第27話
「それでシュタイン、余等にわかりやすく、いいや、難しくてもいい……どうにか説明してもらえるかな?」
「……わかりません」
「そうだな、まぁ何処から説明すればいいか俺が当事者でもわからんしな、そうだな巨大化した理由はなんだ?」
会議が始まり沈黙を貫くシュタインにいい加減に答えろとばかりに皇帝が質問する。
が、不発。
続いてシタッパーが一つづつ尋ねることに切り替え、全員が長年の付き合いで切り替えることを了承する。
「わからない」
「うむ、まぁ……何事も予想外なことは多いからな、適応化に関してもそうだったが……とりあえず最後に大爆発をした理由は?ウチの兵士は死後は消失するようにしていたはずだ、同じように改造したと思うが?」
「消失するよう手術はした……」
「それで大爆発は?」
「わからない……」
沈黙。
これほど言葉の歯切れも悪く、わからないの言葉すら重いシュタインを彼らは初めて見た。
仮説すら出していない。
「まぁピュアハーツの……なんだったかな?ロボの蹴りがなんか、そんな感じだったのかもしれない」
「そうだな、ナポレーンの言う通り敵を爆発させる蹴りだったのかもしれないしな、その場合判りかねるか……」
「では、私から……一番聞きたいのは巨大化でしたが……なぜ合体したのです?」
「わからん……」
「は?」
苛立つシーザをシタッパーとアッサーがまぁまぁ、どうどうとなだめて会話を続ける。
「それより最後の皇帝陛下万歳って元々地球人だよな?なんでああなったんだ?洗脳はご法度だぞ?してないんだよな?」
「してない……」
「じゃああの2人、2人……?が勝手に皇帝陛下に心酔して皇帝陛下万歳と叫んでシンだだけなんだよな?だけってのもいい方が最悪だな……。とにかく自主的な発言で強制ではないんだな?」
「うん……」
シュタインの抜け殻のような様に突き上げが厳しく、仕事も増え、休暇を切り上げざるを得なくなったシーザは拳を振り上げたところをシタッパーとアッサーに抑えられる。
「そのせいでイカレタ人体改造をして巨大化させてメカと戦わせて忠誠心を植え付けて敗北後には街一つ消し飛ばす危険な宇宙侵略者集団とレッテルを貼られて抗議運動が再燃してるんだぞ!お前ほんとふざけんなよ!再発防止策を出せ!再発防止策を!会談で各国旧政府の人間が執拗に説明を求めてくるんだぞ!帝国としては統治下の質問に答える義務があるんだ!わかりませんではいつまでもごまかせんわ!旧政府の人間だってこの状態では自主的に裁かせられんだろ!口封じになるわ!適切な罪があっても逮捕しにくい空気になったんだぞ!シュタイン!おいこら!」
「落ち着け!おつつけ!おっ……」
肘の部分がちょうどいい部分に入りダウンしたシタッパーを横目にアッサーが必死にブチ切れシーザを止める。
「お前が殴ったらシュタインがしばらくパーになってしまう!」
「もうパーみたいなもんだろ!この無能が!博士号を剥奪してやるぞ!何日寝てないと思ってるんだ!次の世界同時中継で説明もしないといけないのにわかりませんしかいえんのか!この頭でっかち!DVD見てる暇があったらなんとかしろ!タイムマシーンでも作って時を戻せ!」
「切れると祖父そっくりだな」
かつて帝位に付く前に自分の教育係をやっていた彼女の祖父を思い出しちょっとだけ身震いする皇帝。
若い頃からともあれ敵国滅ぶべしといい自分を叱咤激励……叱咤叱咤叱咤し続けた教育係である。今こそ隠居を決め込んでいるがたまに出てくる。
まぁこの状態の孫を見れば安心して隠居決め込むわなと皇帝は何処か他人事で眺めていた。
「陛下ぁ!今までの統治が台無しになってしまいます!シュタインを罰しましょう!」
「いや、流石にそれは……」
「対応策もない!わからないしか言わない!予測も何も出来やしない!なんの役に立つんですか!ここが正念場ですよ!100年!100年ですよ!母国が消え去り!船団国家になり!隙あらば戦争をして、海賊を狩り、敵対した国家を滅ぼし、難民を吸収しここまで大きく…………いえ、100年で100億……随分と小さくなってしまいました……。しかし……今まさに、この星が!地球が!我々の新たな母星になる!そこまで来たんですよ!想像できましたか!最初の10年はすぐに見つかると!20年でいつか見つかると!30年でいずれは見つかると!40年で子どもたちに託そうと!あの時代を生きてようやく、ようやく……代替わりをせずに見つけたのですよ?なぜなんですか?地球側があのようなことをしなければこちらはある程度は譲歩できましたよ、緑化だろうと食料の供給施設だろうと、死刑に値するか判断できる装置でも記憶を読み取り犯罪者を摘発する装置でも今より安価に技術革新する方法でも!何でも提供しましたよ、連中がしたことはなんですか!エデソンがしたことはなんですか!亡命したかと思えば技術を提供し国連側は交渉決裂どころか外交断絶にする!そもそもエデソンのこともシュタインが……」
「よせ、人の好悪感情関係だけは法ではどうにもならん」
「……失礼いたしました。ですがそれ以外は撤回いたしません、現在のバルサク宇宙帝国の苦境はシュタイン博士が生み出した状況です、それに対してなんの対応もしないのならこの場にいる意味なぞ一つもありません!なんの役にも立たないのなら処刑して新帝国民の溜飲を下げる方に使います。我々はなんのために戦い続けたのですか?今も、過去も!」
