第33話

「千葉県知事が殺害されたそうだ」

「はぁそれで?」

「動画サイトとSNSで降伏を呼びかけている」

「副知事が?」

「そうだ」


 なんとも馬鹿げた会話を会議で繰り広げる幹部たち。

 それで俺達にどうしろと?と言わんばかりの態度で流す。


「元老院の仕事でしょう」

「シーザは休暇を消化している」

「だろうね」

「したいと云うのなら好きにさせよ……」

「では、降伏ということで……」

「ん?……いや待てよ……?」

「どうした?シタッパーまた休暇でも取ってアキバにでも行くのか?」

「いえ、日本政府を降伏させなくても都知事が降伏したら終わるのでは?」

「……何がどういうシステムなんだ?」

「いや、都知事の権限と政府の権限て別じゃなかったんでしたっけ?」

「いや知らんが……?」

「知らないな」

「知らない」

「わからない」


 だよな、俺も前世でも知らんわ。そもそも東京住みじゃないし。

 でもやってみる勝ちはあるんじゃないか?省庁と行政がブチ切れればもう終わるんじゃないか?


「政府と交渉する気はないけど都知事とかだったら?」

「まぁ……元老院次第か?」

「流石に陛下次第では?」

「まぁそれならいいか、日本政府は潰す、これでいいだろう」

「いいのでは?」




 千葉県降伏、最前線で何度も激戦を繰り広げ、数多の都市を吹き飛ばされた県はここに下った。

 同時に都知事に降伏する気があるかを打診して承諾、政府は蚊帳の外だった。。

 せめてもの情だと日本政府が滅亡するための場を整えるよう伝えるのが都知事としては最後の仕事だった。


「それで、首相官邸に行けばいいわけか」

「まぁ滅亡ならいいでしょう、そもそも議員が逃げ出してダメダメですね」

「まぁ、行くだけだ、元老院に任せておけばいいだろう」

「それではいけませんよ」


 聞き覚えのある声に全員が振り向くとそこに立っていたのは老人、バルサク建国時に辣腕を振るい帝国にまで押し上げたシーザの祖父であるカイゼルである。

 全員が教え子であるため強くもでられず皇帝に全力で対応を投げた、何なら皇帝の言葉を遮ったら説教をされるかもしれないのだ。


「爺か、隠居したのではなかったか?」

「一応終身名誉議員ですよ」

「そういえばそんなものあったな、大抵は隠居してるから忘れていたわ。シーザはまだ休暇か?」

「最後のご奉公で私がでたくなったのですよ、建国と国家の安定を見届けられるなら本望です、どちらにせよもうすぐ死にますよ、10年かな?」

「いいとこ取りか」

「休暇取ってるようなやつが悪いんですよ、爺が働いて画面を専有するのをバカンス先で眺めてるといい」

「手厳しいですね」

「そうかな?シタッパーも……よくやってるな、宇宙でもそうだが……君の得意な戦いはなかったのにここまで頑張ってくれるとは」

「部下が頑張ってくれたので」

「相変わらず謙虚だな、悪ガキのクセに昔から謙虚だった」

「そうでしたっけ?」

「先生といいながら全く敬ってないクソガキだった」


 なんか急な思い出話で死亡フラグみたいな立てるのやめてくれないか?


「アッサー、君は……行き遅れたな……」

「うるさい!クソジジイ!」


 こんなアッサーそうは見れないな、なんだか昔を思い出す。


「ナポレーン、君は……」

「行き遅れたっていいたいんでしょう?」

「いや、立派に元帥をやっている。君の頑張りが帝国の安定化に繋がっている。よくやってくれた」

「先生!褒めるなら褒めると言ってください」

「私はなぜ褒めん!」

「調子に乗るから、お前のほうが正直クソガキだったしな……さてシュタイン……」

「……」

「……」

「……」

「そして陛下」

「……!」


 突っ込むかどうか悩んでるけど藪をつついて蛇を出したくないのか黙り込んだシュタイン。気持ちはわかる。


「ようやく、旅も終わりましたね……建国から何百年でしたっけ?まぁいいですな。これで……我々の平和がやってくる。あとは同化政策をして数百年後です。頼みますよ」

「ああ、わかった……そんな建国から短くないぞ」

「あれ?まぁ10年は生きますよ、必要なら出張りますから頑張ってください」

「体も弱ってるし最後の花道くらい用意してやるわ、余の代わりにサインしてこい」

「おや、陛下はよろしいのですかな?」

「正直顔もみたくないな」

「それでは外交はできませんぞ」

「どうせ処罰されるやつだ、会っても得るものはない」

「まぁ、そうでしょうがね……では、いってきます」


 それが俺達が先生を見た最後の時だった。






「日本政府が降伏するだと!」


 元アメリカ大使館駐在武官のケニー・アンダーソンは報告を聞いて激怒した。


「ふざけるな!最後まで戦うべきだろう!武士道はどうした!貴様らはアメリカの復興のために最後まで戦え、降伏条件にアメリカの再興はあるのか!」


 あるわけがない、そもそもアメリカは滅んでおり亡命政府ともいえない組織なのに上から目線で命令する彼らを煙たがり、権限がないと誰も会おうとはしなかった。


「地球防衛軍はどうした!」

「あれ以来ボロボロで使えませんね」

「役立たず共が!」

「皇帝が降伏文書のサインに訪れると」

「降伏するのか?よかろう!認めてやろうではないか!まずアメリカの復興と、バルサク宇宙帝国の全資産をアメリカに引き渡すことだ!認めてやるぞ!首相官邸に向かう!」


 明石海峡の戦闘で経験したこともない敗北をした彼は狂ってしまっていた、命からがら逃げてきたときには現実と妄想の区別がつかない人物となっていた。


「そうだ、皇帝を殺せばいいのだ!首相官邸に来るんだから狙えるではないか!地球防衛軍を動かせ!攻撃目標はバルサク宇宙帝国の車列だ」


 自分がいったことすら覚えていない狂人とかしたケニーはもはや腫れ物に触れるような部下に命令を下していく、彼らも行き場がないのだ。


「どうする?」

「どうせ無駄だ、直接行ったほうが早い」

「何を話している!」

「権限上の問題がありますアンダーソン駐在武官が直接地球防衛軍に指示を出したほうがいいかと」

「何を言ってる?私はそうすると言ったではないか!ではいってくる!」


 いくら末期とはいえ射殺されるんじゃないか?と思った部下たちは荷物をまとめて家に帰った。

 行き場がないとはいえ巻き込まれて死ぬのがゴメンだった、どうせ狂っているのだ、自分たちが関与したとも、してないとも言ったところで逃げられるだろう。

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