第50話

「やぁ、久しぶりだね」

「エデソン博士?」


 気さくに赤井紅子に話しかけるエデソンは彼女の困惑に気が付かず、あるいは無視をして話を続ける。


「みんないる?」

「え、ええ。多分みんな部屋にいます」

「集めてもらえる?いや~時間がかかっちゃってね……。間に合ってよかったよ。お土産あるけどどうする?お昼前なら食べようか?」

「え、お土産なんですか?」

「てっちり」

「てっちり?ってなんですか?」

「えっ?フグ」

「フグって食べたら死ぬんじゃないですか!?」

「いや、毒のないところを食べても死なないよ!?」

「でもお父さんとお母さんが」

「え?……ああ、そうか高いもんな」


 家庭の懐事情を察したエデソンは口を挟むのを止めて、とにかく呼んできてねと紅子に頼んだ。




「博士、何があったんですか」

「エデソン博士じゃない~。私達を捨てて何やってたの~?」

「微妙に刺さる物言いはやめてくれないかね?」

「な、何かあったんですか?」

「東京にでも移動するんか?宇都宮はもうすることがないしな」

「うーん、とりあえず……ご飯にしようか」


 材料を見せて?を浮かべる中で緑谷山葵だけがしゃあっ!ええもんや!やったで!と周りが引くほど狂喜乱舞していた。




「率直に言うとね」


 鍋をつまみながらエデソンが語りかける。

 そのことに5人はパクパクと食べるのをやめてエデソンを見た。


「いや、別に食べながらでもいいよ……。そこまでおなかすいてるとは思わなかったけど……」

「なんかずっといつもちょっとお腹すいてるんです」

「正直、空腹が耐え難いところがあります。夜は食べるものがないので買いだめをしないといけませんし」

「最近は街も歩きづらいしな」

「は、配達を大量にして複数の、複数の会社を使ってます……」

「夜食は美容の点的なんだけど~なんかちょっと痩せてるのよね~」

「……そうか、もうそこまで……来たか……。もう少し持つと思ったんだけどね……。本当は隠そうかとも思ったんだけどさ、気が重いけど言うしかないね」


 エデソンも箸をおいて絞り出すような声で一人ひとりの名前を呼び、僅かな間であるが眼をを閉じて話し始めた。


「率直に言うけど……君らのハーツのエネルギーが枯渇してしまうと、死んでしまうんだ。魂という器とくっついてるからね。こちらだと君たちの研究に合わせると脳みそかもしれないけど、まぁ魂でも脳みそでも言葉遊びに過ぎないからいいんだけど。心とだけわかればいいよ」


 慌てふためき、口々にいろんな言葉を言う5人の声をなだめてエデソンは続ける。鉄壁ではこうはいかなかっただろう。彼女たちの味方をしていたエデソンは君たちを救いたいと紳士に語りかけて続ける。


「君たちのハーツは、壊れている。議長と戦ったときが最後のひと押しだったんだね。現状は……いわば穴の空いたコップだね。莫大な力が漏れていく、それ自体はいいんだよ。元から君たちの力ではなかったから」

「え、でもハーツは……」

「ハーツ自体はいいんだよ、あの力の源はハーツではないんだ。ハーツがなんなのかの話聞きたい?」

「いえ、そこまで」


 さて、詰みの告白をしようという心持ちでいたエデソンの問いは青田碧にバッサリと切り捨てられた。


「ウチも別にええわ。それ入った当初も説明されたけど」

「わ、私達の……生きられることに関係があるんですか……?」

「まったくないわね~」


 続く3人の追撃でエデソンは呆気にとられて紅子を見た。

 その視線に気がついた紅子はおずおずと声を出す。


「え、私聞きたいけど……」

「紅子、死ぬかどうかの瀬戸際でハーツの話はどうでもいいでしょう?大事なことはどうしたら生きることができるのかです」

「今更これが何であるかなんて知ったところでどうにかなるわけやないやろ、理解したら助かるんか?これがたこ焼きだろうが戦艦だろうが何も変わらんわ。ウチらがスマホの構造わかったからってスマホ直せるわけやないやろ?」

「わからなくても修理に出せばいい話よ~。スマホが何かなんて興味ないわ~」

「その説明をしないと支障があるなら聞きます……。ないなら難しい機械の話はわからないから……いいです……」

「あ、うん。わかった、そうだね」


 あっさりと折れた紅子を見たエデソンはため息混じりだ。


「自分たちの命をスマホの修理感覚で考えられるとはね……。戦争が悪いのかな……?壊れたし最新機種にしたい、買い換えればいいとか言わないだけい良いのか。あと、ここ僕の話を聞いて前半パートと終わるところだよ?近頃の子って冷めてるね、むしろ現実を直視してるから?」

「え?新しい体になって助かる方法あるならそっちもでええで?まず体の注文やけど絶対に太らなくして……」

「移し替えは流石に分野外だね!」

「それに魔法少女になるのに理由はいらないと言うか……」

「そのあとサッカー部のイケメンと仲良くなれるかのほうがだいたい重要な方が多かったり……」

「実際……選ばれた理由なんてあんまり興味ない、みんながいるから……」

「それにその流れだったら後半パートで勝てるわよ~」

「まぁ、正直勝てないんだけどね……。次を最後の戦いにする。君達は戦わなくていいんだ、むしろいてくれさえすればいい」

「勝てないんですか!いや、まぁ……あの人は皇帝じゃなかったですものね」

「むしろ病気で弱ってたあの人に勝てたのはすごいとは思うよ、それでも辛勝だったけど。皇帝陛下たちの教育係だった人だしね。建国時に活躍したすごく、すっごぉく偉い人。だから人死が日常茶飯事のバルサクでも恨まれてると思うよ」


 本当によく勝てたなぁと思いながらエデソンは5人に話し続けた。


「君たちはロボに乗ってるだけでいいんだ。後は合図したらここに転移すればいい。それだけ」

「戦わないんでいいですね?」

「もちろん、これが終わったら平和に学生をやるといいよ。必ず、死なせはしない」


 碧の念押しにあっさりとエデソンは答える。


「結局~何をすればいいの~?何があればいいの~?」

「皇帝陛下に来ていただき戦う、それでいい。負けてもいいんだ、むしろ負けるね。それで君たちはどうにかなる」

「博士たちは?それに相手がバルサクなら私達も……」

「君等の顔は割れてないよ。だから命を狙われたりはしない、いや、どうなっても狙わせない。それに今の君たちが戦ったらそれこそ戦死しちゃおうよ、ただロボに乗ってそこにいるだけでいいんだ。ロボを動かすのに少しだけ君たちの力を借りる感じかな。バルサクの統治下は結構いいと思うよ、政治でしくじったことは私の知る限りない、安心して平和を過ごすといい。戦争は終わりだ、元いた生活に戻ろう」


 戦いに巻き込んでこれでは怒られるかなと思ったエデソンはあっさりと了承した5人に謎の違和感を覚えたものの納得してくれるならいいか、これも命がかかっているからかなと思い、てっちり鍋の材料を追加で投入した。

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