第40話
「失敗作……?」
怪訝そうに尋ね返す鉄壁は何処から聞くべきなのかを考えながらもエデソンの会話の続きを待った。
「そう、失敗作。まごうことなき失敗作だ。この状況に至っては私が間違っていたことを認めるしかない。誠に業腹だがシュタインのやつが正しかったということだ。いやー、最後の最後に自分の失敗を知れて研究者としては良かったよ」
「どう言うことだ?何がなんだかわからない」
「だからハーツは僕が作ったんだよ、なんで彼女たちが特殊な体質だってわかったと思ってるんだい?この星には80億いるんだよ?その特異体質がたまたまに日本で5人いて友人だなんて確率はいくつなんだい?そのうえ他にもいない。飛行機15回連続墜落で生き残る確率とどっちが上なんだろうね?」
「では彼女たちにハーツを植え込む、提供する?何かをしたのは君なのか……?エデソン?彼女たちは記憶を植え込まれた人造人間なのか?」
その質問にキョトンとした後、理解したと言わんばかりに大笑いをしたエデソンは過呼吸寸前のように苦しそうだった。
「なんでそんな非効率的なことをするんだい?あれは特異体質ということにしただけだよ?提供するならそれこそ軍人にでもしたよ、それこそ君とかね。」
「私?」
「最前線で戦わない司令官ってダサくないか?」
「最前線で戦う司令官は不味くないか?」
「価値感の違いだね、時として強者である司令官は最前線で戦うべきだと思うよ、頭脳担当でもない限りはね。でもほらただの女子高生があれだけ活躍するんだしさ、君が力を得たらやっぱり最前線で戦うべきだったと思うよ?」
「それは認めるが……」
「だいたいね、どこぞの戦うトレンディドラマじゃないんだよ?仕込みもないんだし空中分解したり向こうについたらどうするのさ?ただでさえ薄給でこき使ってたんだし、大人だったら寝返ってるよ、運が良かっただけ!」
まぁ自分でもこの地位になかったら、高校生の時にこれやらされたら寝返ってるだろうな……。
昭和の根性論の真っ只中で過ごした自分としては変身して顧問の先生や嫌いな先輩を襲撃してるじゃなかろうか?
「何考えてるかおそらく程度にわかるけど彼女たちはそんなことしてないよ?こっちだって把握してるんだからさ、自分の作ったものだよ?」
「そもそもハーツはなんなのだ?」
「人々がわかり合うもの、感情を読み取り、自分の意見を伝えるもの、あるいは共通の意思を持つものに融合、進化するもの。まぁ、こっちで言うと意志統合体とか、人類統合体とかそんな感じかな?」
「つまり?」
「君等でいえば人類全体の意志を統合して正しく僕らにぶつけるもの、僕らの意志を統合して君等に正しく伝える装置?でいいのかな。最終的に全員の意志を統合して共同生物かなんかにするものだったんだよね、こっちが本当の役割なんだけどシュタインが猛反対してね。幹部も一部は賛成だったんだけど最後の統合には全員難色を示してたよ。シュタインは全部反対しやがったけど」
マッドサイエンティストとしか言いようがない研究に本心から鉄壁は引いていたがエデソンはそれに気が付かず話し続けた。
鉄壁は腕を組みながら服の端をぎゅっと握り覚悟を決めていた。
「なぜ争いが起きるか、それは相互理解が足りていないからだ。我々は本心から住む場所がほしい、君たちは技術がほしい。それが正しく伝わればこんな戦争は起こらなかっただろう?ひとえに君たち人類が愚かだからこうなったんだよ?君たちを理解し得なかったバルサクも愚かだったけどね。私は研究的な亡命はしたけど別にバルサク宇宙帝国を打ち倒そうとかそんな事は考えたこともないんだから。たしかにこの星の文化は素晴らしいよ、娯楽をここまで増やせないうちにも問題はあるけどさ。でも統一機構はなさすぎて大国が好き勝手に暴れて国連はあのざまだったね。井の中の蛙大海を知らずってやつだね。世界の危機だぜ?正気かよって思ったよ。僕を入れたら対抗できるって?君さ、アインシュタインがパラグアイかオマーンに亡命してても原爆出来たって思う?まぁ他にも核となる研究者はいっぱいいるけど。無理だよね?技術も資金もない。僕が来た程度でバルサク宇宙帝国と対等の技術が?冗談だろう?まさかあの宇宙戦艦が鉄製だと思ってる?鉄だとしても地球中の鉄鉱石を集めて生成しても100分の1も無理じゃないかな?艦船ジオラマの一番小さいプラモみたいなもんだよ?」
「……それで?」
「スペック教えられるより直接頭にどれだけすごいか情報をぶつければ戦おうなんて思わないだろ?」
「正気か?」
「もちろん、思った以上に欲の皮が突っ張ってたせいで開戦だよ。バカだねぇ……」
ギャンブルで全財産を突っ込んで負けた人間を見るような目でエデソンは鉄壁を見た。
自衛隊に入る前友人に金を貸してくれと頼んだときと同じ表情と目だ。
まだ返してないぞと言わんばかりの。結婚前の妻に金借りたときみたいな目にも見える。
だから未だに頭が上がらないんだ。頼むからその目はやめてくれ。
子供も自分が仕事に出たのにギャンブルして帰ってきてると思ってるんだぞ。
鉄壁の内心を知らないエデソンはこの研究に理解を示さず怯えている、数度目の人類側の失策をあらためて突きつけられ落ちこんでいると判断し話し続けた。
人類と日本をかけたギャンブルをしてほぼ無一文になった鉄壁は目をそらして耳をそばだてる。
「私はあれだよ、こっちでいうとSoldier of Loveってやつ?アレを目指したんだよ。Lay Down Your Armsってあの曲さ。互いに理解して抱きしめあいたかったのさ。別にここだけじゃない、宇宙の果から果まで、もう戦争は懲り懲りだ。わたしたちも君たちも嬉々として人を殺して死んだら英霊だ英雄だなんて疲れちゃうでしょ?でもみんなが同じなら、敵も味方もわかりあえたら……こんな何百年も戦わずに、宇宙を漂流しなくてすんだんだよ……。僕を引き入れた人も死んだ、友人も戦死した、偉かった人も何人か亡くなったね。兵卒に至っては僕が入ってから何億、何十億死んだんだろうね?君たちはたった1年でこれだよ。我々がここを生活不可能だと決めたら初日で終わってたんだ、本当だよ?僕がアメリカに愛想を尽かしてこっちに来た時にこっそり埋めたんだよ、ハーツをね」
「埋めた?」
「悪用されたくないからね、人のこなそうな山にこっそりとね。あの山秘密基地候補だったろ?だからさ……視察の時にちょっとね。計算外だったのはあんなとこに、あんな時に、あんな時間にピクニックに行く女子高生がいるか?って話だよ。まさに戦隊モノの1話だよね、いやーまいったね……」
「では偶然?」
「うん、だって1つしかないハーツが5つになるなんて想定外だよ?だから困ったんだ、こっちで完成させて意志統合したら地球も平和、宇宙も平和、バルサクも平和で解決だったんだけどね」
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