第10話 弟、謎の食べ物を食べる

▶︎僕が勝手に兄しゃまと寝ていたの……

 殿下が布団に入ってきたから逃げてたの……

 ママとパパの部屋だと思ったら違ってたの……


 視聴者はどれを選択するのだろうか。


 選択肢1はそのままだが、オリヴァーがさらに攻められるような気がする。


 選択肢2が一番事実に近いが、殿下になすりつけることになる。


 いや、むしろ勝手に入ってきた殿下が悪い。


 選択肢3は今のところ絶対にない。


 それこそ甘えるなと言われて、バッドエンドに向かいそうな気がする。


 元々年が近い俺ですら睨みつけている両親の顔を見れないぐらいだ。


 オリヴァーが漏らさずにいられることだけでもすごい。


 できれば選択肢2でお願いします。


 心の中でそう願った。


 僕が勝手に兄しゃまと寝ていたの……

 殿下が布団に入ってきたから逃げてたの……

▶︎ママとパパの部屋だと思ったら違ってたの……


 どうやら選択肢が決まったようだ。


「ママとパパの部屋だと思ったら違ってたの……」


 ええ、それが一番最悪な選択なのに口が勝手に動いていく。


 さらに両親の睨みつける目が強くなる。


 ここは年上の俺が守ってあげるべきだろう。

 

 そっと俺の後ろにオリヴァーを隠す。


 それでもオリヴァーの方が大きいから、頭がぴょこっと飛び出ている。


「わかった。オリヴァーは席につけ」


「はい」


 オリヴァーはイザベラの隣にある席に向かった。


 俺も一緒に隣に用意されている席に向かおうと思ったが、父に声をかけられた。


「おい、ダミアンはこっちだ」


 父の隣には俺の椅子はない。


 これは床に座って食べろということだろうか。


「はい……」


 両親の席の近くに到着すると、ゆっくりと床に座ろうとしゃがみ込んだ。


「おい、何やってるんだ? ダミアンの席はここだ?」


「えっ?」


 急に体が軽くなったと思ったら、いつのまにか父の膝の上に座らされていた。


 これはどういう状況だろうか。


 目の前にいるオリヴァーとイザベラに助けを求めようとしたが、二人して俺を睨んでいる。


 そんなに膝の上に座りたいなら交代するぞ?


「父様、これは――」


「パパだ」


 悪役顔でもパパと呼んで欲しいらしい。


 そういえば、普段は父様と呼んでいるのに選択肢はパパ・・になっていた。


「パパ、今から何するんですか?」


「朝食以外にないだろ」


 こんな状況で朝ご飯を食べられるわけがない。


 バイキングのようにたくさん置かれた料理に期待していたのに残念だ。


「ダミアンはどれを食べるんだ?」


「一人で食べられるよ?」


「いや、俺が食べさせるんだ。どれが良いんだ?」


 きっと食べ終わらないと、ずっとこれが続くのだろう。


「んー……――」


▶︎オムレツが良いかな?

 ソーセージが良いかな?

 パパが選んでくれるならどれでも良いかな?


 まさかこのタイミングで選択肢が現れるとは思わなかった。


 好きなものも食べさせてもらえないのだろうか。


 オムレツもソーセージも食べたい。


 ただ、選択肢3だと何を食べさせられるのかわからない。


 現に目の前にはウニョウニョと動く謎の食べ物がある。


 しばらくすると口が動くようになってきた。


「んー……パパが選んでくれるならどれでも良いかな?」


 オムレツが良いかな?

 ソーセージが良いかな?

▶︎パパが選んでくれるならどれでも良いかな?


 まさかの選択に絶望しか感じない。


 父も俺を見てニヤリと笑っている。


 あっ、これはダメなパターンだ。


「ならダミアンが好きなイモマッチョにしようか」


「イモマッチョ?」


「ああ」


 父が手にしたのは、ウニョウニョと動く謎の食べ物だった。


 ひょっとしてイモマッチョのイモ・・はイモムシと同じイモな気がした。


「本当に食べるの?」


「ダミアンの好物だろ?」


「えっ……」


 どうやらダミアンはイモマッチョが好物だったらしい。


 父はフォークで刺すと、身が弾けるようにプリッとしていた。


 中から白色の液が垂れでてくる。


 口元に近づけられた俺は頑なに口を閉じた。


「おい、口を開けろ」


「んーんー」


 必死に首を振るが、母に頭を掴まれるとそのまま口の中に押し込められた。


 ドゥルっと喉に流し込まれる感覚と柔らかい感触が、なんとも言えない気分だ。


「おっ……おいしいです」


 思ったよりもイモマッチョは美味しかった。


 どことなくチーズのような味がした。


 近い味だとチーズカルボナーラに似ている。


 口角から垂れる液を口に入れて、再び大きく口を開けた。


「ちょーだい!」


 自分で食べることが出来ないなら、父にお願いするしかない。


 俺の顔を見て父はニヤリと笑っていた。


 きっと餌付けできて楽しいのだろう。


――ガタン!


 突然音が鳴るとオリヴァーが立ち上がっていた。


「食事中だ」


「すみません、体調が悪いので横になってきます」


 そう言ってオリヴァーは前屈みになって部屋に戻って行った。


 どうやらお腹が痛いのだろう。


 あとでお見舞いに行くことにした。

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