第17話

「諸君!よくぞ集まってくれた!」


 仮眠しているところを叩き起こされ、シュタイン主催の会議に呼ばれた俺は少しイライラしていた。

 本来の会議であれば日程通達が先であり、緊急会議であれば皇帝陛下の名で開催してもっと行動が早いはずだ。


 だが開催はシュタインで俺以外にまだ到着してる人間はない。

 もう少し寝てればよかったか?誰なんだ諸君って。


「シタッパー?他のみんなは?」

「俺だけだが?」

「……これほどの事態になぜ!」

「2人は休暇中だ、緊急じゃないんだから来るわけ無いだろ」

「休暇優先だったっけ?」

「当たり前だろ、我が国は法治国家だぞ!有給休暇の消化義務が先だ!負け続きの防衛戦の最中で休暇に行ったわけじゃあるまいし……」

「でも勝ってはないからてっきり……いやなんでもないわ」


 流石に俺の苛立ちに気がついたようで言葉を引っ込める。一応海兵隊は日本側の領地チビチビ奪ってるんだぞ!


「それで?今回の招集は?」

「ピュアバズーカの正体が、もといピュアハーツの力が何かわかった」

「…………は?」

「聞こえなかったか?」

「緊急招集をしろ!そんなこと!」

「え、い、いや緊急招集ほどではないかなって……」


 今まで悩まされてたんだぞ、緊急で呼ばなきゃどんな要件で会議が招集されるんだよ!お前の基準は何だよ!




「それで?緊急招集とはどういうことだ?シタッパー」

「はい、陛下……シュタインの会議招集内容が緊急会議に当たると思い私の名前で招集しました」

「なら別に待ってても……2人が休暇中だったな、シーザは?」

「軍事的要件なので呼びませんでした」

「そうか、それで……」

「ドバイで休暇中でした」

「ローマで休暇中でした」

「まぁ仕方ないか、本人が来れなくても通信があるしな、傍受もされないし……それで?シュタイン、なぜ緊急で呼ばなかったんだ?シタッパーと2人で会議したかったのか?」

「「…………」」

「いえ、違います!陛下も来る予定でしたでしょう!?」

「まぁ公務が終わったら行くつもりだったが……で?結局なんだ?巨大化する爆弾でも作れたか?」

「いえ、その……えーと……ピュアハーツの力が何かがわかったんですけど……」

「「「なぜ緊急招集しなかったんだ!」」」

「いや、わかったんですけど、わかっただけなんで」

「いや、連絡は大事だ。もっと気安く緊急会議しろ」

「帝国軍の今後に関わるんだからもっと早く言ってよ!」

「国家の一大事なんだぞ!対策がなくても報告はせよ!」


 俺が待ってる間に行ったことをまた言われてるよ、まぁ当然だけどさ。


「……いいですか?」


 そう言うとさっきまで怒っていた3人は怒りを抑え神妙にシュタインの言葉を聞く。


「端的に言えばあれは陛下の力です」

「余の?」

「開戦当時の攻撃を覚えていますか?」

「ああ……あれか……シタッパーには苦労をかけたな、船が……」

「あのとき陛下が放った皇帝流星群エンペラス・メテオ・シャワーが」

「えん……?待て、何だそれは……?」

「開戦当初に陛下が放った……」

「そんな名前は知らない、技名なぞない!止めよ!」

「…………そうですか」


 すごくしょんぼりしたシュタインを見て陛下は悪いこと言ったかなと少し不安になっている。だが皇帝流星群エンペラス・メテオ・シャワーと呼ばれた際に鳥肌が立ってるようにゾクッとしていた。厨二臭くて嫌だったんだろうな。その概念あんのかな?この帝国に。


「とにかくそれがどうしたんだ?」

「その力を吸収して使用してるものだと思われます……」

「吸収?奴ら力を吸い取るのか?」

「陛下の力のみを使用してると思われます。ピュアバズーカは検証してみましたし負傷兵の調査をしましたが間違いなく開戦当初のエンペ……」

「(ジロ)」

「陛下のバァーってやるやつと同じものです」


 バァーはないだろ、バァーは。

 だがそうなると我々は陛下同等の相手と戦っているのか?5等分されてるのがマシ?


