第23話
「どういうことだ?」
答えの帰ってこない質問を俺は問いかける。
案の定誰も答えられない。
頼りになる奴らは好機と最前線に突出して都市を占領し、見苦しいほどの戦列……いや、もう散兵が勝手に重要地を占領しているだけだな。
「通信入りました!第14海兵師団!旧45海兵師団第3中隊です!」
「なんだ?言え」
「映像映します!」
「旧45海兵師団第3中隊オベランゼ中尉です!奈良県知事が降伏を申し出ています!地球防衛軍の罠だった場合はどう致しますか!」
「降伏を認めろ、罠だったら県庁を吹き飛ばすと行った上で降伏を認める」
「直ちに伝えます!」
奈良が先か、和歌山は粘ってるのか?
それにしてもいい加減第14海兵師団に直してくれないかな?合併した企業みたいな対立は辞めてくれよ?功績を上げるまでは名乗らせてくれっていうから一応放置したけど
「和歌山主要都市制圧!第33海兵師団が完全制圧宣言を出しました!」
「奈良県知事の降伏演説が流れます!」
「マリン海兵隊総司令官と佐官級参謀、指揮官達が石川県庁を攻撃中、地球防衛軍を撃滅したとのこと。福井はすでに終わったから騎士団と合流し空白地帯を塗りつぶすとのこと」
あいつら何やってんだ?軍より小集団で突っ込んでるのが攻撃と侵略の正解とはこれいかに。
後続に塗り絵をさせて自分たちはゴミ処理か、指揮官先頭にもほどがあるわ……。
コレが有効手段の時点でもう色々とおかしいんだけどな、こっちは日本をぶっ壊すわけにはいかんのだ。
そもそもピュアハーツが俺達の運命を狂わせたんだよ、本来なら今頃海外の一等地か東京のでかいマンションで雑に仕事しておけば終わってる日々だったのに。
今となっては苦手な陸戦で後ろでふんぞり返ってるだけだ。
「アッサー騎士団長率いる騎士団が長野制圧しつつあります、静岡完全制圧とのこと、東海道線を占領下においていると……」
「今更あのような鉄道がいるか、戦略的な意味はない。政治的な意味くらいなものだ」
「山梨制圧とのこと、長野は一部山間部で手間取っていると……」
「帝国軍、東北方面を手中に収めつつあり!ナポレーン元帥からピュアハーツはそちらかと連絡が!」
「来ていないと返しておいてくれ!」
何が目的だ?いつ来る?何故来ない?
政府に逆らう西部を見せしめで切り捨てた?いや、少なくとも虐殺などの統治方法を取っていないから意味はない。
寝返りか?ピュアハーツの派遣拒否?
「とにかく点と線を面占領にしろ!ピュアハーツを占領地中心に出現させるな、町ごと吹き飛ばされるぞ!細かく占領していけ!空いてる師団をまんべんなくちらせ!」
「騎士団が展開が終了しつつあると」
「完全に固めたらピュアハーツとはいえ簡単に奪還することは難しいだろうな、帝国軍側へ攻撃する可能性が大きい、今までの傾向的には間違いない」
「滋賀方面に展開している部隊はどうしますか?」
「適応部隊か、まだそんなところにいたのか?そのまま進軍させて岐阜にいかせろ!あれだけいれば愛知方面まで下せるだろう、騎士団と合流の握手でもしようではないか!」
「なあ……シュタイン」
「はい……」
「適応化部隊の被害が大きくないか?まだピュアハーツと交戦してないのだが?」
「うーん……元々人類ですし……投与で強化されてないのかなぁ……」
「まぁ……空挺降下をいきなりやれるわけはないが鳥人の割に被害が……」
「飛行訓練をしてなかったのかもしれませんね、その場合はアッサー騎士団長の責任ですね」
「お前自分の責任と違うと思ったら……まぁよいわ。応募したからには戦闘すること自体も織り込み済みだろう、遺族にはちゃんと報いてやれよ」
もちろん改造手術だけ受けた人間がそんなことを想定してるわけもなく空挺降下に失敗して騎士団は改造手術だけの適応化部隊をすべて失ってしまった。
適応した怪人は誰も失っていないのでアッサーは安心と同時に訓練不足の責任を感じて恥じていたがおそらく訓練をしたら過酷さで死亡者と脱走兵が出て問題が起きていたのでこれで良かったのかもしれない。
