第13話 弟、解雇選択をする

 急なお出かけに少しワクワクしながらも、この状況でなければ本気で楽しめたのにと思ってしまう。


「父様……パパ、いつまで膝の上に乗っていればいいの?」


「到着するまでだ」


 今は煌びやかな馬車に乗って街に向かっている。


 俺は生憎、悪役顔の父の膝の上に座らされていた。


 ガッチリと腕でホールドされて全く身動きが取れないのだ。


 ただ、窓から見る街並みは海外旅行に来ているようだった。


 それと同時に自分がダミアンという少年の体に転生したことを実感する。


「外が気になるのか?」


「あっ、綺麗な街並みだと思ったので見てました」


「そうか。欲しかったらあげるぞ?」


「へっ?」


 この親は何を考えているのだろう。


 さすがに綺麗な街並みと言っただけで、あげるという選択肢にはならない。


 それに街は簡単に人へあげるものでもない。


 こんな人が視聴者にいたら、絶対俺の人生は終わっていた。


「それで今からどこに向かっているんですか?」


「花屋だ」


 こんなに顔が怖い人が花屋に行ったら、他の客が逃げてしまうだろう。


 店員もびっくりして腰を抜かしてしまう。


「花屋ですか……」


「ああ、ダミアンも花が好きそうだからな」


 あなたは花が好きなわけではなく、毒が好きなんですよね?


 俺はちゃんと知っていますからね?


 そんな話をしていたら突然、馬車が止まった。


「当主様つきました」


 馬車の扉が開くと御者が立っていた。


 台を準備して、俺でも降りやすいようにしてくれたようだ。


 さっそく降りようとしたら、父が先に降りて手を伸ばしている。


「ん!」


 これは俺を馬車から自分で降ろしたいということだろうか。


 合っているのかはわからないが、やらないよりはやった方が良いだろう。


 いのちだいじにが作戦だからな。


 仕方ないと思いながら近づくと、わきに手を当ててひょいと持ち上げた。


 せっかく用意してもらった台を使うことはなかったようだ。


 無事に地面に降りた俺は体の向きを変える。


「すみませんでした」


 とりあえず御者に頭を下げる。


 せっかく台を用意してくれたんだからね。


 ただ、御者は震え上がっていた。


「気安くダミアンと話しやがって……クビにするか?」


 微かな声で父の物騒な言葉が聞こえてきた。


「いや、――」


▶︎今すぐにでもクビにしましょうよ!

 さずかにやりすぎではないでしょうか?

 パパが運んでくれるから台はクビだね!


 目の前にいる御者の人生は視聴者にかかっているようだ。


 きっと何気なくゲームをしていると思っているだろうが、まさか現実世界でこんなことになっているとは思いもしないだろう。


 選択一つで人の人生を変えちゃうぞ!


 ちゃんと考えた選ぶんだぞ。


 それにこういう細かな選択肢によっても、ゲームの内容自体は変わっていく。


 ひょっとしたらクビになった御者が、腹いせに殺しにくるとか――。


 現実に起きそうなことだから、どうか選択肢を間違えないで欲しい。


 今すぐにでもクビにしましょうよ!

 さずかにやりすぎではないでしょうか?

▶︎パパが運んでくれるから台はクビだね!


 頭上の選択肢は決まったようだ。


「いや、パパが運んでくれるから台はクビだね!」


 これで問題はないはず。


 それにしても俺の好感度は今日だけで爆上がりしている気がする。


 なのに父はさっきよりも睨みをきかせて威圧がしてくる。


 御者も震えて困っている。


「ダミアン様は私の天使です」


 あれ? 何か違うぞ?


 なぜか御者がお祈りをしだした。


 さすがに巻き込まれたくない俺は手を引っ張って父を誘導する。


「早くお花を見に行こう」


「ああ」


 眉毛に皺を寄せた父は俺に引っ張られていく。


 本当に父は何を考えているのか、表情だけでは理解できなかった。

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