「それは陛下と同等の力があるのか?」

「いや、あくまでその時の攻撃の一つを吸い取ったに過ぎん、おそらくその時の一本が吸われた、もしくは近隣に落ちたか落とされた一本から枝分かれしたものを吸い取ったのだろうな」

「なるほどな、つまり陛下には遥かに劣るわけだな、数百は数千かの攻撃のうちの一本のさらに分離したものか」

「威力に騙されていたわけか、強いが強すぎぬ程度。たしかに陛下の攻撃と考えたら我々でも死ぬだろうな。開戦当初の攻撃で一本耐えられるやつは?」

「耐えられはするそれだけだな」

「言い出しっぺだが耐えはするが……撤退するな」

「俺は死ぬだろうな」

「学者の私が耐えられるわけ無いだろう」


 奇妙な沈黙が場を支配する。陛下の攻撃であればダメだったと言うだけの話なんだがな。


「……分離した攻撃が5人で割られているということは分断攻撃すれば勝てる、ということだ」

「それでピュアハーツの性別と住所は?同時攻撃をしかけても分断されない奴らをどうする?」

「わからん、エデソンのやつが必死で隠しているみたいでな。我々も初期は敵の一部隊のためだけにすべてのリソースを割いて調査はできなかったし、その吸収する能力とやらが我々の調査を完全に妨害してる可能性はある。それくらいは奴ならやるぞ、現状では完全に手を打たれてるだろうな」


 敵の力の源がわかっただけマシだろうけど、これではな。


「ピュアハーツの力は尽きるのか?ピュアバズーカを撃つ続ければ枯渇するとか」

「あれだけ撃って枯渇しないのならおそらく最初の吸収した力を維持できるのだろう、仮にその数字を1だとしたらずっと1の力を持ち続けてピュアバズーカを連発し続けることができるはずだな。実際1日で50発も撃たれた日もある。ピュアヘブンだけはおそらく威力を考えれば1日1発、もしかしたらもっと少ないかもしれんが一度しか使ってないからわからん、あっちはおそらく回復が追いつかないものだ、違うならあっちを連発をしてる」

「つまり……?」

「どうすればいいんだろうなぁ……仮に強力な攻撃を入れたら吸収されたりするかもしれないが……陛下の力で吸収のキャパを満たしてる可能性のほうが高い」

「なら高威力の攻撃を撃つしかない?前は高火力は土地が荒廃するからだめだったが5人位のみ完全に絞りきれば」

「土地が耐えられるならそうだが……日本はプレートがあることを知ってるか?」

「「「「プレート?」」」


 お子様ランチ?鉄板焼き?エデソンの新兵器か?


「北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート。この4つが日本の周辺にあり、または上に乗っている。そして活断層が多い……らしい」

「つまり……なんだ?」

「ああ、地震ね」

「何だシタッパー、知ってたのか。そう、地震だ、我々のピンポイントでおきた高威圧の攻撃が原因で大地震が起きる可能性がある。そうなった場合我々は日本を統治できるのか」

「シーザは呼んでないな」

「多分出来ないし、地震が起きると津波が発生し南アメリカや周辺国に直撃した場合はせっかくの宣撫が無駄になる可能性がある」

「敵国ならともかく統治下でそれはできんな、余は許可しない」


 つまり日本の土地をぶっ壊すような大規模な攻撃はできないし、ピュアハーツのみに絞っても高火力の攻撃をピンポイントで狙っても地震を誘発して大津波が周辺を襲ったら統治下の国、今や自国になってる地域もある場所を攻撃したことになるわけだな……。


「地震を起こさず攻撃はできないのか?」

「我々の光線攻撃が地球にどのように働くかまではわからない、だから今までは開戦の見せしめ以外ではめったに使っていないのだ、アメリカですら大半は実弾と押収した他国の兵器を改造して消費したり在庫処分してたわけだしな」

「つまり対策はないんだな?」

「確実なものはありません、ただ……」

「何かあるのか?」


 え、あるの?ここから巻き返せる方法が?人海戦術以外に?


