第22話
「それで?当初の予定では500人程度だったはずだが?」
「いや、気がついたら1000人を越えてまして……そんなに投与したかな?」
皇帝の質問に対して困惑しながら返すシュタイン博士。
皇帝もコイツも疲れてるわと思い深くは聞かなかった。
実際、皇帝の髪を投与……もとい食した上で改造手術を受けたのは500人もいない。
強化されれば満足と手術を受けなかったものもいる。
強化はされなかったし手術も受けなかったもの。
この2パターンがあるからだ。
では何故この数になったかといえば多くの人間が勝手に改造手術をしたからに他ならない。
途中から門戸を拡大されたことが大きく、改造手術ついでに力が手に入ると旧人類も臣民も参加して改造手術だけ受けたのである。
髪の毛なんて食べたくないなと土壇場で辞めていたのだ。
結果としてやたらと猫になりたがる人間や犬になりたがる人間など動物になりたがるもの、悪魔のようになるものと多岐多様にわたり三軍に配属された。
ここで大事なのだが半数はピュアバズーカへの適応能力がないのである。
そのうえで人類側から応募された怪人や適応者は戦闘能力もない。
その上で言うなら適応した上で強化されたのにピュアハーツ相手では能力が不足している怪人たちも多く純粋な戦力として数えられる怪人は正直10体いるかどうかである。
「あと猫獣人とか犬獣人とかの数が多いのは何故だ?」
「さぁ?名前が被ってたりするんですけど理由までは……」
「メジャーなのか?その名前?」
「そうなんじゃないですかね?」
「まぁ各軍に割り振ったしなんとかなるだろう、ピュアバズーカさえ阻止できればあとはやりようがあるだろう。弱かろうと主要な場所の占拠くらいは……」
できない、半数はただの改造人間である。
改造を整形程度だと思ってきた人間が大半である。
生粋の帝国臣民もいるが流石に一人では手が回らない。
現状任務についていないものを優先しており、要は最前線で戦うのに劣る人材だったのである。
「失礼します、日本政府側から動きがありました」
「……我々のピュアハーツ対策が漏れたか?」
「いえ、問題ないかと。漏れたところで1000人もいれば問題ありますまい」
シーザの報告を聞いた上で若干の慢心。
もっともそれはすぐに覆されるのだが。
「続けます、北海道地区や九州地区、四国地区に接触がありました。一応会談を持ちたいとかですが……うまくまとまっていないようです、地区自体が日本政府への不信感があるのかどうも不思議でして……」
「それぞれ違うということか?」
「ええ、会談したい、講和したい、交渉がしたいと地区ごとにバラバラですね」
「まぁ最低限でも会談はいいだろう、一応話をまとめて……」
ピーピーと緊急連絡の音が鳴り響く。
シュタインが指を鳴らしモニターを出現させる。
紛うことなき地球防衛軍の攻撃である。
四国地方への攻撃、現場からの報告がそれを示している。
「罠だったな。シーザ」
「やられましたね……四国からは講和に関する連絡だったのですが」
「油断を誘ったわけだ、奇襲は得意のようだな。前はそれで負けたようなものだろうに」
「休暇明けのシタッパーも疲れただろうな」
「まだ休暇明けではありませんよ、海兵隊総司令官マリンが指揮を取ってます」
そこからは特筆することはない。
シタッパーの休暇中に海兵隊を動かすマリンが独自判断で一般民衆に擬態させた臣民を蜂起させつつ、地球防衛軍を撃退した。
「まぁ、ここまでだな……そろそろくるぞ」
「なにか変ですね?地球防衛軍の動きがもたついていると言うか……ピュアハーツが遅いですね」
「むこうも休暇中か?休暇中に攻めてくるものか?」
「ピュアハーツの動きを掴まれてると思ってあえて休暇中のときに攻撃したとか?別戦線で動きはありませんね」
「なるほど、日本政府の各地区への橋渡しもその罠の一環か」
「もたついてるのも罠か、青森は?攻撃を開始しているのか?騎士団は?」
「帝国軍は適応者たちを軍先頭にして進行を開始したようです、騎士団は降下作戦を決行。静岡から新潟にかけて大規模な空挺降下を適応者を配置して実施するとのこと」
「これでチェックメイトか?ん?四国から逃げてる奴らは何をして……」
明石海峡大橋が落ちる瞬間を見た皇帝、シーザ、シュタインはあっけにとられていた。
何故そのようなことを?
橋が落ちても海兵隊には無意味なのに?帝国兵でも無意味なのに?