かくして騎士団は虎の子だと思っていた適応化部隊を空挺降下でほぼ失い長野方面の制圧が遅れてしまった。
本来の予定ではその後は岐阜方面の主要地制圧に向う部隊が消え去ったためアッサーはシタッパーに任せることにしたのである。
そしてこの岐阜方面の空白がピュアハーツが最前線に登場する原因となった。
「ヌメヌメ!ここをまっすぐ進めば関ヶ原ヌメよ!」
キャラ付けを忘れずケール・マクドナルドこと触手怪人ヌメヌメスが適応化部隊の先陣を切り、てくてくと進んでいく。
なんか徒歩と同じくらいだな?猫獣人のわりに遅いしなんだろうと思いながらも猫だし気まぐれなんだなと思い直し鼓舞しながら進む。
「ここで騎士団と合流して愛知方面に抜けるヌメ!あと車使ったほうがいいかもしれないから頼んでおくヌメ……」
自らはもう高速移動が出来るのに新しい部下に気を使い、てくてくと進軍していく適応化部隊。
もちろんどうなるかといえば
「この世の全てを焼き尽くす……灼熱業火レッドハーツ……」
「自分の心も凍りそう……氷河凍土……ブルーハーツ……」
「ウチらの怒りを思い知れ!グリーンハーツ!」
「イエローハーツ……」
「早く帰りたい!ピンクハーツ!」
「「「「「防衛戦隊ピュアハーツ……」」」」」
やる気がない名乗り向上を挙げたとはいえ、最前線に優先的に転移して待ち構えているピュアハーツとかち合うのである。
「「「「「ピュアバズーカ」」」」」
そして相手の口上も聞く必要はないだろうと、とっととピュアバズーカを打って他の場所へ行こうと相手を侮っていた。
割り振られた300人の内で立っていたのは100人いるかどうか、適応化した人間でも滅しているあたり素の火力もあったのであろう、適応強化された怪人たちは新しく出来た同僚を消し飛ばした5人に殺意を向け、攻撃する。
「グッ!」
「レッドハーツ!な、効いていない?」
「ヌメヌメッス!」
「元々はピュアバズーカ以外でも戦ってたやろ、普通にやりあえばええねん!」
「ヒッ!」
「不味いかもね~……」
「シュタイン、適応化したのではなかったのか?」
「飛ばされないのと体が耐えられるかは別だったのですかね……?いや、ふっとばされないのは確かですが……あれ?適応化が甘い?陛下の力の分を抜いた上で消滅したのならなかなか強力ではありますね……」
当たり前である、消滅したのは適応化をせず改造手術で自分の理想の姿になっただけの一般人である。
耐えられるわけもなくあっさり消失した。
そして彼女たちはキホテ第4騎士団長やシタッパーと肉弾戦をやって一撃で死んでいないのだ。
それくらいの力はあるだろう。
「適応化の範囲を広げる必要があることを認めます、この感じだと結局一般兵は地球防衛軍には勝てますがピュアハーツには対抗しえません」
実際はそんなことはないのだが、整形感覚で改造手術をした一般人を入れた比率計算だとほぼ無意味に近いと判断してしまうのも致し方がなかった。
そのうえ空挺降下に失敗して死ぬ騎士団も見ているのだからなおさらである。
そのため強化反応があってもなくても対して変わらない確率が多いと疑心暗鬼に陥ってしまったのである。
反例が今戦っているヌメヌメスなのだが……。
なにせ耐えられなかったものは遺体ごと消えたので調べることもできず、適応化をそもそもしてないものもピュアバズーカの威力で塵になってしまったのだ。
耐えられたものも飛ばされてないだけで怪我をしたものもいる。
これに関しては飛ばされて死なない程度の怪我を負うものがいるのでシュタインもそれが誰かを確認した上で帝国人であれば事前資料を思い出しまぁ強化で上向いてたやつだったしそうだろうと深くは考えなかった。
つまり適応化した上で強化されなかったものはこの戦いでは結局無意味でピュアハーツがいない場所に投入するしかないことになった。
それでもなおピュアバズーカを封じられる喜びが勝ったあたりどれだけこの攻撃がバルサク宇宙帝国から嫌がられていたかが分かる。
帝国はハンデ戦をしいられていたが相手の優位を一つ引き剥がしたのであった。
