第44話

「いや、海を走れるんだね、いや無理やり浮いてるって感じ?」

「……」

「えーと……転移ボタンはこれだな、神奈川は張られてるよね?別にしようか西部方面に逃げ込んで引き付けないとね、ん?怒ってる?」

「……」

「あ、気絶してる、静岡でいいか。派手に暴れて目を引きつけてあげるよ!」


 気絶するのってヒロインっぽいもんねぇとぼやくエデソンはポチりと転移ボタンを押し、静岡のどこぞの海岸通りに出現した後、ロックを流しながら疾走していた。


「ハイウェイスター!って感じだね!鉄壁くん!お次はスーパースターになりたいもんだね!」






「彼奴等女捨ててるな」


 席の面子にしか伝わらないような声で皇帝であるエリザベートはつぶやいた。


「なんだあれは?あれで……いくらだと言ってた?」

「累計で個別90万くらいだそうで」

「人のことは言えないのでは?」

「あっちは人類だぞ、おかしいだろ。フードファイターだって軽く食べるのは1,2回だろ、9回だぞ9回」

「我々も、もう4回目ですが……」

「この後は大阪で食い倒れると決めた、余が決めた。ふぐとか高いらしいし多めに稼いでおこうというわけだ、いわばこれは仕事よ、市井の視察でお金も稼げる。これはもう一石二鳥と言っても過言ではない」

「臣民から金を巻き上げているのでは?」

「余の御用達認定ってリターンになるか?」

「さぁ?」

「まぁ……いまはただの旅行客だしいいだろう、むしろ仕事ならただで食えるはずだし問題なし」

「そうだよ、気にしちゃだめだよ、まだ全店舗回ってないんだから」

「今日中に回って明日は大阪、いやぁ今日中にいって大阪観光だ」

「お土産はどうします?」

「大阪行く前に渡そう」

「後何回食べるんですか?」

「シタッパー……大阪は金がかかると聞くぞ、一人100万くらいでいこう」

「店が止めるのでは?」






「あんな大人にはなりたくないわね~」


 気を使ってか小さい声で桃野珊瑚はつぶやいた。


「いい年して大食いよ?職業かしら?これでお金稼ぐようじゃね」

「それフードファイターバカにしてる?」

「だってあれ、賞金目当てで食べてるじゃない~?大会賞金と店の完食d系タラで戦うのはなんか違わない?」

「ブーメランだよ」

「私達は世界のために食べてるのよ」

「本気で言ってる?」

「そもそも現実の仕事も案外世知辛いんじゃないかな?テレビ出てないときは案外そういう感じで稼いでるかもよ?」

「夢がないわね~」

「私達夢のある仕事と外からは思われてるけどどうだった?」

「「「「…………」」」」

「命かけて戦った割に保証がないし、なんかいっぱい食べられるからいいじゃな~い?」

「なんでもいい……ハァ……この期に及んでまだ戦えっていうの?」

「私も嫌だな……」

「ウチも語るに及ばず、ここでなにするんやろな」

「わからないけど、多分意味があるんだと思う」

「意味?」

「私達がこうなった理由も、きっとあるよ」

「日本が滅んだ理由も?」

「たぶんね、そういうもんだって……エデソン博士が言ってたしね」

「でもなんだか不思議な感覚はありますね」

「同じことしてるから?」

「……かもね」

「なんだろうね、まるで……」


 母親にあったような感じ


 その声は餃子を焼く鉄火場の喧噪に飲まれ消えていった。






「ばかにあの女を捨ててる連中を気にしてましたけど何かあったんですか、へ……ベッツィ」

「なに、まるで出来の悪い娘を見てるような感覚だっただけだ」

「子供産んでから言ってくれますか?」

「結婚より先にか……?」

「だから帝国上層部は生き遅れとか言われるんだよな」

「シュタイン!お前どう言うことだ!」

「いや、私が言ってるわけでは……」

「……」

「シタッパー!空気になるな!」

「ベッツィが急に母性に目覚めたのはいいとして……」

「いや、そういうのではない」

「ではなにが?」

「なんか覚えがない娘がいたような感覚だ」

「女性でそれはありえないでしょう、なぁシタッパー」

「え?俺?」

「男は覚えがない子供がいたりするからな、どうなんだ?」


 急な飛び火にしどろもどろになったシタッパーはいないはずだと言ったものの、からかうネタが出来たと皆からいじられていた。




「で?シタッパーの認知してない陛下との子がどうしました?」

「いや違う、お土産が足りなかったか?」

「いや十分ですよ、それにしても身に覚えのない出来の悪い娘ですか、なんだか変な感覚ですね?前世で家族だったりしました?」

「じゃあ殺しにいかないとな」

「嫌ってますね、まぁわかりますが」

「俺も手伝わないと……」

「私も殺さないと……」

「流石に2人は恨みが深いな……」

「まぁそれはおいといて、尻尾を掴みましたよ。海を走る車が静岡方面に走っていき消えました。海兵隊に要請はしましたがすでに消えた後ですので海岸線を固めておりますとのことです」

「俺が外してる時の指揮権は海兵隊総司令官のマリンで、皇帝陛下の代理はシーザだ。問題はないよ」

「ありがとうございます、一応文民統制主義ですけど有耶無耶にしても良くないですしね」

「そもそもシーザは軍籍があるだろうに」

「だからこそですよ、軍幹部の認識が佐官にないなら百害あって一利なしですよ。トドメを刺しにいきましょうか、最も目的地は不明ですがね」

「宇都宮から目をさそらす作戦ではないか?」

「可能性は十分、ですが……エデソンがいるはずです。転移間隔などを考えてもエデソン以外にそれをできる人間がこうも早く育ちはしないでしょう」

「車ごと吹きとばせ!あんな危険思想科学者!」

「自己紹介か……?」

「ロボットと同じ素材だ、月面から砲撃するか宇宙戦艦で攻撃するかだな。車どころか海岸線に穴が空くぞ」

「ああ、あれな。生活してる衛星落とすやつだろ?星だっけ?」

「どっちにしろ住めなくなりそうだからできんな、追え」

「逃しました」

「なんでだよ!」

「ただ名古屋方面に向かっていると思われます、浜松かも、いや、静岡?」

「西部ね……」

「あの引きこもりの夢織り人エデソンがねぇ……」

「どちらでもいい、食い破るぞ。あの危険人物を野放しにしてたら人類が一人の人間にされるかもしれんからな」

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