第12話 弟、庭に行く

「本当に姉様には嫌われているんだな」


「それは違うと思いますよ」


「うぉ!? びっくりした!」


 突然声をかけてきたのはメイドのクララだった。


 口元には食べカスが付いていた。


 朝食にたくさんの料理が出ていたのは、残っていたものを従者が食べるためらしい。


 さっきまで一人で歩いていたのも、クララが食事を食べていたからだ。


「兄しゃまのところにはご飯は届けられるの?」


 ポケットにパンを一つ忍ばせたが、さっき転んだ影響で潰れてしまった。


 さすがに潰れたパンを食べさせるわけにはいかない。


「ええ、ちゃんと残してありますよ」


 少し目が泳いでいる気もするが、きっとオリヴァーの分も残っているのだろう。


 それならとパンを見つからずに処分できる場所を探すことにした。


 貴族の坊ちゃんがポケットにパンを入れているって知られたら、さすがに怒られそうだ。


「庭に行ってもいいかな?」


「いいですよ」


 ダークウッド公爵家にもしっかりとした庭がある。


 あのお茶会をやっていた庭だ。


 薔薇ばかりだが、鳥の姿もあったから問題はないはず。


 全て鳥に食べさせて証拠隠滅だ。


「あっ、姉様達ってお茶会するかな?」


「今他の従者が準備していましたが、一緒に参加しますか?」


「んー、僕も――」


▶︎一緒に参加したい

 姉の邪魔はしたくないので別のところに行きましょう

 ストーカーなので覗きだけにしておきます


 今回は特におかしな選択肢はないようだ。


 クララだけには変なやつと思われるが問題ない。


 しばらく待っていると、視聴者の回答が終わった。


「んー、僕も姉の邪魔はしたくないので別のところに行きましょう」


 一緒に参加したい

▶︎姉の邪魔はしたくないので別のところに行きましょう

 ストーカーなので覗きだけにしておきます


 どうやら視聴者もあの雰囲気を感じ取って、邪魔をするのをやめたようだ。


「ではオススメの庭に連れて行きますね」


 俺はクララに手を引かれながら、他にある庭に向かうことにした。





「えーっと……クララさん?」


「何でしょうか?」


「ここって本当に庭なのかな?」


 俺の目の前には薄暗い庭で少し霧がかかっていた。


 それに様々な場所で毒々しい花が咲いていた。


 一番綺麗な花でもよく見たら彼岸花だった。


 彼岸花って見た目は綺麗でも、全ての部分に毒があり、球根には特に強い毒を持つ有毒植物だった気がする。


 それに彼岸花があるということは、近くに死体が埋まっていると言われているぐらいだ。


 日本でも土葬だった時代は、お墓の周りにモグラが掘り起こさないように彼岸花を埋めていた。


 だから俺の中でも彼岸花は良いイメージがない。


 ただ、見た目は華やかで好きだ。


「綺麗な花ですね」


「ああ、俺も好きだな。その毒を飲ませれば吐き気や下痢が続くからな」


「へっ!?」


 振り返るといつの間にかクララではなく、父が立っていた。


 ひょっとしてここは父が好きで有毒植物ばかり集めた庭だろうか。


「スズランやスイセンも綺麗だろ」


 ニヤリと笑う父の顔が完全に危ない奴にしか見えなかった。


「あっ……そうですね」


 まずはここを切り抜けるには、父の話にとりあえず"YES"だけ返しておけば良いだろう。


 これが社畜生活で学んだ、生きていくために必要な法則その一だ。


 とりあえず一生懸命微笑んでみたが、ちゃんと笑えているだろうか。


 段々と父の顔が険しくなっている気がする。


「父様……パパは花が好きなんですか?」


 父様と呼ぼうとしたら、さらに顔が険しくなった。


「ああ、俺はがある花が好きだな」


 やっぱりここにある花は全て毒があるらしい。


 今後ここには近づかないようにしよう。


「ダミアンは花が好きなのか?」


「あっ……はい!」


 ここでニコリと笑えば――。


 全然良くなかった。


 俺を睨みつける目がさらに強くなっている。


 絶対この後試食でもしてみろと、彼岸花を渡してくるだろう。


 考えただけで震えが止まらない。


「それなら新しい花を買いに行こうか」


「へっ!?」


 まさかの言葉に俺は戸惑っていると、体が宙に浮き出した。


 いや、父に抱きかかえられていた。


 間近で見た父の顔はイケメンだが、迫力ある怖い顔をしていた。


 どうやら俺は抱きかかえられながら、どこかへ出かけるらしい。

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