「ヌメヌメッス!」
ヌメヌメスの触手攻撃が5人を襲う。
5人はそれぞれ躱すが着地地点で攻撃してきたカニ味噌軍艦怪人にカニ味噌を塗りたくられイエローハーツが殴られた。
即座にブルーハーツがそれにチョップして一撃で倒す。
「こいつら、強さはマチマチだから倒せなくはない!」
「やれるわね~」
「なんか臭い……」
襲いかかるコウモリ怪人Aの股間を蹴り上げたレッドハーツは後ろから襲いかかるコウモリ怪人Bを投げて背骨を蹴り砕き消失させる。
なおコウモリ怪人Cは適応化されていないロシア人だったのでピュアバズーカで消し飛んだ。
「時間稼ぎが目的かもしれない!」
「でもピュアヘブンを撃ったらもう戦えんで?」
「自力で倒そう……」
「面倒くさいわね~」
数の差で押す怪人たちと自力で押していくピュアハーツ。
戦う人数は徐々に減っていき、かえって怪人優位になっていく。
「ジャーガジャガ!ポテト爆弾!」
「なんでいきなりこんなに怪人ばっかり出てくるのよ!そりゃバルサクの中にはちょくちょくいたけどさ!」
「知らんわ!とにかく手を動かせ!」
「苦戦してますね……一撃や5人がかりで倒せるものとそうでないものがいます。あの触手のやつは手強いです」
ヌメヌメスは歓喜していた。自分の理想の身体、戦い。
欲を言えばピュアハーツが女性なら良かったが……。
もしこれで一般人を襲おうものならまっさきにバルサク宇宙帝国が殺しに来るだろうがピュアハーツならお咎めなしだ、もっとも女っぽくないから違いそうだが。
我々が勝てば宇宙に飛び出し触手の素晴らしさを布教し同じような触手星人がいたら婚姻しようとすら思っていた。
おそらく幹部陣は誰一人、シタッパーすら趣味からずれているので理解は出来ないが認めるだろう。
自分が触手界を牽引してやる、その意志で適応実験に応募して改造手術まで受けた。
あと皇帝が好みだったから……。
「日本に中継して欲しいヌメ!」
「認めよう、ヌメヌメス。余の権限を持って占領下にない日本地域に中継をする」
映し出されるのは関ヶ原で戦う自分たち、一人また一人と減っていく怪人に対して心の中で哀悼し、ヌメヌメスは元アメフト部長時代の経験を使い指示を念波で出していく。
「(着地点がタヌキ獣人の5歩先、マシンガンマはそこへ発射!)」
「(了解)」
「(左のあいてる部分にポテトボマーは爆弾を投擲!)」
「(了解)」
的確に追い詰めてはいるもののもう一手が足りない。
ピュアヘブンを撃たれた場合は適応化しても無駄かもしれないと言い含められているからこその張り詰めた怪人側の立ち回り。
「復活怪人でもないのにうじゃうじゃでおって!」
「ヌーメヌメ!復活どころか初代ヌメ!ヌメェ!」
「大体なんなのよ!その語尾は!」
「お約束ヌメ!」
「帝国って変なこと強制してるのね~」
モニターの前の皇帝が余の国でそんな決まりはないわ!勝手にやってるだけだ!と激怒してそれから目をそらすシュタインを置いておき戦いは続く。
「ここでお前たちを倒せば帝国の勝利ヌメ!我らの夢のためここで死んでもらうヌメ!」
「夢って何?」
「触手の素晴らしさの布教!」
「バルサクってそんな理由で戦ってるの……?」
「気持ち悪いですね……」
ヌメヌメスにピュアハーツがドン引きする中で映し出されていた中継に皇帝が割り込み、我がバルサク宇宙帝国は移民先と植民先を探しに来て共生関係を築きたいのであって個人の夢と帝国の思想は別であると改めて宣言した。
よほど同一視されるのが嫌だったらしい。
「……我ら?」
「同じ夢を持つものがいるヌメ!ここで死ぬヌメ!ピュアハーツ!」
残ったものは10名足らずまで来たか、もう一手何かあれば……勝てる!
ピュアハーツに!
「ジリ貧や、残ったやつは流石に徒手空拳で勝てる相手やない、撃つで?」
「しかたないわね~……」
「いいでしょう、せめて彼らは蹴散らして……」
「終わらせよう……」
「行くよ!」
「「「「「五光照覧!ピュアヘブン!」」」」」
待っていたぞ、この時を!
