第43話

「なんで装置を切るんだ!見ろ!警察が追ってくるじゃないか!」


 大量のパトカーに追われたエデソンと鉄壁泰造改め、エディとスチールウォールの2人、レースゲームか追跡者を振り切るゲームの如く巧みなハンドルさばきを見せながら下道を爆走していた2人はホッケーマスクを付けたまま会話を続ける。


「やってみたかったんだよ、ロマンだよ!ロマン!見たまえ!まるで世紀の大泥棒だ!エディ三世と名乗ろう」

「私のポジションはどれなんだ!」


 本来聞くべきことではないだろうことを聞いているあたり鉄壁、もといスチールウォールは脳処理の限界を変えてしまったのかも知れない。


「峰スチールウォールを名乗ればいいだろう、銃も刀も苦手だろう?」

「自衛隊幹部で銃が上手いやつなんか見たことない!刀なんて……剣道以外だと儀礼刀とかあのへんの部隊かな……。そもそも書類仕事で出世するんだから当たり前だろ!セクシー要素がない!」

「書類か名刺でも投げて戦えばいいだろ、筋肉はセクシーだってこの前テレビで……」

「それは違う盗賊だしレオタードじゃないか!嘘だよ!イケメンで俳優でって頭に付いてるんだよ!そういうものは!要素があるからモテてるんだよ!筋肉がモテてるわけじゃないわ!モテる男の頭に顔がいいとかお金持ってるってあるの!」

「えー君等顔だけで判断するの?効率悪っ……。この星の人30年くらいで老けるじゃん、年取っても若い女や若い男のほうが好きじゃん?不毛すぎない?」

「そ、そうだけどさ……」

「君等も併合したら寿命底上げされるから300歳でも20代くらいの顔でいられるよ良かったね!」

「もうとっくにその年は過ぎたよ!ちくしょう!」

「顔だけだったら若返るよ?」

「…………それ本当か?シュタイン」

「エディ三世ね。あ、そこの掴むとこ捕まって……揺れるぜ!」


 AT車をガチャガチャと弄り、見たことのないボタンを押した瞬間。

 車が飛んだ。


「いやー、ロボットの部品余ったから車のエンジンに取り付けたんだけどさ……着地しても大丈夫かな?」

「は?」

「まぁ素材こだわってるし大丈夫大丈夫、うまく発動すればね」

「おいおいおいおい!自律飛行じゃないのか!?」

「いや、エンジンふかして文字通り飛んだだけだよ?すごくない?スピード出して段差もないのに飛ぶんだよ?これかっこいいよね。アニメのOPみたいでさ」

「命かけてやることか!」

「命くらい賭けなきゃ悪人はできないの!このまま関東を抜けるよ!連中の目をここから逸らすんだ!海岸で音楽流して走ろうぜ!一度やってみたかったんだ!」

「逃げられるか!」

「強行突破だよ!帝国軍が来た転移しちゃうからね!ほらほらドライブだよ!」

「ハンドル外れたりしないよな!」

「アクアライン行くよ!」

「なぁ!」

「お、無線盗聴してるけど出口封鎖されてるらしいよ」

「じゃあ何で入ったんだよ!!」

「かっこいいからね!残り少ないんだからやりたいことをやらないと!」

「ああ……もう……」


 反論する気を失った峰スチールウォール(暫定)はエディ三世のやる気に満ち溢れたドライブに付き合いながらうみほたるで飯でも食えればいいけどこれは無理だよなと思っていた。






 のれんをかき分け扉を開けるとそこはフードファイトフロアだった。

 蔓延する匂いに熱気、店員の何名様ですか!に対し5人と返し席に案内される。

 カウンター席の山積みにされた餃子をもりもりと減らしグワシグワシと掻き込むその姿は刑務所から出たばかりで油物を頼む映画の人物のようであり、客も箸を止めそちらを眺めている。


「「「「「おかわり!賞金!」」」」」

「賞金の10万円5名様!」


 盛り上がるフロアをよそに涙目の店長と入ってきた5人の呆れた目線が異端だった。


「ああなったら女としては終わりよな」

「まだ若いのにねぇ」

「お腹が空いて食べるならわかるが金目当てで食べるようじゃねぇ……」

「何しに来たのか忘れたのか……?我々も賞金目当てで食べに来たんだが?」

「気持ちはわかる、アレは食事ではない。ご飯で遊ぶな」

「ご注文は」

「「「「「食べ切れたら10万円のやつ」」」」」

「あ、あと全メニューの餃子とおすすめのチャーハン」

「「「「それ5つね」」」」






「何か後ろも同じもの食べてるみたい」

「いいから早く食べましょう、食べれるだけ食べておかないと、これは稼ぎの手段ですよ」

「せや、あって困るもんやないで。なんかいっぱい食えるしな」

「食べすぎて急死しないよね?」

「太っちゃいそう~」

「「「「「おかわり!賞金!」」」」」

「賞金の10万円5名様!」


 一息つくと美女に囲まれた普通の男が餃子を待ちわびていた。

 どうせ頼むだろうと店主が作り続けた巨大餃子は先にこちらに来たが残ったものは後ろの席に運ばれていった。


 僅かな食事の合間、水を飲みながらちらりと後ろを見た4人はタイミングは違えども同じことを思った。


 あんな大食いしてるようじゃ女としては終わりよね。と


 悲しいかな侵略側の幹部と防衛側の主力の意見は一致していた。

 ハブラれた男は置いておいてだが。






「うみほたるPAが封鎖されてるが!?」

「封鎖できないのがお約束じゃないのかね!スチールウォールちゃ~ん!」

「コンビナート強襲して石油消したんですよ?封鎖くらいするでしょ!ガソリン代とかリッター300円とかなるかも知れないんだからそりゃ大騒ぎになる!」

「かまうもんか、そんなもの帝国のおえらいさんがなんとかするよ、押し通るぞ!」

「通れるか!」

「ポチっとな!」


 バンと飛び上がったホッケーマスクを被った2人のテロリストの車は目測を誤り海に突っ込んでいった。


「鉄壁くん!」

「なんです!」

「これってコンティニューボタンってある?」

「俺が知るか!」

「そうか、じゃあ鉄壁くん!」

「なんです!」

「転移ボタンどこだっけ」

「知るか!は?はぁぁぁ!?こ、こんなお前……クソ!!」

「あ、鉄壁くんそんな適当にボタンを押したら」






「車が海上を走ってる……?」

「地球防衛軍残党だな、帝国軍だったりするか?」

「それはわかってる、コンビナートの石油が消えたが運び出した形跡がないからな。帝国軍だったら俺等が追わないだろう」

「それもそうか、帝国側に報告上げとけ、もう東京か神奈川の管轄だろう」

「撤収、はい撤収!」






「海を走る車が逃走中?」

「はっ!海兵隊に応援を要請するべきでしょうか!」

「ほぼ解体してるからな……一応要請しておいてくれ。マリン司令官がまだ役職持ってただろう」

「議長、通貨格差が大きいのですが」

「ガソリン代が450円を超える可能性が……」

「何だその金額は……いまは帝国が産油地を持っているから……いや合成ガソリンでも作ればいいだろう、シュタインに投げておくか」

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