第7話
「あたし達勝ったんだよね?」
「勝ちはしたけど本州以外占領されてるわ、勝ってるんか?」
「しばらくは入院と検査生活、しんどいわ……」
「で、でも他の国に派遣したがってるみたいな話があるって」
「いやよ~他国のために命までかけたくないわ、どうせアメリカとか中国とかロシアとかEUでしょ?」
「それに地球防衛軍みたいな扱いされてるけど別に所属はしてないよね?政府に頼まれたから入ったけど地球防衛軍じゃなかったよね」
それは真実だった。鉄壁支部長ですら勘違いしているが彼女たちはエデソン博士と日本政府に頼まれて協力しているだけであり地球防衛軍所属ではない。そもそも協力した際は地球防衛軍は組織されておらずそれを盾に協力を要請することも強制することも本来は出来ないのである。エデソン博士が協力している地球防衛軍にエデソン博士が作った専用施設があるので来ているだけで本来は無関係である。事実地球防衛軍は彼女たちに給与を支払ってはいない。もしそこをついたら払ったことで所属していたと言うことにするだろうが。
彼女たちは親に支払われてると思ってるし彼女たちの両親も流石に国家が動く命がけの仕事で自分たちの口座に支払えとも言わないし、ちゃんと支払われてるかということも確認はしない。あくまで協力要請に従っただけであり日本政府からは命をかけたとは思えない金額が政府に協力した際に作られた口座に入金されてはいる。
最も日本政府も地球防衛軍が適切な金額を支払ったと思っているので気にしていないのである。彼女たちがもう少し金回りに確認するタイプだったり、派手な遊びをしていたりするタイプであれば気付いていただろうし、帝国も他国もそれを利用して日本と地球防衛軍、ピュアハーツの切り崩しに全力を注いだであろう。帝国側はもし彼女たちが寝返れば幹部として迎えただろう。不幸なことに彼女たちは普通の女子高生であった。
「勝手に所属されたのかしら?」
「違法やないの?違法やろ?」
「国が滅びるかどうかだしね~アメリカなんて残った世界各国政府からも非難されてるし人間てやっぱり自分勝手ね~」
「じゃ、じゃあ……利用価値がないって思われたら……どうなるの?」
「さぁね、でも敵の偉いやつ倒したんだししばらくは大丈夫じゃない?」
エデソン博士が聞いていたら鼻で笑ってたであろう戯言であったが、彼女たちにとっては博士が見ていたニチアサ戦隊モノの幹部を倒したようなものだと認識していた。スペインで倒されたのは怪人A程度のやつだと言われたら彼女たちは辞めると強い意志を見せたかもしれない。
数日寝込んでようやく起きた5人は日本自体が滅んでいないことに安堵し、本州以外が陥落したが攻撃がないことを伝えられ安堵していた。
「地球に住む臣民、及び敵国である諸君!ご機嫌いがかな?」
突如行われたバルサク宇宙帝国からの世界同時放送が来るまでは。
「余自らがこうして放送するのは宣戦布告以来だったかな?わざわざ攻略作戦まで告知したのにあっさりと終わってしまって拍子抜けだったわ。さて、我々との戦争を主導した国連の根幹国家の一つであるアメリカ合衆国は先日の我が親愛なるシタッパー提督率いる海兵隊に東西海岸を強襲され主要都市は既に陥落している。アメリカ政府はどこぞへ逃げたが無駄だ!ご覧いただこう」
映し出されたのはロッキー山脈、様々な作品の題材になり、アメリカを代表する山脈である。
秘密にされているが地球防衛軍の総司令部がありカナダ側まで許可を取らずに勝手に基地を設置した広大な山脈である。
「この短時間で山脈の山々をくり抜き基地化したことは尊敬に値する。他国の物資を中抜して作ったことにも、囚人に強制労働をさせたり不法移民を強制労働させたり、なんとも素晴らしい国家ではないか!自由、平等、博愛にふさわしい行動だ。世界の諸君らもそうは思わないか?地球防衛軍の戦力を苦戦する南アメリカ戦線やアフリカ戦線に送らずこちらの工事に注ぎ込んだこともな!」
