第38話 コックロータスは……

「フッフッフ残念、死ぬことはないのさ」


 言ってみて思った、結構これは恥ずかしいこと言っているのではないだろうか、と。


「へぇ!?避けるのがお上手ですねぇ!」


 それはどうもー。と言うかぶっちゃけた話だけれど、ナイフを飛ばしてくるなんて普通に怖いからね。

 なので俺は手の中に光の槍を生み出して、投げつける。


「セイント・スピア!!」


 直角に曲がって敵を追尾する、光の槍。それがコック何とかを貫いた。


「?ぐぁぁぁぁぁ!!ば、馬鹿な!この私がこんなあっさりやられるとはぁぁぁ!!」


 叫びながら爆散する。

 あまりにも呆気ない終わり方にむしろこっちがびっくりする程度には。


「えぇ……これで終わ……り?」

「──な訳あるかァァァァ!!!」


 塵のようになったその体が、ずるずると音を立てて再生を始めた。

 だからそこに俺は、魔法を続けざまに撃ち込むことにした。


「そうだよね、びっくりしたもん。──セイクリッド・スピア」


 今放ったのは、先程のあれよりもはるかに高火力な魔法だ。

 かすっただけで確実に相手を殺せる程の出力のそれを受けて……。


 断末魔さえあげることなくその肉体はこの世界から消失したのであった。


「……?なんだったんだろうね、コイツは」


 ネルラは首を傾げながら、再び部屋の中でごろごろしようと考えるのであった。


 ◇◇◇◇


 補足しておくが、コックロータスは弱くない。コックロータス・ピエロスキーはゲームにもし登場していたのであれば、間違いなくクソボスと呼ばれるほどの強さの存在だ。


 肉体が欠片でも残っていれば、全再生すると言うチート回復スキルに加えて時間が経つと自分が増えると言う増殖スキル。

 さらに時間経過と共に回避率が増加し、そして投げるナイフが様々な効果を得るようになると言う壊れスキルなどを所持しているのだ。──本来は。


 ネルラが放ったセイクリッド・スピアにはいくつか効果がある。

 そのひとつが、回復能力の無力化というのがある。

 それを受けてしまったが故にコックロータスはその回復を生かすことなく……そのまま消失したのだ。


 哀れコックロータス!

 もし彼以外の聖剣士だったのならば、苦戦は免れられなかっただろう。

 しかし残念。哀れで愉快な末路だ。


 ネルラは魔物に対する最強の切り札魔法、神聖魔法の使い手だ。

 そしてその魔法は魔物の特性をほぼ例外無く無力化してしまえるのだ。


 ──何より、この魔法は……キャスパリーグすら殺せる。


 そしてそれに特に気がついていないネルラもまた、ある意味では哀れと言うべきか。


 この後起こりうる悲劇的な出来事も、全て最初からネルラが神聖魔法で対処していれば起こりえなかったのだから……。






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