その慟哭には誰も何もいえず、さりとてシュタインを処刑するなど出来るはずもなくまた沈黙が訪れる。
「我々が初めて会ったときを覚えていますか、その日を暮らすのにもいっぱいいっぱいで……こんな国なんてない方がマシだと愚痴って生きていた頃を」
「覚えてるよ、俺は貧乏人一家の三男だったしな、扱いもよろしくなかった」
「私も騎士家だが下級に近いし、女だったしな……おまけどころか何処ぞへと嫁に出されるだけだった…………いまは行き遅れたがな」
「軍人の家系にしても微妙なところだったな、せいぜい政略の駒で終わると思ってた。運が良ければ女性軍人でやっていけるかどうか……」
「余は……継承権がかろうじてある程度の庶子のようなものだったな、暇さえあれば街に出て遊んどった」
「私は……発明家一家で育った……」
「そして私の家はその街の顔役、悪ガキどもを集めて祖父が塾を開いていた」
「そこで出会って」
「喧嘩して」
「学んで」
「遊んで」
「国を倒した」
「それは端折りすぎだろ」
クスリと笑ったシュタインに弛緩し、シーザは話を続ける。
「思い出せ、あんな国にならないように、あんな支配者にならないように私達が立ち上がったあの日を!陛下を旗頭に兵を挙げたその日を!我々の原初の目的はなんだったか!」
「余は……みんなが笑って暮らせるならそれで良かった、そんな街……国を作りたかった、それだけだ」
「俺の家族のような貧しい生活をしないでいい国」
「就職の、目指す場所の自由のある国」
「家柄や性別ではなく能力によって評価される国に」
「国家が研究や発明を弾圧しない国」
「そして私は誰も虐げられない国」
「今は国民がそういう不満持たないでいてくれるといいな」
「さすがに人類側は不満たらたらだろう、それをどうにか同化していくのも……仕事の内だ」
「それで、シュタイン?」
いつもほどではないが調子が戻ってきたシュタインは何とか答える。
「私の計算では合体も巨大化も爆発も計算外どころか計算式に存在すらしない、全くの不明だ。可能性が低かったわけでも、もしかしたらでも無く、ありえない。コレが私の答えだ。何度やり直してもそうなる。現状、陛下の髪の毛を馴染ませてる適応化の面子もそうだ、万が……億が一つでもそのどれかが出る可能性はない、0%だ。実験時に採取していたDNAなどを解析しても、ありえない」
「本当にわからないしありえないことなのね?」
「一睡もしてないまま解析したが間違いなくわからない、ありえない」
「陛下の髪の毛が原因なんだろうけど……攻撃を受けるとなんか作用すると可か?」
「可能性はある、が……」
「まさか怪人を殴って確かめるわけにおもいかんな、パワハラだ」
「いや、ただの暴力だろう」
「帝国が臣民と裁判して100%負ける案件だな」
皇帝は覚悟を決めた。
自分がまだ取るに足らない小娘だったときを思い出し、死んでいった人たちを思い出し、皇帝として命令を出した。
「シーザ、覚悟を決めよ。お前が煽ったことだ。余は適応化怪人を最前線に出し続ける、合体も巨大化も爆発で都市が飛ぶこともコラテラルダメージとして割り切る。敵側に配慮する必要はない、我々の手を払ったのは国連で、地球防衛軍で、今は日本だ。余の髪の毛が活性化したのでも、余の力同士が戦闘で共鳴し合ったのでも、何でも理由はいい、でっち上げて説明しておけ。もとより我々は侵略者だ。臣民はすでに地球に住んでいる者もいる、愛を育み、子を育て、生きているものがいる。彼らを守ることこそ我らの仕事だ、日本を、ピュアハーツを下し抵抗運動自体が無意味だと思い知らせねばならん、臣民に対するテロ行為だけはなんと言われようとも死刑を適応しろ、各国旧政府の抗議は何も聞くな、断固として立ち向かう。でっち上げの説明をした後裁かれる人間は裁かせろ、揉み消したら旧政府の統治アドバイザーと法律のすり合わせ期間中の自治部分は完全に撤廃して即併合して関係者は全員殺せ、帝国にはいらぬ人材だ。友邦にだけはその旨徹底して伝えるように。以上だ」
皇帝は初めて真実を嘘に変えて通達することを指示した。
公表できないと濁すことなどはあれど意図的に嘘をついて騙すように伝えたことは長い在任中ついぞなかった。
このときまでは
「適応化部隊を再編せよ、そして増やせ。死傷率は日本併合まで気にするな、武力を伴う抵抗運動は断固として鎮圧させろ、それをやっているかどうかは機械で見分けられるだろう、たとえ地域で支持される聖人であっても協力していたら住民感情を無視して殺せ、それが正しいということだけは公表せよ。間違って殺すことだけは禁止する。最悪の場合街の一つ一つを巨大化爆破で破壊しながら進軍することになるが敵地だ、気にするな。この状況で降伏も講和もしないほうが悪い、いや申し出たが反故にしてたな……。かまわん、やれ」
皇帝は悪役としてそう振る舞うことに決めた。
自分の国の民のために、いまだに戦闘を長引かせる日本に対してわずかながらの情を捨てた。
「それとシュタイン、お前は休暇を取っていないからしばらく休め、適応化を増やすのは部下にでも任せておけ。シーザは各国への説明が終わったら再度休暇を取り直せ。三軍は残りの日本領土へハラスメント攻撃をし続けろ、他に話し合うことは?」
全員がそれぞれないと手を降ったり首を振ったりしてアピールするのを見た皇帝は宣言する。
「これにて閉会」
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