第15話

「もういやだ!」


 その言葉は5人が言い出したかった、誰かが言い出さないかと顔色をうかがい続けた言葉である。普段はこの手の発言を真っ先に言い出さない黄田金恵の言葉は重かった。


「ウチも、もう眠くてたまらん。学校もほとんど行ってへん。これ日本だけ守られてもお先真っ暗やろ」

「私も……これはもう協力の範囲外だよ。自分たちを犠牲にしてまで得るものなんてあるの?」

「紅子の言うとおりよ~私ももう自分が苦しむくらいなら国くらい滅びてもいいじゃない。女子高生5人に国家の命運背負わせて皆は何をやっているの?」


 救援要請が来るたびに日本の端から端まで、青森から兵庫の手前まで言ったり来たりである。早朝深夜と限りなく振り回されて戻れば睡眠、即座に起こされ感謝もなければ国が滅ぶかどうかなんだから当たり前だろうという対応。

 自分たちでどうにもならないくせに他人に任せて不満を漏らす人間の汚さ、本来なら同年代の人間の対応で知るそれを、彼女たちは大人たちにされていた。


「占領地の報道はあるけど敵対行為をしなければとくに何もされてないですね、まぁ地球防衛軍はプロパガンダだと喧伝してますが……SNSでも占領地の人間が普通に発信してますね、不満もありますけど……すくなくとも食糧問題やいきなり隣人が捕まるみたいなことはないみたいですね、海外では反バルサク帝国組織がテロを計画して捕まった話がありますけど、武力抗議ではない理由で釈放されてる事例もあるみたいですね」

「皇帝のファンBotがアメリカにあるのはおかしくない?あれだけされて」

「男の考えることなんか知らんわ!日本でもあるわそんなもん!幹部Botがいっぱい!」


 考えれば考えるほど自分たちが身体と精神をすり減らしてまで戦う理由が見出だせなかった。何故このようなことをしてまで続けなければならないのか?


「少なくとも……人類は守られていますね……」


 青田碧のつぶやきに誰も返答をせず、ただただ空気は重くなり、口は重くなり……気分も重くなっていく。


「そもそもさ、アメリカみたいになるなら最初からやらない?新地球防衛軍の本部知らないのかな?」

「SNSでチクっちゃう~?」

「そもそもなんでいまだに運営されてるんだろうね、SNSとか動画サイト」

「確かに……なんでやろな、向こう側もゲーム実況とか料理動画とか見てるん?」

「あのきつそうな元帥の人とか猫動画で癒やされてそう」


 女子高生的な明るい会話になるものの別に気は晴れず、ただただ同年代の子供達が教室の休み時間に話すような内容をおしゃべりしていた。

 余裕があるのではなく、余裕があるように自分を騙しているのだ、少しでも余裕があると思いたいから。

 どうせ、次に出撃要請があればこの時間も終わりだ。自分たちはそこら中に転移して何時間もピュアバズーカを撃つだけの機械に過ぎないのだ。


「一応敵の幹部は倒せたよね、シタッパー提督」

「エデソン博士は倒せていたのなら日本は滅んでいるから生きていると言ってましたが……」

「まぁ、どうでもええやろ。あのクソ長官が敵提督をウチ等が倒したって公表しようとして無駄にプレッシャーかけようとしてたし」

「エデソン博士に指摘されてたもんね~」

「なんか他の幹部と恋の鞘当てしてるらしいよ、エデソン博士が言ってた」

「突出したイケメンがいないんですね、バルサク宇宙帝国」


 そして今日もバルサク宇宙帝国の全世界同時中継が始まる。


「ごきげんよう、皆さん。今日は幹部陣が休暇中なので私ネイロが担当いたします。バルサク宇宙帝国元老院で議員をやっています。よろしくお願いします。まず日本西部の戦況ですが……」


