第11話 弟、フラグは突然に
「うー気持ち悪い」
俺は大きく膨れたお腹を触りながら、オリヴァーの部屋に向かった。
体調が悪いと言って、朝食も食べずに部屋に戻ったのが気になってしまった。
だからポケットにパンを隠して持ってきた。
あれから両親にたくさん食べさせられて、気づいたら吐く手前まで口に詰められた。
これも新手の拷問なんだろう。
食べられないのに、口にどんどん突っ込まれるからな。
――コンコン!
「兄しゃま大丈夫ですか?」
扉をノックしてゆっくりと開ける。
「あっ、間違えました」
中を確認してすぐに扉を閉めた。
向きを変えて急いで逃げようとしたタイミングで、自分の足に引っかかって転んでしまった。
「痛っ……」
「君はまた私に会いに来てくれたのか?」
ああ、どうやらあの人に捕まったようだ。
「殿下には会いに来てないですよ」
部屋の向こうにいたのは殿下だった。
何か用があってすぐに帰ったと思っていたが、まさかまだ屋敷内にいるとは思ってもいない。
普通なら一緒に朝食を食べたりすると思うだろう。
あの場にいなかったら、お客さんはいないと思うのが普通だ。
それなのに殿下は座って部屋の中で待っていた。
「ふふふ、君は恥ずかしがり屋なのかな」
頬を掴んで顔を近づけてくる。
きっと女性なら彼がキラキラした人に見えるだろう。
だが、俺は今も昔も男だ。
ただの少年にしか見えない。
それにこの年齢で丁寧な言葉使いが気取っているようにも見える。
「なんでまだ殿下がいるんですか?」
俺の言葉に少しムッとした顔をしている。
やはりその辺は子どものようだ。
「君は私がここにいたら嫌なのか?」
嫌かどうかと言われたら、単純にめんどくさいだけだ。
こうやって絡んでくるからね。
「いや、じゃないですよ。ただ――」
ああ、やっぱりこういうタイミングで出てきますよね。
俺が頭上を見上げると選択肢が出ていた。
ただ、その内容が一部おかしいことに気づいた。
▶︎はっ……恥ずかしいから……
殿下のことがしゅきだから……
姉様の婚約者だから……
視聴者参加型の乙女ゲームなのは理解している。
ただ、俺が殿下に向ける言葉なんだろうか。
どれも選択肢としては良い気がしない。
一番目や三番目はどうにか理解はできる。
それでもヒロインが言いそうな感じがする。
二番目に関しては昨日会ったばかりの俺が言う言葉ではない。
▶︎はっ……恥ずかしいから……
殿下のことがしゅきだから……
姉様の婚約者だから……
「ただ、ねえはっ……恥ずかしいから……」
あえて無理やり選択肢3になるように、姉様って言おうとしたが無理だった。
どうやら選択は絶対のようだ。
なぜか殿下はキラキラスマイルを俺に向けている。
何かするわけでもなく、ただただ俺の顔を見つめている。
「ふふふ、可愛いな。縛りたくなる」
「へっ!?」
「冗談だよ」
何やら喜んで良いのかわからない発言が聞こえてきたが、冗談らしい。
兄姉や両親が言うならわかるが、殿下が言うのは少し違うからな。
――コンコン
「失礼します」
扉をノックする音と共にイザベラが入ってきた。
「殿下お待たせしま――」
イザベラは俺を見つけるとキリッとした目で睨んできた。
ああ、今殿下が俺の頬をモミモミと触っていたからだろう。
「こんなところで何をしているのかしら?」
「あっ……部屋を間違えて――」
「さっきも同じことを言っていたわよね? あなた自分の立場を自覚してちょうだい!」
どうやら俺はイザベラに嫌われているようだ。
たしかに婚約者が自分の弟を可愛がって、自分のことを蔑ろにされたら嫌だろう。
それにイザベラもまだまだ子どもで貴族の令嬢だ。
その気持ちはわからなくもない。
「ごめんなさい」
俺はその場で謝った。
すぐにイザベラは手で俺を追い払うように動かしていた。
急いで殿下に頭を下げて部屋を後にする。
「どうしてそこまで強く当たるんだ?」
「殿下には関係ないことです。私達の決まりなので」
部屋の中からはイザベラの怒った声が聞こえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます