第43話 ヴィヴィアン
「はぇ……えっと仮の王様ですか?」
「そ、まぁ仮ってか代役?あの子が戻ってくるまで王座を守って置いてくれ。なんて約束しちゃったからなのよ。全く我ながらひっどい約束しちゃったものね」
アルトリウス改めヴィヴィアンはそう言うと着ていたボロボロの鎧を脱ぎ捨てて裸になる。
「え、ちょっ?!」
思わず顔をしかめるネルラ。目を閉じるのではなく、しかめたのだ。
まるで見るべきじゃないことに気がついてしまっていたかのように。
「─────何よ、なんか言ったらどうなのよ」
「き、綺麗だと思います、はい」
「ほんとに?言っとくけど、湖の乙女に嘘はつかない方がいいわよ?最悪の場合水に沈めてしまうかもしれないですからね。ちょうどいい重石があったーって感じで……ね?」
「───酷い有様……だね、その肩とか……腰とか……」
ネルラが見たのは、ぐちゃぐちゃに歪んだ傷だらけの背中と腰だった。ヴィヴィアンは見た目もそうだが、とてつもなく整然とした雰囲気を醸し出す女性だった。
故にこそ、この身体の穢れた部分が酷く目立ってしまっていたのだ。
「───湖の乙女、ううん違う。湖の精霊は人とは交われない。分かる?どうしてこの言葉を今言ったのか……の意味」
「……分かりたくないです、いや。そんな事はわざわざ話さなくても……」
「へぇ?──やっぱり貴方面白いわね。まぁ私はただひたすら、純潔を守り通そうとして、叶わなかっただけなのよね。
全く、しかも信じていたはずの聖剣士に裏切られてさ。なんなのさあの、ランスロットとかいうクソ野郎は!!」
少し声を荒らげたあと、またすぐにこちらを振り向くヴィヴィアン。
「許せないものが増えたのよ。山ほど、山ほどね。信じた騎士に裏切られ、国を知らない奴に奪われ。───あの子が……本物のアルトリウスが信じた国はこんなに酷いものじゃ無かったのよ。ホントよ?……だから私はあの国を取り戻す。いつの日か戻ってくるであろうアルトリウス。あの子のためにも」
固く口を結ぶヴィヴィアン。その目は遙か彼方の空を見据えていた。
「───で、俺は何すれば?何となくこの後の言葉が読めるんで先にそのことを尋ねときますけどもね?」
「あら、案外物わかりがいいのね。そうよ、私に手を貸して。──あの国を取り戻すために、力を貸して欲しいの」
「断る。はっきり言って別にこの国がどうなったって俺は気に病まないというか───ほら、あれじゃないですか。こんな特大破滅フラグに首突っ込む程俺は馬鹿じゃ無いんで」
そう言うと俺はそそくさとヴィヴィアンから離れようとして、首をぐっと掴まれた。
「───貴方、逃がすわけないでしょう?」
「まぁ落ち着けよ、ほらな?考えてみろよ。俺みたいな部外者がわざわざこんな知らん国の内乱に巻き込まれるのっておかしく思うだろ?そもそも俺はなんか急に連れてこられた完全なる被害者だぞ?それにさらに苦行を追加するとかどこまであんたら鬼畜なのさ」
「え?許可とってなかったの?嘘でしょ?でも確か言ってたわ?ガウェインが……"大人しく着いてきてくれたし、とても手を貸してくれた素晴らしい人だった"って!」
「そこ半分捏造っすね。俺はいきなり港町で絡まれたあと、そのまま聖剣持ってるじゃん連行するぜ、お前の話は聞いてない。って感じだったよ?」
「─────ガウェイン……あの子……」
まぁそういう訳で俺はこの話から降りる。その言葉を伝えると、そそくさと立ち去ろうとするが……。
「ネルラ様、ロブタ様の後始末を他人に任せていいんですか?」
ルクスの言葉に俺は足を止めた。
……確かに俺が魔剣を手に入れていれば、こんなことは少なくとも起こらなかったのは事実だ。
悔しいけど、当時の自分の考えというか他人に対する認識の甘さが招いた結果だと言える。
そう思った途端、死ぬほど罪悪感が襲ってきた。
「……ぅぅぅぅうう……分かったよ!……ヴィヴィアン、君の王座を取り戻すのを手伝ってやる!……だからその代わり見返りに───」
「え、手伝ってくれるの?ほんと?なら私の貞操ぐらいならあげれ」
「それは要らない。というかさっき無理やり奪われた話をした後によくその話を他人に言えるね?!」
「───はぁい。……君にならあげてもいいかなあって思った……だけなんだけどなぁ……」
「?何か言った?」
「秘密です」
かくして俺はロブタが引き起こした厄災の後始末のために、王座奪還の手助けをする羽目になったのであった。
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