帝国はカナダ側にはロッキー山脈攻撃は事前に通達しており、カナダ国民のロッキー山脈周辺からの撤収、避難は完了していた。逆にカナダ側はアメリカ側が勝手にカナダ領土に基地を作ったことを知らなかったため地球防衛の総司令部の情報を一部とは言えうっかり帝国側交渉担当のカバンに落としてしまいそのまま帰ってしまった。そのため本当に大事な位置を把握したうえで、その工事の速さで複雑化してるであろう山脈を更地にすることを決定した。
「さて、皆さんも御存知……一般人はご存じないようだが地球防衛軍総司令部だ。先日、帝国第4騎士団長キホテが戦死した時に地球防衛軍の功績であると喧伝していたのはよぉく知っている……何でも地球防衛軍は被害無しでキホテ団長を討ち取ったとか……彼ほどの人物が被害も与えられず負けたと……彼らは言うらしい。なので我々が把握していた相手側の犠牲はどうやらなかったらしい。地球防衛軍が言うのだ、犠牲はなかったのであろう?いや、全く完敗だ、人類側は強敵だから我々もギアを上げようではないか」
被害にあった地球防衛軍の一般兵や一般国民をなかったこととした地球防衛軍に対して嫌味を飛ばし、不信感を煽った。
皇帝はこの辺はシーザ議長にやらせたほうがうまくやれただろうと思ったが英雄の弔砲と国葬に自分が出ないのはダメだなと役目を買って出たため演説の下手さを嘆きながら続ける。
「戦力差も技術差でも我々が一方的に負けたという事実は看過できない。よってキホテ団長の国葬と弔い合戦をすることにした、弔砲発射用意……撃て!」
アメリカ大陸に構えた雄大にして広大な山脈はまるでマシンガンでウエハースを打つかのごとく破壊され擦り切れていき、そして消えていく。
「我々が君たちの土俵に立たねばこれくらいで終わるのだ、君たちの始めた戦争だぞ?帝国で戦死した将官クラスの弔砲は実弾でな、相手に撃つのだよ。これでキホテ第4騎士団長の功績は地球防衛軍総司令部殲滅と陥落になったわけだ。キホテ騎士団長を討ち取るのに地球防衛軍総司令部が必要だったが……もし他の団長や将軍や隊長が討ち取られたら何が釣り合うのであろうな?国葬を開始する!」
皇帝が自信満々にいった国葬。キホテ第4騎士団長の国葬とアメリカ合衆国という国家の葬儀とダブルミーニングで我ながら上手いと思ったのだが人類側は地球防衛軍が壊滅した絶望に押しつぶされて気づくわけもなく、頼みの幹部たちもシュタインは弔砲と称して月面からの攻撃の指揮を取っており、シタッパーは両海岸から攻勢を開始し聞き逃し、アッサーはアメリカ中部空挺降下作戦を開始中、ナポレーンはメキシコから攻め上がりシタッパー、アッサーとの合流を目指していたためロッキー山脈攻撃開始から見ていなかった。
「アメリカ合衆国政府は地球防衛軍総司令部に逃げ込んでいた事は知っている、そして今消え去ったことは諸君たちも確認しただろう。アメリカ防衛軍だったようだな?次は欧州だ」
そこからはキホテ騎士団長の国葬映像が流れ、シーザ議長の演説を挟み、3時間した頃にはアメリカ合衆国は消え去っていた。2つの国葬は終わった。
全世界中継で放映させる映像から流れるバルサク宇宙帝国の葬送曲が地球に向けての葬送曲のように鳴り響く。
人類側は地球防衛軍という名の組織とアメリカ合衆国という大国を失いカナダの降伏を持って南北アメリカ大陸を失った。それはバルサク宇宙帝国の幹部を倒せたと喜んでいた既存国家を絶望させるのに十分であった。
戦争はまだ終わってはいない。
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