第4話

「諸君!敵はとうとう日本進行を開始するようだ!この数ヶ月……本来ならうら若き女子高生として青春を謳歌する君たちはこのようなことに巻き込まれてしまった。世界の平和を守るため君たちは我々とともに戦ってくれると言った時、我々大人は申し訳無さと情けなさを覚えた……我々地球防衛軍日本支部対帝国研究部隊は今日、実践を経験することとなる。もしも勝てなかったら撤退して欲しい。以上だ」


 地球防衛軍日本支部長、鉄壁泰造てっぺきたいぞうの短い演説が終わり5人は戦場へ向かう。エデソン博士が帝国から寝返る際に奪い取った転送装置は国内ならどこにでもいけるのだ。残念ながら船内用だったため国外までの転送はできなかった。


「エデソン博士、本当に戦えるのでしょうか?」

「陛下の攻撃を吸収したハーツ……異常エネルギー吸収体質が彼女の体に変異を促した。戦闘だけなら凌げるはずだ、能力向上のため手を回すが幹部陣自ら来るようでは流石に勝てないだろうな。ハーツは許容いっぱいだ、これ以上陛下の攻撃があるたび強くなるのは夢物語に過ぎん」

「一応敵艦隊は壊滅して人類側有利に傾いています、ここで防衛戦に成功すれば人類側の……」

「身銭を切って移住先の汚染を嫌ったにすぎん、キューバ方面に核攻撃を何度も行っているが全く効いておらんだろう。スペイン戦線の勝利は人食いパエリアン将軍が核汚染を我が身に受け地球を守って死んだに過ぎん。現にスペイン戦線が安定してるのは核攻撃をされたスペインがEU側と手を切る算段をしているからだろう、どこのバカが核で自国を焼き払った挙げ句建てになれと言う周辺国に賛同するんだ」

「人類の危機だと言うのに……」

「私としてはたいへん度し難いが……なぜ統一政権や統一通貨に統一機構がない?他の惑星から攻められないとなぜ慢心してたんだ、こんなに教材があるのに」

「子供の頃見てましたけど……毎年日本を中心に世界征服しようとしてくる悪の組織が実際にやってくるなんて思ったことはありませんでしたよ、8歳くらいまでは信じてましたけど」

「これほど教材があるのにどうしてまた……?」


 エデソン博士は首を傾げ、ニチアサ系の動画を見始める、インスピレーションを受け続ける博士は初代の秘密戦隊を見てわざわざ世界に支部を作ることを提案したくらいだ。支部ではなく国ごと撃破されたのだが……他にも戦隊要素を入れようとして5人から反対されたことは彼を失望させた。なお、黄田がカレー好きと知ってものすごく贔屓した。




「案外あっけないものだったな」


 東京湾強襲作戦に成功した第4騎士団はお台場に上陸していた。モニターの向こうではシタッパーが死亡フラグみたいなところに上陸するのはやめろと心穏やかではないが他の幹部はどこでもよかろうと思っている。


「よし、お前たちは羽田空港を抑えに、お前の達は大井競馬場の制圧、お前たちは向こうのディズ……」

「そこまでよ!」

「何者だ!地球防衛軍か!?」


 何故かお台場のビックサイトの歩道橋の上に立つ5人を睨みつけバカに人員が少ないなと思うキホテ第4騎士団長をよそにモニター向こうの幹部陣は凍りついた。シタッパーはやっぱいるじゃん戦隊系のやつと思い、他の幹部は謎の力を感じて驚いていた。


「この世の悪を焼き尽くす!灼熱業火!レッドハーツ!」

「邪悪な心を凍らせる!氷河凍土!ブルーハーツ!」

「大地の怒りを思い知れ!森羅万象!グリーンハーツ!」

「天空の怒りその身に宿せ!神罰神雷!イエローハーツ!」

「愛は世界を包み込む!博愛の女神!ピンクハーツ!」


 名乗り口上は大事とエデソン博士に押し切られ実際に攻撃されなかったので本当に有効なんだと思ってしまった5人、一応武人だし聞いておこうと判断してしまった騎士団、戦闘前の口上やるやつって地球側にもいたんだなとどこか懐かしく納得するシタッパー以外の幹部陣。お約束は決まってしまった。


「「「「「世界の平和は私達が守る、地球に輝く5つの光!防衛戦隊ピュアハーツ!」」」」」


 名乗り口上が終わり戦闘体制に入るピュアハーツ。とりあえずどうするという空気の中キホテが先陣を切った。


「バルサク宇宙帝国騎士団所属第4騎士団長キホテ、及び第4騎士団お相手仕る!いざ尋常に……勝負!」


 やはり口上は必要なんだなんと確信した5人に対し、こいつら礼儀正しいから返さんといけなんだなと思う第4騎士団、そして幹部陣。シタッパーだけは構わんからやってしまえと本気で思っているが口に出せばアッサーあたりから怒られるので沈黙を貫いた。


