第25話

 あっという間に本土の大部分を失陥した日本、政府閣僚はドタバタと動き回りあらゆる書類の処分を始めていた。

 今更使えん地球防衛軍に期待することなどないと抗議も責任の追求でもなく放置を選び、鉄壁はそれを甘受していた。

 エデソンはそれを察して鉄壁の顔を見に来た。


「やあ博士、人員の大半はどこぞへ逃げたよ」

「まぁいいんじゃないか?政府からも大半が役立たずだと責められていただろうに」

「役に立ってた人間も去っていったよ、まぁ戦闘人員の大半は敵との境界に大半、後は飛び飛びで空挺強襲の迎撃に配置していた。ほぼ全滅だな。降伏したものも戻ってこないし交戦していたものは死んだ。今やこの基地本部に残る書類上の1万人、まぁ実際は3000人くらいかな?」

「それで?降伏交渉は?」

「政府がなんとかしてるだろう……地球防衛軍は外交権を剥奪された、元からなかったのを無理くりでそう見せてただけだ」

「一応伝えておくよ、ロボが出来た。名前は決めてないけどね、ピュアカイザーでもピュアエンペラーでもピュアキングでも好きにするといいよ」

「そもそも5人は戦えるのですか?」

「うーん厳しいねぇ……あの怪我と損傷では数年以内にハーツの力自体を失うね」

「では……」

「そうだね、一撃講和論でも出ない限りは大丈夫だと思うけど……たいていは現実より夢のほうが見やすいし届かないのに手を伸ばしやすいからね。諦めるしかないね」

「数年戦える態勢ではないですね、補給も何もかも……1年持ちませんよ……貿易を許されていても国内の占領下自体が売りたくないと言っているんですから……」

「帝国で売れてるらしいな……まぁ私も気に入ったものをよく仕入れているが、手に入らくなってきたな……じゃあどうする?」

「総攻撃までに講和交渉をしたいところです、私にはもう出来ないですが……首相官邸に連絡を入れても無視されてますね」

「そうかい……まぁこの体たらくではそうなるか、まっさきに防衛軍が逃げ始めたくらいだしね」


 短い会話で厭戦と国家の崩壊を肌で感じたエデソンは自分がいる国家が滅ぶ側になるなんて久々だなと思いながらピュアハーツにあることを尋ねることにした。




「完治おめでとう。率直に言うよ、その力は数年以内に枯渇するね。器にヒビが入っていると言うべきかな?数年で割れてハーツという力は消えてなくなるね。」

「「「「「……」」」」」

「もう女子高生に戻る?多分降伏で終わると思うしね。ただまぁここまで粘ったんだからどうなるかよくわからないな、一年以内に枯渇するけど出力を強化することが出来るよ?どっちがいい?緩やかに力をなくして女子高生をやるか、日本政府が降伏するまでの短い間だけ頑張るか」

「最後の仕事ね……いいよ、それで」

「ただ出撃するかどうかはこちらで決めます」

「女子高生より先に逃げるやつの命令なんて聞く気もないわな」

「これでおわりで……いいなら」

「最後の仕事ね~」

「じゃあ、出力を上げようか、いざというときは巨大ロボを出せるよ、コレが通らなかったら終わり。ロボが負けたらもう終わり、逃げていいよ。一度だけロボを改良出来るとは思う……でも……しないでね?まぁそれに合わせたら完治するには後数日だね……始めようか」




