第8話
「それで?」
「おや、鉄壁支部長。それでとは?省きすぎだよ、いま巨大ロボットの制作に……」
「先日勝利した際に我々は負けると、アメリカは滅ぶと、続きはアメリカが滅んだら話すといったではないですか!」
「そうだったっけ?欧州陥落後って言わなかったっけ?」
「たしかにアメリカ滅亡後だと!」
「ふーん……なんでだっけ……?ああ!欧州も同時侵攻して壊滅すると思ってたんだっけ!いや、国連組織自体はまだ残ってるからどうしようかな」
「…………国連が残っていると問題でも?ああ、変わる組織を作るから残ってたらまずいのか」
「いや、地球防衛軍って国連の管轄だろう?いささか面倒なことになったなと思ってね」
怒りを押し殺しエデソン博士に尋ねた鉄壁支部長は彼からしたら意外な返答を返してきた。たしかに地球防衛軍の所属問題は曖昧であり独自指揮権を持っていた。アメリカ側が広大な基地を作ることを理由に本部を置き人事を抑えていたため国連管轄下ではないが独立組織化と言われると微妙なところであった、そうなった理由の国こそ無くなったのだが。
「国連の管轄下ではない、と言える……が……アメリカ管轄組織であったとも言える」
「へぇ!地球の進退がかかってるのにそこまで私物化してたんだ!君たちの能力と判断力を過大評価しすぎていたね、下劣さは過小評価しすぎていたけど」
面白い研究素材を見つけたかのような喜び方をして鉄壁支部長を苛立たせるエデソン博士。返す言葉もなくただイライラだけを募らせる鉄壁支部長にエデソン博士は質問をした。
「日本支部って上の組織はあるの?アジア司令部とか」
「ない、支部は国ごとと決まっている。すべて総司令部の直属だ」
「効率悪すぎない?」
「言語の壁や兵器の使用などがあるから統一するのは難しかった」
「本当に?」
本当は他国に軍備を含めた手の内を明かしたくないので自分たちが巨大支部か方面司令部になり他国に支部を作り内情を見て戦後にうまく立ち回ろうという考えで揉めた結果である。
結果として無駄な言い争いの最中、アメリカ側が地球防衛軍総司令部を建設し始める。時間はないのだからここを使うしかないだろうと丸め込み世界各国の団結は乱れた。、そして南アメリカの防衛が必須と世界の国ごとに支部を作りアメリカが総司令部から人員を送る方向に持っていかれた。
世界中から疑問の声が上がったものの先ほど鉄壁支部長が言ったような理由を出したため納得した。と言ってもアメリカの同盟国はかなり介入されたのだが。
バルサク宇宙帝国が戦闘人員を輸送する飛行機や艦船を落としたり沈めていたためアメリカ側が派遣した人員はかなりの数が戦死しており、現地の到着したものの行方不明になった人間も多い。行方不明といっても意味深なものであったが。
察しているだろうエデソン博士はニヤニヤとしており質問を続ける。
「じゃあ現状は独立支部なんだね?」
「ああ、それが」
「仲の良い支部は?」
「…………」
「だろうね、アメリカ防衛軍日本支部と仲のいい国なんてもういないか」
少し小馬鹿にしたように話すエデソン博士。しかし目は真剣になっていた。
「君は支部で最も偉いわけだ、君より偉い人物は誰がいる?聞き方を変えようか、君より偉い地球防衛軍の人間は生きてる?」
「全員総司令部務めだ」
「じゃあ皆死んでるね、じゃあ答えは簡単だ、地球防衛軍長官になりなよ」
「は?」
「地球防衛軍長官になりなよ。現状の地球防衛軍はそれぞれ独立してるんだろ?問題ないだろう?」
実はアメリカ陥落のずっと前から欧州の地球防衛軍各支部はEU支部として再編しようと四苦八苦していた。最もそこでも主導権の奪い合いをしておりスペインがフランスに対して権限を与えるべきではないと揉めており、ロシア側が自国が主導して統合することを宣言、反対多数であったが非EU加盟国を盾にしたくても地球防衛軍は建前が関係なかったため内部の統制はグダグダであった。