「地球防衛軍もやるな、騎士団員たちがパンチ一発でのされていくではないか」

「消失した団員もいます!パンチ一発とは……恐るべき宇宙ゴリラ共だな……」

「救援に向かいたいが、こうも堂々と挑まれててしまうと介入は名誉を傷つけるかもしれん。撤退判断は任せてあるし……」


 広い宇宙を小さな(それでも地球規模で考えると巨大すぎる)宇宙船での生活で死者を個別で弔う施設は作れない。そのため死亡すると消失するようになっているのである、その上で兵士は武器の鹵獲を阻止するため武装ごと紐付けられて消えるようになっている。若き頃のシタッパーは、あー!だから昔テレビで見てた時気がついたら戦闘員が消えてたんだな!と呑気に思ったものである。


 あっという間に第4騎士団は追い詰められ羽田と大井を抑えに言った部隊を呼び戻すか考えるも形勢逆転は叶わぬと判断、作戦続行を2部隊に通達後時間稼ぎに回るキホテ第4騎士団長。


「陛下!2部隊への増援を!2軍への増援を!私がここにいるうちにお早く!こい!ピュアハーツ!」


 5対1でいい戦いをしているところに増援を送りたいのだが覚悟を決められた後では介入を強行も出来ない。致し方なくシタッパーは自らが沖縄へ、ナポレーンは北海道に自ら乗り込み制圧を手伝うこととした。アッサーは羽田大井に残った2大隊へ撤退命令を出すもののキホテが生きている限りはそちらの指示に従う、援軍無用、援軍は他戦線への派遣を頼むと拒絶。アッサーは悩んだものの北海道戦線の援軍へ向かった。



「見事な連携だ、軍歴は長いのか?」

「数ヶ月だよ!オラ!」

「付け焼き刃ですがなんとかなりますね!」

「この程度ならなんとかなるで、ホイッ!」

「え、えーい!キック!キック!」

「これでどうかしら~」


 一撃一撃が帝国軍幹部に少し劣るとは言え打ち込まれ続けたキホテは追い詰められていく。自分が耐えているうちになんとか……ビックサイトの電光掲示板に流れる緊急ニュースで札幌通信途絶陥落の可能性、那覇襲撃中の速報を見たキホテは2軍への増援が間に合ったことに安堵した。この速度は当初の計画ではない、元帥と提督あるいは敬愛すべき騎士団長が増援に向かったのだ。


「早い対応だ、転移装置だな?」

「なんでそれを!」

「我々の技術だぞ?この星で作れないことなぞ最初期の交渉で把握しているわ!」

「侵略者め!」

「何を言うか!エデソンがそちらにいってから交渉で手のひらを返しおって!先に武力をちらつかせたのは貴様ら地球人ではないか!そら、日本以外も同時攻撃しているぞ!どちらを優先するんだ?日本か?アメリカか?それとも中東か?中国かな?」

「国内までしか転移できないような欠陥品やないか!」


 その情報は値千金であった。帝国側が欲しい情報、それはエデソンが持ち出した転移の範囲であった。登録施設内のどこにでも移動できる装置、つまり地球を同一施設として登録したのか、日本の同盟国を連合として同一組織として登録したのか、地球防衛軍自体の参加国を同一連合として登録したのか、日本単独で国家として登録したのか。

 ブラフであるの可能性は大いにあるものの皇帝はこの重要情報を聞き、切り取った領土は過去の経験上設定された国家範囲内にはならないことを知っていたため本州以外の切り取り作戦を続行させた。キホテに時間を稼がせ制圧、キホテを撤退させれば万事うまく行くはずだった。


「そうか……国内だけか……」


 同じ結論にキホテも達していた。そして自分は九州方面切り取りまで耐えられないだろうと、四国制圧も耐えられないだろうと。ここで5人に手傷を負わせ戦線に送らせず療養させるしかない。5人を使い潰せない功績を与える必要があるのだと、それは自分の命だと。そう判断した


「このキホテ、珍しい一族でな……魂を燃やすことで能力を2倍にすることができるのだ、そしてな……今生の命をかけることで分身ができるのだ!!」


 それはキホテ一族に伝わる奥義、バルサク宇宙帝国と戦った両親が自らの身を持って教えてくれた技。転生を何度も繰り替えす一族が末代になる究極奥義。両親がアッサーに片手にいなされたのを見て諦めて降伏を決めたほどの技。


「命の風車!」


 分裂したキホテはピュアハートに襲いかかる。ただでさえ疲労していた彼は命を使った攻撃を仕掛けてくる。万全であれば倒しきれたであろう技。相手が5人でなければ勝ちきれたであろう技。


「つ、強い!」

「みんな!まだだよ!必殺技を!」

「おうよ!」

「は、はいっ!」

「わかったわ~」

「「「「「五光照覧!ピュアヘブン!」」」」」


 攻撃を受けたキホテはそれでも歩みを止めなかった。


「風車突撃!」


 五人を弾き飛ばしたキホテはちらりと電光掲示板を見ると高知侵攻上陸中の速報を見て後一撃、と踏ん張るものの命の火は燃え尽きる寸前であった。


「みごと……だ、ピュアハート、最後の戦いがお前たちでよかったぞ……」


 そう言って倒れたキホテ第4騎士団長は消失した。そして倒れていた5人は地球防衛軍日本支部に救出され運び出されていった。

 そしてこれは事実上地球防衛軍の初勝利となった。

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