「これに対して対策するには担当する戦闘員に陛下の遺伝子を取り入れることです」

「余に性的な……」

「違います!それに性別的には陛下が取り入れる側でしょうに!」


 やめろよ、気まずい会議にしやがって……。俺はどんな表情でいれば良いんだよ、皆俺を見るんじゃねぇよ。ナポレーン、その目を止めろ。アッサー?お前もだ。


「ゴホン、陛下の髪とか血とかをうまいとこ取り入れればおそらくピュアバズーカなどの攻撃は無効化できるはずです」

「髪は女の命だぞ、国民は100億だぞ?ハゲるわ!いや、毛が足りんわ!失血死するぞ!勝つためなら頭髪くらいは諦めてもいいが流石に限度があるわ!」

「いえ、流石に戦闘面で自信があるやつだけに任せようかと……」

「騎士団だけでミイラになるわ!」


 それはそうなるわな、まだ帝国は1億人だって死んでないよ。何なら友邦抜いても現状は地球人78億?もっと少ないか?とにかく帝国としては増えてるだろう?陛下は全長25メートルの偉丈夫ではないのだ。


「いや、もう将軍とかそういうところで」

「将軍が全員実戦で力を奮って強いわけではないわ!ニチアサの怪人みたいに全員戦闘力があるわけじゃないぞ!」

「騎士団も平団員のほうが強いやつがいるしな、団長に求められるものは違う」

「でもお前ら強いじゃん」

「「たまたま両方兼ね備えてただけだ!」」


 言ってみてぇなそのセリフ。俺実戦はトップクラスってほどでもないからな。タフさが高いから総合値で上回ってる感じだしな。


「陛下の力を取り込めれば連中の攻撃に対しては無敵です、河豚が自分の毒で死にますか?」

「お前が持ってきたDVDだかブルーレイだかに自分の毒ガスで死んだ怪人の話があっただろう?」

「……だからその話のように!それに耐えられる兵が必要なのです!」

「余の髪や血を毒扱いするな!」


 それ強いやつに遺伝子埋め込むことと別にならない?耐えられるやつが強いとは限らなくない?


「陛下!御歳可を!」

「自分で自分をハゲにするよう命令をくださねばならんのか……」

「適切な量を見極めるため髪を一本いただけますか?何本で行けるか確かめてみたいですが」

「余の抜け毛は女官が保管してるはずだ、それを持っていけ……数百年分はあるはずだ、数千年か?何に使うんだろうな?」

「持っていきます!ナポレーン!アッサー!シタッパー!選抜したやつを1人づつ待機させといてくれ!」


 そういうとシュタインはパタパタと外へ駆けていった。会議まだやってるんだが。


「あー……流石に俺はダメだろうな」

「当たり前だろう?帝国軍は……将軍が余ってるからな……游撃将軍ジャルドバルを推薦する」

「騎士団も騎士団長が余ってるからな、たった一人の騎士団になってしまったニッヒ第46騎士団長を推薦する」

「俺は無役になった元24海兵師団長のカッツォを推薦する」


 なんかこれ、戦隊モノで怪人改造したりするそれだよな……。いきなりトップクラスか、普通中尉とか……いや、結構死んでるもんな。上の方が余ってるくらいだし。

 これで相手がいよいよ将官がでてきて追い詰めたとなるか、この程度で将官を出したと見るか……どっちかね?

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