第41話

「それではただ単に領土を地球が明け渡すだけではないか……」


 呆れるような、咎めるような口調で鉄壁はぼやくが、すかさずエデソンが答える。


「だから凍土でも砂漠でも森林でもいいって言ったろ?別に住みやすくするのは簡単だったんだよ、連作障害もなんにもなしで同じ広さの場所で地球の5倍、いや10倍の収穫だってあげられるよ?改良すればプラントで延々季節も関係なく生産だってできる。この技術を提供しようってのに欲張って喧嘩売るなんて意味がわからないじゃないか」

「土地を取られた国が黙ってるわけがない!」

「有効活用も出来てないのに?君等って何処か……バカっていうか間抜けっていうか足りないっていうかさ……そりゃいらないけど売れない土地ってあるけどさ、買うって相手にふっかけるどころかお前の土地も出せっていう商売人はいないだろう?そもそもアメリカにしろ国連にしろロシアにしろどこにしろ、関係ない土地だったら勝手に切り売りして差し出すだろ?何を今更……いらないなら売ってくれって言ったじゃないか、ただでよこせって言うなら最初っから全部の国家の首都攻撃してるよ」


 心底呆れたように言うエデソンに毒気を抜かれた鉄壁は反論がでてこずにぐっとなったまま目をそらしていた。


「まぁ、それはいいや。結局ハーツは5つに分かれて女子高生5人に飲まれちゃった。ほら、覚えてる?出力上げるって言ったろ?研究してるとはいえ謎の塊、ああ形もわかんないか……。とにかくそれをいじれるわけ無いだろ?石器埋めて10万年遡るみたいなことできないんだしさ。僕が作ったからなんだよ、そりゃいじれるよ。まぁ未完成でああなったからわかんないことばっかだけど」

「じゃあ5つに別れた理由もじつはわかってるのか?」

「もちろん、戦隊モノは5人必要だろ、君が6人目になって戦うんだ」

「は?」


 思わずエデソンを見るとニヤニヤして冗談だとわかった鉄壁はムスリとして貧乏ゆすりを始めた。

 だって君が目を合わせてくれないからさとヘラヘラと発言しながら少しだけ真面目に向き合って語り始める。


「実際5つになったのは偶然だよ。陛下の攻撃を吸ったんだろうね、それで力が大きすぎて壊れた。自動修復も付いてたからね。壊れた場所にたまたま5人いたから5個になって体に吸い込まれた。逆だったんだよ、特殊体質じゃなくてたまたまハーツが底にあってたまたま5人がそこにいた。どうだい?戦隊っぽくない?偶然なるとこなんて特に」

「自動修復?」

「陛下とか幹部連中の意思の強さ考えたらどうなるかわかんなかったからね、しょうがないよ。シュタインの知識量も業腹だが僕よりあるからね。理解できなくて混乱しちゃうかも知れないだろ?だから自動修復とか自動制御とか色々付けてたんだ、まぁ制御はうまく働かなかったみたいだけどさ」

「シュタインという人物を恨んでるのでは?」

「今となっては正直に言うけどせいぜい失脚させてやろうって程度だよ、ハーツ完成させるのに力を借りたかったのは確か。実際僕だけじゃ無理だっただろうし」


 それでも嫉妬と自分の研究を軽んじ、批判された強い恨みはあるのだが……。

 なるべくそのような感情は出さずにエデソンは堂々と伝える。

 それくらい格好は付けたいのだ。


「なぜハーツという名前なのだ?」

「え?それ?どうでもよくない?」

「気になったからだ。まさかHeartsではないだろう?」

「え、そうだよ?こっちの言語に合わせたらバルサクも少しは混乱するかなって、日本に最初に来てたら多分ココロって名前にしてたよ」

「なんでまた……」

「だって最終的に人々がわかり合うには心と心が一つにならなきゃね、でしょ?」

「研究者とは思えないロマンチシズムだな」

「リアリズムだよ、心が1つになれば争いはなくなるじゃないか。少なくとも自分同士で殴り合うことはなくなるだろう?」


 そう言ってる時点で十分ロマンチストだよと思いつつもどう表現したらいいかわからない感情を口に出すのは憚られ鉄壁はただ優しい瞳で彼を見つめていた。


「何だい?初めて買ったおもちゃで遊ぶような子供を見る目はやめたまえ。これでも結構年取ってるんだぞ」

「いや、なんでもないさ」

「そうかい?まぁとにかくハーツは壊れちゃったから……陛下の力をほぼ失ってるとはいえ垂れ流し続けてるのは死んじゃうよってこと」

「ではどうするんだ?」

「どうしようかねぇ……どうすればいいんだろうねぇ……彼女達の置かれた立場を考えたらなんとかしてあげたいんだけど……僕ずっと彼女達には優しかったろ?これでも申し訳無さくらいはあるんだよ?」


 科学者として許可を得ない人体実験ってのは非道だしねと力なくつぶやくエデソン。


「では彼女達は死ぬしかないのか?」

「今はね、だから海外にも脱出できなんだよねぇ……死ぬってわかって捨ててくなんて君たちみたいじゃない?ほら前の大侵攻でぼろぼろになったときみたいにさ。助けてあげたいんだけどねぇ……どうすればいいんだろうねぇ……シュタインに渡せばあるいは、でもカイゼル議長、ああ、違う違う。元議長ね?彼のことががあるからねぇ……。シーザは率先して殺すんじゃないかなぁ……どうしようかなぁ……」

「……」

「だから彼女達には被害者になってもらおうかな」

「被害者?」

「まぁ今でも被害者か、ようは狂ってしまった地球防衛軍に改造された哀れな被害者になってもらうのさ」

「それは……」

「今更名誉なんて言わないよね?国守れなかったのにそれ大事?悪名は僕が背負ってあげるよ。いや、私が背負おう鉄壁君」


 その言葉に返す言葉もなく、絶句する鉄壁を見てエデソンは微笑んだ。


「敵の親玉やってる悪の科学者が死ぬってのはハッピーエンドっぽいだろ?」

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