第30話
「鉄壁くん、君死ねないかね?」
開口一番とんでもないことを言う首相に対して唖然とした鉄壁は何かを言い返そうと思って首相以外に人がほとんどいない部屋に気が付く。
「ああ、彼らかい?それともいないやつか?陥落してバルサク帝国領になったからね、国会で議員をやる資格はないと野党から言われて失職して帰郷したよ、正当な権利があるのは東京神奈川千葉の議員しかいない、それも地区を失ってたり八王子の件で危ういな、交渉すると言って帰ってったが連絡はない議員は大半、国会はスカスカ、何を審議するのかもわからない。野党は指摘した後も占領下の信望があるとか小細工と詭弁で議席を守ろうとしたけどね。占領地で日本国議員は失職する認定を出して事務所も解散したそうで彼らは支援団体もないようだ。故郷に戻ったやつもいるよ、ついでに裏金やら汚職やらで捕まったらしい。わかるかね?ここにいる人間は戻っても罰せられるか、まだ占領されてないからいるだけか。それだけだ」
「それと私になんの関係があるのですか」
「君が死ねば降伏しやすくなるだろう?八王子を吹き飛ばした責任を取って自殺しても誰も当然と思うだろう、なんでまだ生きてるか聞かなければいけないこっちの身にもなってほしいね」
「では私が死ねばどうにかなると?」
「さぁね、私の知ったことではない。それで拒否されたら終わりだ、降伏交渉も通らない、何処に行けばいいかもわからない。今後怪人を倒すたびに巨大化して無くても大爆発が起きるんだ、千葉は今後ピュアハーツの増援は不要と伝えてきている、最も送らざるを得ないだろうが……行けば拒絶される難儀な仕事だ、女子高生にやらせる仕事ではないな。で?指示する相手もいない君は地球防衛軍本部で何してるんだ?」
ただみてるだけ、適切な命令を人手もない地球防衛軍で出せるわけがないし、次はここに向かえというのはAIの仕事、端的に言えば彼は働いてはいない、負けた後が仕事だと思っているから好きに言わせておけとすら思っている。
「死んで解決するなら死にますが」
「なら生きていてなにか問題が解決してから言ってくれないか?何も解決していない、戦うなとすら言われる始末だ。政府はどうするべきなんだ?君たちに戦うなと言うべきか?勝ってもこれではすべての街が更地になるだけだろう?君が死んで大々的に報道すれば講和の話があるかもしれないじゃないか」
警報が鳴り響く中、淡々と総理は不満を漏らしている。
「出撃か?」
「ええ」
「辞めさせろ」
「無理ですね……もう向かってるでしょう」
「まぁいい、どうせどうなろうと不満は出る、今や支持率が視力と同じような政府に何が出来るんだ?」
「……」
「都市部に怪人がでたらどうする?巨大化しなくても八王子みたいな事例だ、教えてくれ」
「……」
「なぜ巨大化したりしなかったりするんだろうな、なぜ爆発するんだろうな?」
タバコを吸い、酒を飲み始め管を巻く。
遠方から爆発音がしておそらく巨大化した怪人か小さい怪人が爆死したのだろうと総理はどうでも良さそうにナッツを食べ始めた。
「何処の街が消えたかな?」
「さぁどうでもいいですね」
大臣たちの会話を聞いて眉をひそめる鉄壁は文句をいう。
「国民が死んでるんですよ!」
「君が殺したんだろう?役立たずめ、そもそも最前線の土地なんて政府の悪口をいうだけだ、どうでもいい。そもそも私の出馬してる土地でもないしな。有権者のいない場所まで気を回すか?」
「それでも!」
「じゃあ私が巨大化して彼らと戦ってきてやろう、これで次回も当選間違いなしだな!で?強大化する方法はどうやるんだ?わかってるんだよな?無作為に爆発させて巨大化ガチャを引いてるわけじゃないんだよな?巨大化させない倒し方をしてそれでも失敗してたまに巨大化してるんだよな?応用が効くんだよな?なぜ巨大化するかくらいはわかってるんだよな?なぜ爆発するかも分かるんだよな?バルサク側が巨大化するかしないかわからないから出してるなんて言わないよな!」
「それは……」
「口だけだ!国民が爆死してなんの責任があるんだ?政府の受注工事で爆死したのか?宇宙から侵略者がやってきてそいつを倒したら町ごと吹き飛んで政府のが悪いとなるのか?国民を守るために戦ったら爆死したと言われるならどうするんだ?降伏したくても拒まれてる理由覚えてるのか?」
「しかし……」
「うるさい!このバカが!」
ウィスキーの瓶を総理から投げつけられ怯む鉄壁はすでにベロベロに出来上がった総理を睨みつけるが、その目は自分よりも怒りと恨みに満ちていた。
「貴様らがあんな馬鹿げた攻撃を行わなければ!話し合いの働きかけを行ったのに攻撃をしやがって!明石海峡大橋を爆破までしやがって!何が地球防衛軍だ!既得権益にすがりつく亡者が!降伏して罰せられるのがそんなに怖いか!死ね!死ね!とっとと死ね!自分の命を持って講和してくれとすがりつき死ね!」
「故郷は私が爆破を支持したと思っている、帰ったら国民から殺されるだろうな、これだけ空きがあるのに誰も大臣職をやりたがらない、日本最後の大臣になっておこうと思っただけで職務もないから気楽なもんだ。お前のせいで俺は死ぬんだ」
「八王子育ちだったんだが消えたよ、故郷で待ってる人も家族ももういない、町ごと壊しても正義の味方とは褒められて当然か、いいもんだな」
「…………それに関しては何も言い訳はできません」
鉄壁は完全に沈黙して国家の滅亡を見届けることにした。
それでも自分は戦犯として死ぬべきだろう。
「地球防衛軍は……ピュアハーツは怪人を撃破し続けます。街が吹き飛ぼうと何があろうと、敵を削り続けます」
「そうか、23区外でやってくれ」
敗戦時のドイツの総統地下壕もこんなひどくはあるまいと思いながら鉄壁は帰った、次にここに来ることはあるのだろうか。
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