第36話 引き下がる
次の日の朝、と言うか丸一日眠り続けた俺。そして目を覚ましたらどうにも騒がしいじゃないか。
「何ですか……もう少し静かに……」
「ほぉ、私が直々にここにいるというのに──随分と怠惰な考えを持っているやつも居たものだな」
剃刀のような鋭い口調をした声が聞こえた。
俺は直ぐに分析を試みる。
……この声の主は今さっきなんと言った?
『私が直々に』
この言い回しからして、おそらくかなり高貴な人間、もしくはかなり目上の人の可能際があるな。
ならさっさと起きないと破滅フラグ引きかねない!
「は、はいっ!?と、突然殺気がして───えっと貴方様は一体……?」
眠くて動きたくない、そんな体を脳みそで必死に否定して起き上がる。
そしてそこに居たのは……。
「ふん、起きたかねぼすけ野郎。貴様の処理を任された──違うな、私が直々に処理すると議会に押し通したこの私騎士王【アルトリウス】の前で、そのような無様な様相を見せるものでは無いぞ?──ん?違うかね、ゲイル?」
「は、はひっ!め、滅相も御座いませんともっ!!」
あーこれはかなりやばめの人が来たな。そして俺はすぐに自分が囲まれていることにも気がついた。
と言うかなんだよこの国、毎回寝かせてくれないじゃんかよ!!
「立場がわかっているならそれで良い。さて、それでは早速で悪いのだがね?───君の実力を確かめさせてくれないかな?……あぁ、勿論回復魔法の使える人は呼んである。どれだけ怪我してもすぐに直してやろう……」
「あ、あの〜?その、えっと、俺まだ寝起きで──しかもよく分からない仕事を押し付けられたのを処理して来たばっかりなんで────」
「ごちゃごちゃ煩い。その滑らかに動く舌、磔にしてやろうか?」
ずん、と声が腹の奥底まで響く。
その時点でよくわかった。───この人は本当にやばい奴だ、と。
「あ、あのっ!……ネルラく……ネルラ殿は疲れていると思います。それと勝負して実力を測ったとしても、それは本来の強さとは異なるのでは無いかと!」
ゲイルがすぐに止めようとしてくれた。しかし──、
「そうか。まあ確かに疲れて弱っている弱者風情をいたぶる趣味は無い。わかった、ここで引き下がるとしよう。だが忘れるなよ?ネルラとやら───この国の王である私の堪忍袋の緒はかなり短いぞ。ゆめゆめ忘れるな」
驚ろくことに引き下がってくれた。最もかなり圧を感じる言い回しであったが。
◇◇◇
「───助かったぁ……じゃあ寝ますね。すみませんゲイルさん、夜になったら起こしてください。おやすみ!!」
唖然とするゲイルを置き去りにしながら、最高速度で俺は目を閉じて眠る。
そもそも俺は眠くて仕方ないのだ。
─ゆっくり休んでくださいませ
多分ルクスの声かな?がした。
◇◇
ゆっくり休んでくださいませ。我が主様。
私は静かにそう言うと、眠りについたネルラ様の肉体を修復にかかる。
『星の力』そんなものを使用したネルラ様の肉体は、既に八割以上が擦り切れてボロボロになっていた。
魔法を行使する為の回路、魔術回路は既に焼き切れて無惨な形でたるんで折れ曲がって居た。
それを修復する。それが私の仕事だ。
ばらばらに砕け散ったパズルを、一つ一つ揃えるかのように丁寧に丁寧に組み立てていくのだ。
私の額を汗がぽたり、と流れる。
星の力、それは人には過ぎたる物。簡単に扱える様に見えて、その実───星一つ簡単に破壊できる力を簡単に制御できる存在などこの世にほぼ存在しない。
故にネルラが使用した際、彼の中の彼にまつわる存在の肯定材料が全て消し飛んでしまったのだ。
……どうにかしなければ。
その思いで必死にルクスはネルラの肉体を組み直していく。
やがて数時間後、ネルラの体内は元通り……いや、昨日よりさらに強く改良されていた。
「……いっちょあがり!!なんちゃって……エヘヘ、私の頑張り……届くかな?届くといいな。──愛しのネルラ様に!」
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