ピュアハーツ撃破後に増えた占領地を安定させるために一度進軍を停止した帝国側の軍勢は今日、侵攻を再開した。

それまでに削られた適応化部隊の補充、少なくとも前よりはマシな出来にはなったが人類側から適応化した場合は戦闘力の不安が大きかった。


「ヌ~メヌメヌメ!埼玉方面の制圧は順調ヌメ!シバッタワーはどうヌメ?」

「同じく、順調ヌメ!量産された怪人はあまり強くないものが多いロープ、強者は少しだけ。困ったものロープ」

「そこまでよ」


 歩道橋の上に立つのは5人の戦士。

 すべての力が消える前に、ただただ降伏までの時間稼ぎのために立ち上がった5人。


「この世の悪を焼き尽くす!灼熱業火!レッドハーツ!」

「邪悪な心を凍らせる!氷河凍土!ブルーハーツ!」

「大地の怒りを思い知れ!森羅万象!グリーンハーツ!」

「天空の怒りその身に宿せ!神罰神雷!イエローハーツ!」

「愛は世界を包み込む!博愛の女神!ピンクハーツ!」

「「「「「防衛戦隊ピュアハーツ!」」」」」


 強化された5人は力が尽きるまでの短い時間を戦いに燃やし尽くす。

 それは最後の時を少し遅らせるだけかもしれないが。


「たあっ!」

「アグッ!」

「ふん!」

「ケケー!」


 放出する技も制限がかかりピュアバズーカですら1日1回打てるかどうかまですり減ったが。

 まだ素手では戦えた。


「前より強くなってるな、お約束というやつか……いやそれでこそ、私が倒すべき敵にふさわしいヌメ!シバッタワー!」

「了解ロープ!緊縛攻撃!」

「甘い!」


 イエローハーツは飛んできた緊縛ロープを手刀で切断するとその勢いで緊縛星人シバッタワーを攻撃した。


「ぐぅっ……随分と強くなったものだな!」

「語尾を忘れてます、よ!」


 鳩尾への蹴りが入りシバッタワーは怯み、痛みから攻撃が緩む。


「今よ、散らすわ!」

「了解!」

「いくわよ~」

「「「「「ピュアバズーカ!」」」」」


 それでも、適応化した怪人は死なないはずだった。

 シュタインが間違った前提があるとはいえ再計算を重ね、本来よりも強化して叩き出した計算式と改良案。

 数年で消える能力を一年以内にすることで出力を数倍、数十倍、数百倍にしたそれに耐えられたものは


「やってくれたヌメね」

「まったく……厳しいロープ」


 2体だけだった。


「怪人が幹部ということでいいのかしら~?」

「まさか、幹部どころか指揮官ですらないヌメねぇ、幹部だったら傷も負ってないヌメよ」


 触手怪人ヌメヌメスの強がり、コレほど強化されても届くまいと言う確信。

 それはある意味では正しかった、この技ではここまで強化してもシタッパーどころか万全ならシュタインも仕留められはしないだろう。

 本人は死ぬと思っているのかもしれないが。


「夢が潰えたヌメねぇ……」

「まだ勝つかもしれないロープ、叶わぬ夢をつかめたんだからもう一度くらいつかめるロープ!」

「触手を生やしたい夢のほうが叶っただけでも重畳といえば重畳ヌメね」

「ならもう一声欲しくなるのが人情ってものロープ!人情って英語だとどうなるロープ?」

「無理に翻訳すると野暮になるよ、練習していた技やってみるか?」

「語尾を忘れてるロープ」

「「……やるか!」」


「やはり手強いですね……」

「一番最初の騎士団長さんだって強かったしね、今なのが量産されたら確かに勝てないわ~」

「少なくともあの2体を倒せば鈍るはず……」

「多分私達は数日は動けなくなるなぁ」

「後はもう威力勝負よ!いくわよ!」


「「緊縛触手!」」

「「「「「五光照覧!ピュアヘブン!」」」」」


 触手とロープがピュアヘブンと拮抗する。

 絵面は最悪の一言だが。


「これはダメそうヌメね……」

「威力が強いが拮抗したものはいないロープ、事前の説明では」

「じゃあ新しく生まれる弟たちに期待するしかないヌメね」

「元老院も適応化してるみたいだし先輩で弟を見られないのは残念ロープねぇ」

「この攻撃が抜かれると帝国軍の師団に直撃するヌメ、せめて反らすヌメよ!それくらいの恩はあるヌメ!」

「女性を縛れなかったのが心残りロープねぇ……」

「それを言うならこっちもヌメ!」

「「ああ~皇帝陛下相手にやりたかったヌメ(ロープ)ねぇ」」


 シーザ議長の代わりに元老院を取り仕切り占領地へ遊説していた皇帝は嫌な寒気を覚えていた中で2体の怪人は久々にピュアハーツのまともな必殺技で倒された。


 が、2体の皇帝の髪の毛を摂取した適応化はこれ以上にないほど良かったらしい。

 それはシュタインも予測していなかった現象を巻き起こした。


「ヌーメヌメヌメ!お約束の巨大化が出来るなんてさすがシュタイン博士ロープねぇ!合体まで自動でとても便利ヌメ!でも説明位はしてほしかったロープ!」




「え、なにそれ、知らん怖っ……」


 全員の予定の都合が合わず一人で観戦していたシュタインはすがる相手もおらずただただ驚愕してその光景を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る