 つらつらとただ読み上げるだけの放送、幹部陣であればもう少し色々手法を凝らすのであるが皇帝は忙しく、議長も忙しく、シタッパーは滅多にやらず、よくやる2人は休暇中である。シュタインは消去法で選ばれるがそれどころではない。

 単純に地球基準でも美人だしこいつでいいかと任されただけである。


「みごとに占領地関係では嘘はないですね、ピュアバズーカで出た被害まで伝えてますけど、ああ、私達が撃退した後奪還されたんですね……あの態度で口程にもない……」

「ほんとはもっと犠牲が多かったんちゃう?流石に」

「司令官級の戦死は伏せてそうよね~」

「でも攻撃は続いてるから本当にたいして戦果がないのかも……」


「えー北部方面司令官コステロ上級大将です、新地球防衛軍が何度か攻撃をしかけてきますが全て撃退に成功しており、元帥は規定の休暇の消化をしています」


 疲労に寄る休暇を規定の消化と嘘をつき優勢をアピールするコステロ上級大将のインタビューが流れる。たまに放送することがないと流れる尺稼ぎである。バルサク宇宙帝国は何故か丁寧に規定時間の放送を続けている。


 不定期放送もあるがスペインの議員と占領下のフランスを巡ろう!みたいなよくわからないプロパガンダ番組をやっていることもある。護衛されたスペイン議員が睨みつける市民に他人の土地で核を使うクセに裏切り者扱いしてるあたりろくでもないやつらだと暴言を吐いたり、フランス側が率先して降伏しようとした話を一緒にいた元老院の人間が話したりとどちらかといえばスペインが作らせたような番組だった。


 政府は解体されバルサク宇宙帝国側の統治は始まっているものの、別段元政治家たちを捉えることも起訴することもなくスペインが正しく裁くだろうと丸投げしてるようだ。あくまで放送の話ではだが。


「あっちは休暇があるんか、うらやましいわ……」

「休憩もろくにないよ……ロシアの永久凍土を住める土地にしてるんだって」

「南極もなんかやってたわね~入植してるとかなんとか」

「明日はアメリカのフライドチキン食べ歩きだそうです、幹部陣がでない中継だとなんで夕方の情報番組みたいなことをしてるんでしょうね?日に日にバラエテイよりになってる気が……」

「プロパガンダだって、なんかスペインとかカナダがテコ入れしてるとか、幹部陣が決めてるとか」

「向こうは片手間で戦争してるんやなぁ……」



「もう……もういいんじゃないかな?無駄だったんだよ……」


 最初にいやだと発言してから一言も話さなかった黄田金恵が口を開く。


「これだけやっても向こうは何も感じてない、プロパガンダでもなんでも……勝てないよ……今日はまだ出撃がないけど……向こうは休暇だからでしょ?私達は……?」


 幸か不幸か、バルサク宇宙帝国の最低でも30分はなんかやったほうがいいなという初期にとりあえず決めた規定は最初期や緊急を除いて継続し、今では1時間から2時間の放送をするようになった。

 占領地ではテレビのない地域でも受けが良く、ネットの反応も幹部の通常放送よりいない時の脱線するような話のほうが受けが良いので幹部が出ると今日はハズレ回かもとまで言われる始末である。


 いまではバルサク宇宙帝国の担当者が地球の娯楽を研究してそれに合わせた番組を撮影したり企画をしたりしている。戦中なので配慮は必要だろうといろいろ頑張っているが基本的に最前線にいく立場ではまだないので暇だった。

 いずれは軍人や元老院がバラエティ番組や漫才やコントをし始めるのかもしれない。


 シタッパーがどうせなら向こうの士気を折るような放送にした方が良い、との発言で戦況放送を始めたものの、シーザの娯楽は統治に必須という意見が合体した結果である。

 結果的にこの放送は数カ月かけてピュアハーツの心を折ることには成功した。


 そして一部元老院の息抜きと一部元老院の疲労を貯めることにも。

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