「あやつらは何をしているのだ?」
「さぁ……?戦略的なことや戦術的なことはちょっと……政治的に見るなら我々が落としたことにしたいのでは?」
「すぐに復旧できるだろう?あの程度の橋は」
「もちろんです、バルサク宇宙帝国の技術を持ってすれば数時間で終わります」
「侵攻を進めてますね、ずいぶん早い。この間に大規模に各都市に潜伏させてたようですね、ピュアバズーカに怯えながら村一つ奪い取ってた頃とは大違いです。そろそろ非難声明を出しますか?」
「任せる、シーザ」
玉座の間で一人で演説するの嫌だなぁ……。
流石に陛下がやってくれないかなと思うものの政治的非難や内情は自分がやったほうがいいしなぁと気が滅入る。
「5,4,3」
陛下がカウントするのか……。
シュタインがカメラか……豪勢だな…‥。
「1,0」
「ごきげんよう諸君、バルサク宇宙帝国元老院議長シーザである。我々はいま地球防衛軍から攻撃を受けている、講和の会談を持ちたいと日本政府が持ちかけた直後にだ。四国地区、北海道地区、九州地区、沖縄地区にも交渉の話し合いがあると伝えられた、そして先ほど皇帝陛下の前向きな発言があり元老院議会で交渉をすることが可決された」
嘘である、皇帝の言葉を受け元老院議会に図る寸前だっただけだ。
もっとも皆が皆このくだらない戦争に辟易してるので可決されることは間違いないのだが。
「だがしかし、その直後に明石海峡大橋から地球防衛軍が侵攻し我々に撃退された。日本政府はこのような交渉をちらつかせ油断を誘い奇襲攻撃をしてきたのだ。卑劣で卑怯で姑息な連中だ。そのうえでこちらを見て欲しい。明石海峡大橋だ、この橋を地球防衛軍敗残兵が、爆破して撤退した。最も指揮系統はしっかりしていたようだが……敗残兵と言うには適切で統制の取れた行動だ。立派だな、日本政府は徹底的な交戦を望むことを我々は理解した。アメリカ合衆国のように徹底的に戦うと。相手を騙し奇襲し併合地域はもはや日本ではないと犠牲を厭わないわけだ。我々は最終的手段を持って交戦している日本地域を海に戻すことも考えねばらない。日本政府統治下にある地域は判断するべき時が来たのだ。懸命な判断を求む。バルサク宇宙帝国万歳!」
「マジ?」
休暇中の俺はアキバで買い物をしていたのだが、シーザが演説する緊急中継を見てとんでもないことになってしまったと思った。
とっとと指揮に戻らないとまずい!休暇中はよほどのことでなければ連絡が来ないから俺はアキバで紙袋を抱えて大慌てだ。
これよほどのことだろ!
マリンがまた総司令部の面子を連れて前線を荒らし始めてるかもしれない。
何よりまずいのはピュアハーツ迎撃だ、シュタインから割り振られた部隊の指揮は俺にしかない。
マリンがピュアバズーカで飛ばされたら終わりだ。
たとえ無傷でもまずいものはまずい!
短い休暇だったな……。
帝国技術力だじゃ敵地でも転移できることが救いだ、向こうは敵地には飛べないからな。
なるべく占領地域を増やして動きを鈍化させる必要がある。
「いま来た、状況報告!」
「シタッパー提督、休暇中では?」
「切り上げてきた。それどころではあるまい?ピュアハーツは?どこだ。適応部隊を出せ!俺の指示でしか動かせん」
「まだピュアハーツがいません!」
「別戦線か?」
「青森戦線では見かけないとこのと、すでに南下して秋田方面まで制圧完了したとのこと。騎士団も降下作戦が成功したので周辺を制圧しにかかったとのことです」
「降下範囲は?」
「静岡から新潟ラインです」
「そんなにか……いや、後手に回るわけに配はいかん、適応部隊を出せ!どこに来ても対応できるようにしろ!」
「はっ!」
それにしても猫獣人多くねぇか?一般隊員みたいな枠か?猫怪人かもしれないけどさ。
怪人もなんか弱そうだし……。
「また……?最近はなかったのに……敵は休暇終わったんだね。いや、休暇中にこっちが攻撃したのかな?」
「しかし出撃連絡がありませんね……?」
「壊れたか?まぁええやろ、ほっとこほっとこ」
「い、いやだよ、また地球防衛軍が勝手に面倒事起こしただけじゃない!」
「そうね~どうでもいいわね」
5人はやる気がなく、ただ演説を眺めて戦地の状況を見ていた。
赤井紅子は紙袋を抱えて呆然としていた何処か見覚えのある男を一瞥しため息を付いた。
せっかく平和になると思ったら政府がひっくり返したんだもんね、そりゃ大人も嫌になるよね。
もう一度見ると彼の姿は消えていた、逃げたのかもしれない。
「京都陥落やって」
「いけ好かんからちょうどええわ、大阪を見下しとる」
「でも占領地って発展してるらしいよ?」
「ピュアバズーカ打ち込んだるか」
次々流れる陥落情報にコーヒーが喉を通らなくなっていく。
和歌山方面陥落。奈良県知事降伏宣言。石川県陥落。
「私達が出ないとこうも脆かったんだね、この国も地球防衛軍も」
「たかだか10代の5人に背負わせるような国なんて大した価値はないでしょう」
「得るものもないしな~」
「苦労だけしかないもん……」
「これで終~」
滋賀方面継戦中の文字を見て覚悟を決める。
静岡方面も落ちたらしい、長野は継戦中で山梨は陥落。
絶望的ね。
「いこうか、関東だけ残ってもしょうがないよ、ピュアバズーカをちゃっちゃと撃って帰ろう」
「そうですね……」
「まぁ故郷が占領されてるのも嫌やしな、いや良い方になるんか……悩むな……」
「すぐ帰ろう、防衛軍なんてどうでもいいよ」
「もちろんよ~」
ピュアハーツもいつもの惰性。
初手ピュアバズーアカを打ち込んで終わり。
その考えが負けを生むと言いたいが、なくても負けていただろう。
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