりゃ良かったしね。


 ───確かに気持ちよかったし、マイナスイオン?みたいなのが溢れているのか、春の日差しも相まって温かさと涼しさがとても心地よかった。


 そしたら遠くの方にでかい魔物が居たので普通に逃げ帰って来ました。いやなんすかアレ?3mはあったよ?アレ。

 遠目で見ただけでもあれはヤバそうってことで慌てて逃げ帰って来たんですが。


 ……あんな魔物が居るの?この森。えぇ……思ってたより怖いじゃん。……しゃーないしダンジョン内で出来ることをするかぁ。


 俺は仕方がないのでダンジョンで出来ることを始めた。


 つまりは─────、


 ことである。


 ◇◇


 ネルラ君が村から追い出される時、何とか持ってこれたこの剣。まあ安全にゴーレムを倒す為に必須だったし助かったんだけど……。


 まー見た目が酷いんだよね。

 俺は剣を鞘から引き抜いて、改めて眺めながらそうぼやく。

 見た目はよくあるロングソード。本来は白銀だったであろう刀身【ブレイド】は無数のひびが入って、さらに黒ずんでおり……その白銀の輝きは殆ど無かった。


 鍔【ガード】と呼ばれる、相手の剣から拳を守るための場所は擦り切れ……欠けて既にほぼ無いような状態で……柄【ヒルト】の握る場所【グリップ】部分には多分ネルラ君のであろう血が染み付き、それをボロボロの布で隠していた。


 なんというか、歴戦の武具を直さなかったらこんな感じ何だろうなといったところか。

【ポイント】と呼ばれる切っ先は削れて少し丸くなっていた。

 鞘も装飾が……まあ最初からなかったと思うけど魔物の血とか自分の血とか、そういったものが染み付き変な模様になっていたりした。


 ……というか買い換えるべきだと俺は思う。今思うとなんでこんな心もとない武器を持ってきちゃったんだ?あの村の納屋には確かロングソードなんて幾つもあったはずなのに。


 俺は不思議とあの村から出る時この剣を持ってきてしまっていた。それは多分ネルラ君の行動によるもの何だろうな。……それだけこの剣はネルラ君にとって大切な何か……って事かな?


 俺がそう尋ねると、ネルラ君が"うん"と言っている気がした。まあそっか、というかふと思ったんだけど────、


 俺は何度も剣を眺めた上でネルラ君に尋ねる。


「……この剣、?」


 いやね?なんというか俺は壊れた剣を特段知ってるわけじゃないんだけど、この剣はどう見てもような状態だと思うんだよね。


 ……どうっすか?ネルラ君?


 俺の言葉に、ネルラ君は少し躊躇ったあと……"自分で魔物の肉と血で継ぎ直した"と返ってきた。


 ……えぇ?いや凄いねそれ。……え?……ええ?


 いや溶かして直したとかじゃなくて……?……どう言う事ソレ?


 ◇◇


 そもそも剣は陶磁器の様に壊れたら継ぎ直すという作業は不可能だ。例えば刀等であればという形で元に戻す事は出来るだろう。……ちなみにこの知識は、俺の趣味で調べた話だ。まあ半分ぐらいで聞いといてくれ。


 ……だが剣だぞ?それも……の刀身を継ぎ直した?……なんかネルラ君世界の理とかに干渉してる能力者だったりする?


 しない?そっかーー。……じゃあ本当にどゆこと?


 俺はひたすら訳の分からん出来事に頭を抱える事になった。


 ◇◇◇


 ……ネルラ君の記憶によるとどうやら魔物の血とか肉とで剣を直していることがわかった。

 理屈は不明だが、ネルラ君はそれを可能にする能力を秘めているようだ。……えー怖ッ。

 ゲームなら確かに魔剣だろうがただの剣ノーマルソードだろうが、伝説の武器レジェンダリーウェポンだろうが等しく直せるだろう。だがそれはゲームだから可能だっただけであり、ここは現実に近しいはずだ。

 森のマイナスイオンも、春の温かさも、ダンジョンの少しかび臭い古めかしい匂いも。

 剣を振る時の重々しい感覚も、ゴーレムを貫く時の鈍い手応えも……そして干し肉を齧る時の苛立ちも……全てがリアルなものだった。


 そんな世界で、ネルラ君の記憶にある事だけが理解不可能な現象として俺の前にあるわけだ。


 俺は途方に暮れた。そして疲れたので───、


 ─────寝た。こんな訳の分からない事をひとりで悩む時間は要らんよ。


 ただ寝る前に、ふと思ったわけだ。……ネルラ君ってを元々使えたのでは?と。


 ……まあ考えすぎて眠くなったので、俺はそのことを朝思い出せるように祈りながら目を閉じた。


 ◇◇◇


 そして朝、目を覚ました俺は。


 を見た。そして笑いながら、それを近くの湖まで走って投げ捨てると。


 ────二度寝した。少しだけ気持ちよく寝れた。








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