第48話

「ほぉら鉄壁くん!じゃなかった峰くん!シャンパンタワーだ!ドンペリだよ!もっと高い酒もあるから好きに作ってすき飲んですきに壊してしまおう!さぁさぁ!飲み給え!食べ給え!出張板前にシェフも完備してるよ!寿司でもステーキでもフランス料理だろうとパスタだろうと、シスコーンだろうと好きに食べるといい!」


 どうしてこうなった……?

 頭にネクタイを巻き付け、シャツは酒にまみれた鉄壁こと副社長の峰スチールウォールはこの1月の激動の生活を振り返る。

 金で無人島を買い漁り、マンションを買い漁り、住民は家賃半額をエサに臣民化させていく。

 そして、スーパーギャラクシーピュアロボ改造のため土地を転がし莫大な利益を上げていった。


「我が社の利益は最高だね!いやーバルサクの一般臣民が会社参入してるから隠れ蓑にしてはちょうどいいよ、ウチバルサク宇宙帝国そもそも税金とかないんだけど移行期間中は現地の元の法律を維持することっていうから会計は大変だよね!その分のお給料は弾んでるし大丈夫でしょ!さぁ飲もう!」


 そもそも5人は今年まで持たないんだろうに……。


「まぁ知ったことではないよね!ほら空いた土地を海外でも……いやもうバルサク宇宙帝国だから同一国家ないで国内の土地売買だったな!買い漁ってくれよ!!」

「わかりました博士!」


 地球防衛軍のエデソンの助手だった人間もなんだか社長秘書みたいで本職がなんだかかんだかわかんなくなってるな。

 彼らも適当な偽名を名乗り土地ころがしや売り込みを行ってお前本筋なんだよという感じになっている。ドサクサに紛れて地球防衛軍の物資横流しにして来たらしい。

 まぁ、知ったことではないな。


限りなく少なった冷静な部分が、よく考えたら今の自分には関係がないと鉄壁の考えに同調して消える。


「人類共同体国家株式会社万歳!」

「さぁ峰副社長、そんな仏頂面で立ってないでアルバート社長が呼んでますよ!」


 エデソンの助手の一人にそんな言葉と聞いたことがあるようなお高いシャンパンを頭からかけられながら手を引かれ、エデソンの元につれて行かれる。

 こいつ、野球のビールかけ感覚だな。普通の企業はしないだろ。多分だが……。

 あいにくと普通の企業を知らない鉄壁は実際無礼講だとこういうものなのかもしれないと文句言うのを辞めてエデソンことアルバート社長の元へ向かう。


「峰くぅん!見たまえ!1月で年商30兆円だよ!いやーうまくいくものだねぇ!我が国家は上々だ!これからも争いなく平和な世を作ろうではないか!」

「はぁ……。あの社長?」

「どうしたんだい?お土産なら部屋にあるよ、君の欲しがってたスイスのなんだかかんだかで変な名前の時計買っておいたよ。デイナイト・ナイトタイムみたいな感じのやつ、デジタルでいいと思うんだけどねぇ、まぁ趣味だからあんま言わないけどさぁ~」

「えっ!本当ですか!」

「もちろんだよ!我が国の、じゃないや、我が社の利益を考えたらあんなものは所詮はした金さ!バルサクの技術部門が本気で作ったらどうせ暴落は見えてるからね、今のうちに結構買っておいたのさ」

「アンティークとしてなんで暴落はどうでもいいですね!」

「流石!我が右腕!趣味に生きるってのはいいことだと思うよ!これからもよろしく頼むよ!」

「もちろんです!じゃんじゃん稼ぎましょう!」


 世界の食や文化に関心を寄せるバルサク宇宙帝国臣民、それを把握しているエデソン。

 そしてバルサク臣民も兵士としての仕事よりも休みのほうが増えたため起業したり、趣味を見つけたりいろんなことに手を出すようになった。

 そこに目をつけたエデソンは土地ころがしの利益でバルサク宇宙帝国の受けが良さそうなものを優先的におさえ、その会社の株式を買い漁り、彼らが求めるものを提供し続けた。

 主な顧客は帝国臣民である、いずれ統合されたら生活の維持が第一で何をするにも金銭がいらないということになるかもしれない。

 だからこそ気楽に臣民たちも起業に手を出し失敗したり成功してもまぁ兵士に戻ればいいだろと気楽に考えている。

 何と言っても兵士によってはほぼ無給であった分、数百年分の地球換算した給金を自由に使っていいというので総じて臣民は地球目線では全員金持ちである。

 だからこそこの1ヶ月でこれほどの利益を上げたわけではあるが。

 物価の変動に関しても食料さえ供給できればどうでもいいだろうという雑な判断をしたのはまだ大きな戦いがあるというシーザの判断だ。


 なにか重要なことを言おうとした鉄壁は自分の好きな時計が貰えると知ってすっぽ抜けたのかそれとも頭から酒をかけられ続けて酔ってしまったのか、翌日まで思い出すことはなかった。


 彼が聞きたかったのは計画の実行はいつかという非常に重要な問題だ。

 欲しがっていた時計が10個ほど並べられた部屋でそれを腕にしながらニヤニヤ眺めている彼もまた浮かれているのかもしれない。


 なお、鉄壁の実家では妻子が彼の行方不明に心を痛めていたが、この時のパーティーの模様がお昼のニュースで少しだけ流れると2人が激怒した。

 なお、バルサク幹部陣はそれぞれ仕事で外していたので、大はしゃぎするエデソンと放心から小躍りを始めた元新地球防衛軍長官を見ていない。

 見ていてもさすがにこうも堂々とパーティーなんかせんだろの鶴の一声で無視されたと思われるが。

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