第36話

「何があった!」

「わかりません!わかりませんが先生がなくなったのは確かです!」

「映せ!何があったかを監視していたのだろう!同時中継用に!何があったんだ!」


 混乱する幹部たちの命令で映し出されたのは恩師がピュアハーツに襲撃され、亡くなる映像。

 理解を拒む幹部たちの中で一番最初に立ち直ったのはシタッパーだった。


「報復です、皇帝名代の暗殺は報復するしかありません!」

「だが23区内は……」

「皇帝暗殺の可能性もあったのです!降伏と我々を騙してこのような手を……帝国軍に攻撃を!命令を!」

「宇宙艦隊、出力を絞り23区を消し飛ばすこと可能です!二度と誰も住めないかも知れませんが、少し範囲が広くなっても仕方ありません、そうでしょう?」

「騎士団、いつでも動けます」

「シーザは?流石に休暇続行というわけには」

「こちらに」


 気づかぬうちに皇帝の正面席に立っていたシーザは休暇切りあげの報告をし話し続ける。


「直ちに攻撃を、ただし日本政府所有の省庁などの施設のみに絞り東京都所属施設の攻撃は不可とします。要は霞が関を吹き飛ばします」

「…………良いのか?」

「東京都は降伏しました、騙し討ちをしたのは政府。そうですね?私は元老議員として、議長として、政治家として……降伏した相手を攻撃するべきではないと思っています。降伏しようとして攻撃する相手は別ですが」

「では、我々が……」

「いや、余が出よう。角が一番立たないだろうからな、カイゼルはシーザの……祖父で……私のほんとうの意味での教育係で……皆の……」

「個人としてはともかく今はこの地位にあります、どれほど腸が煮えくり返ろうが……優先すべきものは法と今までの経験。私の意見は変わりません」

「わかった、政府所有の建物を映せ」

「こちらに」


 皇帝は手をかざし、力をため、まるで丸めた紙をゴミ箱に捨てるような動作で光線弾を放った。

 瞬間、省庁、議事堂は吹き飛び、地球防衛軍本部も地下数階分が破壊されていた。

 多くの死者の中には施設の倒壊に巻き込まれた総理や、この惨状を生み出したケニー・アンダーソンも含まれていた。


「さぁ、仕上げだ……シーザ」

「演説の準備は整っております」

「……余か?」

「本来は降伏調印の予定だったのですから、まぁ今の霞ケ関が吹き飛ぶ光景は流してますよ」

「そうか……」





 5人は撤収し、地球防衛軍本部に来ていた。

 先ほど皇帝を襲撃したら別人だった、教育係とかなんとからしいと事をエデソンに伝えると最初は珍しいという顔をしていたシュタインは。


「やぁ、やってくれてたね……」


 と陰鬱顔に代わり、怯んだもののなぜこんな対応をされるのか気になった5人はそれぞれに質問を矢継ぎ早にしていった。


「命令でしょ?」

「皇帝を倒せば解決すると言ったではないですか!」

「結果的に皇帝やなかったけどな、情報が違うのはそっちの話やろ」

「失敗したらこっちのせい?もう力はスカスカよ」

「無責任ね~何をしてほしいの?」


 その言葉で困ったのはエデソンである。

 命令は出してはいない、鉄壁か?まさか、首相官邸にいる。いくらなんでも……そんなことに命を張っても意味なんてない。


「……待ってほしいな、誰の命令で?」

「地球防衛軍ケニー……なんだっけ?」

「ケニー・アンダーソンです」

「ああ、そうそうそれや」

「今の地球防衛軍は鉄壁くんしかいないよ、協力者の私とスーパーギャラクシーピュアロボの整備と改造担当くらいだ。誰だねそいつ?」

「「「「「えっ?」」」」」

「そもそもだね、降伏と呼び寄せて攻撃するのはこちらでも国際法だかで禁止だと思うんだけど……?知ってたかい?」

「そうなの?」

「いや……知りません」

「あるんか?そんなの……?」

「興味ない」

「なにそれ~」


 エデソンはすべてを諦めたように椅子に座りスーパーギャラクシーピュアロボを見上げた。

 案外最後の出番はすぐだったな。


 そう思ったのもつかの間、大きな揺れで思考を中断され、恐らくここが攻撃されたんだろうと思いモニターを付けた。


「ああ……そうなったね」


 的確に政府関係施設を攻撃さしているところを見るとシーザは戻ってきているらしい。祖父が殺されても冷静さを損なわないのは恐ろしいよ。

 これで武力があったら……。幹部の頂点に立っていただろう。


「なに……これは……」

「ひどい……」

「地獄や……」

「……」

「悲惨ね……」


 この後継を作り出したのは君たちなんだけどね、いや、巻き込んだ私が責任から逃げてはいけないな。

 まだ残る部下たちに整備改修を早めるように命令しエレベーター前で待機する。


 それから1分か、2分か。

 地球防衛軍長官鉄壁泰造が到着し、その青白くなった顔でこちらに寄ってくる。


「なぜ?」

「ケニー・アンダーソンからピュアハーツに命令があったそうだ、皇帝を攻撃しろってね」

「は?なぜ?そもそも地球防衛軍だったか?なぜ受け入れた?どういうことだ」

「そりゃ、文句だけ言う地球防衛軍の人間なんて彼女たちが覚えたいと思うかい?だから寄り付かなくなったのに」

「なぜだ……なぜ降伏するこちらが騙し討ちを……」

「国際法も戦争の常識も何も知らなかったよ?我々のじゃないよ、この星のだ。何を教えていたの?相手は特撮の怪人じゃないんだよ?降伏だって捕虜交換だってあるよ?まぁ我々が捕虜を取った記録がない当たりお察しだけどね、だから向こうも捕虜を取らないんだし」

「……これからどうなる?」

「滅ぶよ、数分前に政府施設はすべて破壊されたよ、霞が関だけは。この基地も地下数回分が破壊されたよ、良かったね独立系電気式リニアエレベーターで。いまは他の施設を潰してるんじゃないかな?いや、冷静だね。詰んだね。しかも皇帝と間違えて殺したのは隠居したとはいえそれ以前はたった一人の最高幹部だったといってもいい。皇帝教育係どころか幹部たちの教育係で、バルサク建国を主導した人間の一人。前の元老院議長にして現元老院議長の祖父。誰が許す?騙し討ちで殺して?君は許せるかい?この立場になった私でも許しがたいよ、カイゼル師父を騙し討ちで殺すだなんて……私でこれだ、幹部も皇帝も怒髪天を突いただろう、それもで虐殺になってないのはシーザ元老院議長が法に則って対処したからだろう。我々のような法を法と思わぬ外道にはなりたくないそうだ」


 彼にしてはヘラヘラ笑うエデソンを見て、本当に駄目なんだろうとなんとなく思ってしまった鉄壁は死んでおけばよかったと思った。

 後数分フラフラしてたら死ねたかも知れないのに、エレベーターに乗るのが遅れたら地下ごと消し飛んだかも知れないのに。


 そしてモニターにジャミングが走り皇帝の演説が始まった。

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