第45話
まどろみから覚める鉄壁はどこぞを走ってる風景を眺めて運転席を一瞥する。
相変わらずBGMはエデソンが好みの楽曲であり、どうもバラードに切り替わったようだ。
口ずさみながら運転、しながら短距離ワープをして得意げだ。
鉄壁は内心のイラッとした感情を封印して尋ねる。
「ここは?」
「名古屋近郊だよ?みそカツサンドはそこにあるよ。まぁ君のお金で買ったんだけどさ」
「ああ、ありがとう……。金は別にいいさ、我々は生きてるんだな?」
「死んだらどうなるかは興味深いね、あるいはもう死んでいて亡霊として走ってるかも知れない、あるいは死ぬ前の走馬灯かも知れない……どっちだと思う?」
「今生きてると思うことが大事だ」
「立派だよ、うん……立派だ」
「……そりゃどうも、で?どこへ?」
「そうだね?滋賀でなんか食べる?京都観光もいいな、大阪観光」
「遊ぶのか?」
「結構派手に動いてるけどね、連中に補足させないと……宇都宮から一度引き離したいんだ」
「だが広範囲の転移は……」
「できないね、いまやバルサクの支配地域だ。自由に動く?無理だね」
「ではどうやって帰るのだ?」
「発想を変えるんだよ、この車内は我々の領土とも言えるんじゃないか?」
「言えないだろう」
「…………うん、言えないね。失敗したもん」
「これは何の会話だ?」
「そこでだ、個人が領土を持つことは可能か?」
「不可能だろう」
「よく考えるんだ、主権領土住民さえいれば国家ということだ。世の中には勝手に独立宣言してミクロネーションでなぁなぁでやってるところもあるさ」
「まぁ……それで外貨まで稼いでるやつもあるな、自称ロシア帝国も無人島を領土にしてるし」
「個人宅すらそれをやれてる、まぁ税金払ってなくて揉めてたり色々あるみたいだけども……。リヒテンシュタインなんて軍事は実質スイスに投げてるようなものだろう。法的義務はないはずだが」
「つまり何がいいたい?」
「分譲アパートを買う」
「は?」
「どっちが首相か王か大統領かになって片方を国民認定する。これで国家だ。これをSNSで独立を発信する。一人でもいいんじゃねと言えばそれでいい、本来国際承認なんてされてないのに国はある、国家によって承認してない国もある。そもそも世界はほとんどバルサクが抑えてるだろ?バルサクは承認しないが誰かが承認したなら国際的承認と言い張れる。そうすればその一室は我々の国家だ。そうすれば宇都宮に戻れる、いっそアパートごと買い占めて我々を王と認めるなら家賃半額とするとかでもいいな」
「……それで?」
「宇都宮で作業をする間に大阪で我々を発見させ逃げるを繰り返す、その間にスーパーギャラクシーピュアロボを一気に最終形態に仕上げて……」
「仕上げて?」
「終わらせる」
みそカツサンドの最後のひとくちを食べ鉄壁はいちばん大事なことを聞いた。
「あの娘たちは?」
「だからおびき寄せるんだよ。ああ、そうだ!撹乱で無人島も買っておこう、これは口座のお金を誤魔化してしまおう!まぁ……こっちの金額はバレても構わない、偽装カードを使って目立つように引き出そう!大阪の金融業界を荒らしまくればいずれそちらに介入してくる。あとはスーパーギャラクシーピュアロボがどれだけ暴れる事ができるか、皇帝陛下は戦場に立つか。これだけだ」
「一体何を考えている?」
「うーん……正義の勝利?」
「正義……か」
「普遍的なものがいい?自分の正義に言い直そうか?」
「いや、いい……あの娘たちを巻き込んで正義もなにもないだろう」
「じゃあせめて助けないとね」
「どうやって?」
「皇帝陛下にスーパーギャラクシーピュアロボをぶっ壊してもらうのさ、そうすれば……彼女達もその余波で君たちの平均寿命くらい回復するだろう」
「そんな甘いものか?」
「そうだねぇ……皇帝陛下が来てくれるか、皇帝陛下が実際に戦うことってめったにないからね、開戦のあれはおまけもおまけだよ。ほら鏑矢とか法螺貝とかあんな感じ」
「あれでか?」
「当たり前でしょ?もう本気ならこの程度の星バーっとやってガーッとやってパーンだよ」
「……」
「一応バルサクって戦争国家だよ?まぁそうならざるをえなかっただけだけども」
「君は……エデソン……」
「僕はバルサクに負けた側さ、別に負けたら新しい臣民として働くだけだしね。あの怪人たちだって……まぁ元々地球人ばっかか、なんでああなったんだろうね?相性がいいのか、それとも怪人や怪物に関して肯定的なのか……。まぁどうでもいいよね」
「どうでもいいか、研究者の口から出るセリフとは思えないな」
「分野外だし……」
「…………そうか」
車内で流れるバラードソングが助けを求める。答えるものは誰もいない。
流れる景色を左に見ながら鉄壁は自分の仕事は強盗と囮ってことだなと内心で呟く。
空腹ではなさそうだと思ったエデソンは滋賀をすっ飛ばして京都観光でもしようかと思った。
私はバルサクから研究亡命しただけでバルサクを辞めたわけではないんだよ。
バルサク宇宙帝国からは逃げたのかも知れないけど、バルサクから逃げてはいないんだ。
まさかの誤算で巻き込んでしまった若い娘たち、内心バルサク宇宙帝国とどこまで戦えるかと思ったんだけど、吹き飛ばすのが精一杯だったね。
バルサク宇宙帝国とは戦えた、バルサクには届かなかった。届いたのは晩年に近いカイゼル元議長をかろうじて倒しただけ。
その上もう彼女達はまともに戦えない、まさか生身で戦わせるわけにもいかないしね、そもそも力を使えないし……。
生身で変身したら激アツだけどまぁ勝てないよね、元が皇帝陛下の力だ、皇帝陛下を上回ることはない。
だからこそ……皇帝陛下を呼び出すほどの戦果が必要なんだ、それは一度もないんだけどね。
でもね、自分の力量を試したい気持ちもあった。目指す未来とは別にね。
僕だって、本当に、心の底から、安住の地が欲しかったし皆で過ごしたかった。
だから心の底から……地球を手に入れたことは嬉しいんだよ。
ね?こんな悪の科学者死んで当然だと思うだろ鉄壁くん。
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