第34話

「アメリカ大使館駐在武官のケニー・アンダーソンだ、通せ!」


仮にアメリカ合衆国が存在していたとしても非礼を通り越した言動で新地球防衛軍本部を我が物顔で歩いていく。


先程の宣言は誰に向けたものか、無人の受付ロビーに響く声は廊下の奥へ吸い込まれていき消えていく。

監視カメラは停止して久しく、床には埃も積もっている。


「無礼者!案内は!これだから日本人は!」


勝手気ままに押し入った割にこうも文句を言うのは彼の生来の人間性か、それとも彼の心が壊れてるからか。


止まったエレベーターに激怒して階段を登っていくケニーはこの違和感にすら気が付くことはなく罵声を浴びせながらある階に着く。


本来であれば司令室であったそこは、やはり誰もいなかった。


いまや地下にいるエデソンと数人の隊員が暇つぶしに使う施設でしかなくなった。

数人の隊員で暇な人間がどこが攻撃されてるかをスマホのニュースで見てピュアハーツにSNSで連絡する。

もはや機能する場所は地下のそこだけ。


のはずだった。

司令部は別電源で運用していたため解約を忘れていた。そのため久々に、よりによって侵入者が司令部全域の電源をいれることになった。

司令室、情報室、様々な部屋の電源が入るが彼は司令室から動かさず、読めない漢字を眺めながら仕様が自国と同じ装置を動かしていく。


そして……。

EMERGENCYのけばけばしい色合いのウィンドウとCALLの文字を見たケニーは躊躇なく押した。





「これで終わりだね……」

「日本は滅亡しました」

「無駄だった気もするけど無駄やなかったかもしれん……最後ヒーローって勝つもんやないんか?」

「国民からしたらヒーローじゃなかったのよ、初戦使い捨ての娯楽に過ぎなかったんじゃない?」

「これでゆっくりねむれるわね~」


完全に擦れた黄田金恵をスルーしてコンビニの前でコーヒーを飲んで肉まんをかじる。メンバーは冬の訪れと終わりの訪れと肉まんを噛み締めながら一息つく。


ビービーと鳴る連絡装置を見て怪訝な顔をした後、応答ボタンを押す。


「こちら地球防衛軍ケニー・アンダーソン!何をしている!今すぐ皇帝を殺しにいけ!」


上から目線での意味不明な命令に困惑した5人は口々に文句をいうが狂人とかしたケニーは聞く耳を持たない。

ここでさらに失言のひとつでもすれば最近擦れきった黄田が腹を立てて切られただろうが……。


「皇帝が首相官邸に向かっている!ここで皇帝を倒せれば我々の勝利だ!」

「そんなうまくいくんですか?」

「帝国は皇帝が武力で支配し圧政を敷いている!皇帝が死ねば帝国は瓦解する!そして世界に平和が訪れる!」


なんとも民主的で西洋的で自由主義的な考えだろう、自分が帝政を支持するわけがないから連中は支持していない、支持しているのは狂人であり、圧政により言わされてるだけだと決めつけた考えである。

そもそも国によって政体が異なることも理解できず、言葉通りの政体である理由もないのだが。

ましてや宇宙の果の果てから来た国家が自分たちの価値観で図りきれて、なおかつ武力以外はすべてが下回っていると決めつけているあたり。彼が母国から、上司から、同僚たちから、部下からも見捨てられた理由もわかる。


「そうなのかな?」

「正義と民主主義のために戦うのがピュアハーツだろう!」

「別に民主主義のために戦ってるわけないんだけど」

「圧政国家を倒さねば未来はない!首相官邸に向かう皇帝を討て!これは命令だ!」


言うことを言えば切ってしまう。残された5人は顔を見合わせ命令なら仕方がないと首相官邸に向かう。


彼女たちは戦争犯罪も国際法も知らない。

だからこそいいのかと思っても命令が出た限りでは行くしかないんだろうと思った。

こうして、終わりの始まりは終わりの終わりへ向かっていった。




「さて、絞首台の時間だな」

「そう決まったわけでは……」

「みたまえ、私と君以外は誰もいない、首相官邸の椅子は座りたい放題だ。事務員も警備員もいない。せいぜい二階から皇帝を見下ろすくらいしか意趣返しが出来ない」

「……」


せせこましい行動と取るか、最後にやり返したと自尊心を満足させるか。

鉄壁は何も言い出せずにいた。


「終わったら毒でも飲もうか」

「総理……」

「ジョークだよ、残念ながら持ってない、拳銃があったら貸してくれ」

「……」

「ジョークだよ!笑いたまえ!」


笑えるか!


鉄壁の内心はさておき総理はヘラヘラと笑いながらウィスキーを飲む。

もうシラフでは精神を保てないのは政府で働く人間は皆同じであろう。

なにせ1時間もすれば国が消えるのだから、下手すれば他の国よりひどいことになるかもしれない。

下っ端の政府職員などよく仕事場に来たものである。


政府が貸し出した専用車が向かってるのが見える。

これで終わるのだ。国も自分も何もかもが……。


「ん?」

「どうしましたか」

「鉄壁君、あれは……?」


そう言われて鉄壁が見たのは車の前に立ちはだかった5人がピュアヘブンで車を消し飛ばした光景だった。

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