第9話 弟、兄しゃまに着替えを手伝ってもらう
「ダミアン、朝ご飯に行くよ」
チラッと見たが、オリヴァーは本を読まずに俺が起きるのを待っていたのだろう。
ただ、目を大きく見開いて俺を見ていたのが気になった。
「んー、よく寝た」
俺は手を大きく上に伸ばして体を伸ばす。
さっきまでの眠気はなくなり、しっかり目が覚めたようだ。
オリヴァーに起こされると、手を引かれながらダイニングルームに向かう。
「あれ? ここって違う部屋だよね?」
着いたところは大きなテーブルもなく、あるのはベッドとテーブル。
全体的にスッキリとした部屋だった。
「ああ、ここは俺の部屋だからな。ダミアン、服を脱ぎなさい」
「へっ?」
なぜか俺はオリヴァーの部屋に連れ込まれていた。
やはりダークウッド公爵家の次期当主だ。
朝から弟の服を剥ぎ取って何をするつもりだろうか。
きっと服によだれがついて、いちゃもんをつけられて殴るつもりだ。
人に見られないところでなら、弟を傷つけても良いと思っているのだろう。
「兄しゃま何するの?」
少しビビりながら兄の様子を伺う。
兄はニヤリと笑っていた。
その顔はいかにも悪役っぽかった。
「その服じゃ父様に怒られるからな」
服に視線を戻すと、俺はパジャマを着ていたままだった。
だから俺に服を脱ぐように言ったのだろう。
どうやら俺が勘違いしていただけのようだ。
思ったよりも弟思いの兄で、勘違いしていたのが申し訳ない。
俺がその場で服を脱いでいくと、なぜか兄は目を伏せていた。
「どうしたの?」
「あっ……いや、綺麗な肌をしていると思ってな」
たしかに幼い俺の体は白くてモチモチボディだ。
ただ、同じ男性なのに目を伏せなくても良い。
チラチラと見られた方が、逆に気になってしまう。
「兄しゃま、ここ引っ張って」
パジャマを脱ごうと思ったが、ボタンを外すのを忘れて引っかかってしまった。
「あっ、いや……」
「兄しゃま早くー!」
俺はオリヴァーに頼んで、服を引っ張ってもらう。
「んっ!」
ついつい体を大きく捻って声が出てしまった。
「くっ……」
まだ脱ぎ終わっていないのに、オリヴァーは手を離した。
一人で脱げってことだろう。
イモムシのように体を捻りながら服を脱いでいく。
やっと脱ぎ終わると、オリヴァーに出された服に着替える。
「可愛いな」
ボソッと呟いている声は俺には聞こえなかった。
それにしてもなぜ俺の服が兄の部屋にあるのだろうか。
「ああ、パジャマなら俺が片付けておくよ」
そう言って兄はパジャマを棚に
「兄しゃま?」
俺の声にオリヴァーはぴくりとしていた。
なぜ、見つからないと思ったのだろうか。
俺はしっかり見ているからね。
「どうしたんだ?」
「僕の服は?」
「珍しい服だから見えないところに置いておかないと盗まれたら困るだろ?」
確かに寝心地は良いし、動くのも楽だった。
殿下が勝手に部屋に入ってくるってことは、警備もしっかり機能していない可能性がある。
いや、王族だから簡単に通してもらえたのかもしれない。
むしろ悪役顔が勢揃いしていたら普通の泥棒なら、目があった瞬間に逃げ出してしまいそうだ。
着替え終わった俺は再びオリヴァーに手を引かれ、ダイニングルームに向かった。
昨日はそのまま寝てしまったため、直接家族全員で会うのは初めてだ。
扉を開けた瞬間、そこには大きなテーブルとたくさんの料理が出されていた。
これが貴族の朝ごはんなんだろう。
ただ、部屋の中の空気は凍えきっていた。
「あら、ダミアンはオリヴァーと一緒に来たのかしら?」
一番初めに声をかけてきたのは母親だろう。
この中で見たことないのは彼女だけだ。
年齢的にはダミアンの体に入る前の俺とそんなに変わらない。
モデルのような見た目で、美魔女という言葉がしっくり来る容姿をしている。
「うん! 眠たかったから兄しゃまと一緒に寝ていたの!」
一緒に寝ていたかはわからないが、肩を貸してくれたのは事実だ。
ただ、手を繋いでいたオリヴァーの手は震えていた。
「へぇー、それはどういうことかしら?」
「俺も詳しく聞きたいな」
一瞬にして部屋の温度が氷点下になったように感じた。
両親揃ってオリヴァーを睨んでいた。
あれ?
これって選択肢を間違えたのかもしれない。
ギュッと手を握り返すと少し震えが収まった。
やはりオリヴァーでも両親が怖いのだろう。
俺はオリヴァーのためにも、必死に言い訳を考える。
「えーっと、――」
そこで俺の口は止まった。
頭上に浮かぶ選択肢。
▶︎僕が勝手に兄しゃまと寝ていたの……
殿下が一緒に寝ていたから逃げてたら……
ママとパパの部屋だと思ったら違ってたの……
どれを選んでも良い未来が見えないのは俺だけだろうか。
再び視聴者の投票が始まった。
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