英国はEU加盟とEU支部統合計画を進めつつカナダに渡りをつけ帝国との講和を探っていたが、カナダ側がとぼけて続けており英国はコモンウェルス首長として援軍を出せとの一点張りだった。
もし出していたら、出せていたら……英国も馬鹿げた戦争から抜け出せていただろう。
「他国がどう出るか……」
「どう出るんだい?陛下が言っていただろう、次は欧州だ。国連も主要国も信頼されてないなら抜けてしまえばいいじゃないか、為政者は国民を守るのが仕事だろう?君たちの国では違うのかい?君たち新地球防衛軍を国連の後釜にすればいい、準備ができた頃には欧州なぞ終わりだよ」
「…………」
「降伏する?その場合私はロシアか中国にでもいくよ。講和なら呼び戻されんが降伏なら引き渡されるからね。」
「ピュアハーツは……」
「連れてくよ、断られても仕方がないけど……それはそれでいいや。どうせ幹部には勝てないよ、だって研究職の私にも勝てないもん、私より強い幹部に勝てると本当に思ってる?」
「…………」
「どうするの?降伏?講和のために進む?」
アメリカ合衆国滅亡の翌日、地球防衛軍日本支部は旧地球防衛軍の地球防衛の意思を継ぎ再編、地球防衛軍総司令部として鉄壁泰造を長官として指揮を採ることとなったと声明を出した。
同時に長官会見を開き、地球防衛軍は他国との対外交渉も行う組織であると宣言、国連の管轄にない独自組織であることは変わらないので国連に命令権はないことを改めて宣言をした。
一部の国は抗議をしたものの何ができるわけでもなく大半は黙殺。欧州に至っては帝国が攻撃宣言をしているため受け入れたうえでピュアハーツを派遣してもらうべきか、あくまで日本が地球防衛軍総司令部になることを反対するべきか、自分たちが本当の地球防衛軍であるとして指揮下に置くべきかと議論を始めた。国連に関しては名指しで帝国からことあるごとに非難されているため欧州側も地球防衛軍が国連と無関係であるとされたことを歓迎していた。総司令部都市部は別で逃げようとしていたのだった。
なおスペインは既に帝国から話が通っていたため話を引っ掻き回す方に回っていたのだが。
同日、シタッパー提督の部隊が中東方面に進出。トルコ・ロシア国境周囲で防備を固めインド方面に進軍を開始。アッサー騎士団も東南アジアからインド方面、中国を攻撃。帝国軍はアラスカ方面からロシア攻撃を開始した。
「我々バルサク宇宙帝国軍は欧州攻略にあたりアジア方面の制圧に入る。新地球防衛軍が対話を尊び国連と無関係であることは喜ばしいことである。そして戦闘前のインドの降伏を歓迎する。新たな臣民よ、ようこそ!」
出遅れたためカナダやスペインのような完全な国家主権は保持できなかったが市長程度の権限は確保できたインド。ヒマラヤ山脈に基地を作られた時点で降伏の話も出ていたのだが地球防衛軍を含めて主戦派も多く国内を纏めるのに苦戦、ピュアハーツの勝利と地球防衛軍側の勝利への喧伝がインドの判断を狂わせたと言ってもいい。あれがなければアメリカ攻略前には降伏を打診していたであろう、ロッキー山脈が消え去った時点で主戦派を切り捨て即座にカナダ、スペイン大使館に帝国に対して降伏を受け入れる旨を伝えて仲介を求めたのであるが大いなる出遅れともいえた。同時に直前まで周辺国に対決姿勢を示していたため巻き込まれて滅亡した国家はとんだとばっちりであった。
この後に地球防衛軍インド支部を含む降伏反対派は旧インド政府と帝国の兵によって鎮圧された。欧州の扇動であるとの旧インド政府の説明のもと帝国による世界中継上でデリーの地球防衛軍インド支部は消し飛んだのである。
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