「シバッタワー!今だ!」
「待ちわびたロープ!緊縛攻撃!」
ポージングを決めるピュアハーツに対して隠れていた緊縛星人シバッタワーが5人を縛り上げる。
その瞬間ピュアヘブンは発動せず霧散した。
この手のものは見慣れている!大抵の場合発動には順序がある。
それは5人の距離、ポーズが力を集める姿勢だったり、それぞれあるだろうが意味があるのだ。
大抵自分が見てきたものは発動になにかの基準があった。
それを封じれば発動しないという読み。
この手が好きなものだった人間としての考察。
おそらく幹部陣どころかシタッパーですらどうせ無駄とわざわざやろうともしなかった手段が成功した。
そしてピュアハーツはロープを千切ろうと悪戦苦闘して……。
それを阻止しようとする怪人を蹴りでいなしたりしながら暴れる。
「(先に行ってるぞ)」
「(本当に?やるのか?拘束には成功してるぞ)」
「(俺は生粋のバルサク宇宙帝国人だ、死んだ家族が待ってる、顔も知らない子孫が地に足つけて生きられるなら何もしないご先祖が出来ることなんて限られてるだろう?)」
「(わかった……)」
念話で当初の計画を変えないことを知ったヌメヌメスはそれを実行しやすくするために拘束攻撃をする。
「ヌメヌメス!」
ロープに苦戦するピュアハーツはそれに対応できず、5人が縛られた隙間から必死に抵抗をしている。
その5人の前に怪人ポテトボマーが接近する。
攻撃自体はそこまで痛手ではないが至近距離すぎれば流石に不味い、一撃を食らってロープが切れれば撤退一択だと覚悟したピュアハーツは爆発に対して身構える。
「ポテト爆弾!」
しかし爆発したのは彼の持っていたポテト型の爆弾ではなく、彼自身だった。
彼はポテト爆弾の効果が薄い場合の腹案として自らの自爆攻撃をしてダメ-ジを与えることを画策していた。
そして、ヌメヌメスとシバッタワーの一か八かのピュアヘブン封じの計画を聞いて彼ら2人に計画を打ち明け実行することにした。
その爆発の余波は残った怪人すら吹き飛ばす威力であると予想されたため鎧怪人ゲートラーが怪人たちを庇うように立っていた。
それでもなお、消えた怪人がいる。
「勝った?」
「いや、ヌメヌメス……おそらくポテト爆弾のダメージは負ったとは思うが逃げられたな」
「拘束が悪かったか、触手怪人の名が無くな……ポテトボマーの命を散らせてしまった……。無念だ」
「残念だが俺は両手をちぎられたから今後は難しいな、ヌメヌメスの触手は?」
「コイツは手じゃないからリハビリもいらないのさ、生やしてもらうさ」
「残念だが俺は死ぬかもしれないな、ポテト爆弾を庇いきれなくて済まないな」
語尾も忘れて生き残った彼らは新しく出来た友人達の死を悼み、それでもなお倒せなかった強敵のことを考える。
生き残った自分を含めた数体の怪人は今後戦闘ができるかは不明なものもいるだろう。
ヌメヌメスの触手も再度生やさねばならないだろう。
だからこそ、万全になって次こそはと誓った。
「や!皆ボロボロだね?かろうじて生きてるみたいな感じだよ?すぐ治療してあげる。そのままでいいよ、すぐ治すから」
「う……」
「あーダメダメしゃべったら!死ぬほどのダメージを受けたら強制転移する装置付けておいてよかったよ。これもハーツの研究の賜物だね!ベッドに直送だよ」
ニコニコしながらピュアハーツに持たせていたアクセサリーを確認するエデソン。
ひとつひとつ見ながらアクセサリーをもとに戻す。
「いやーこれもう使えないね、たまに特撮系でさ、バカに便利なものがあるのに急に使わなくなるやつってあるよね?多分こんな感じで壊れたんだろうね。よほどの破壊力だったと思うね、そりゃあ壊れるね。これは二度と使えないよ、君たちの体もボロボロ。ハーツ自体も損傷してるから……損傷っていい方でいいのかな?概念みたいなものに近いしなぁ……うーん……とにかく安静にしないといけないよ?出撃はしばらくいいんじゃないかな?君たちが前よりひどいことになったことは伝えておくよ、鉄壁くんもこれで出撃はさせないだろ」
ま、これで降伏一択だろうね……。
いい加減に夢から覚めるときだと思うよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます