第34話 兄、弟の誘拐 ※オリヴァー視点
「ダミアンはどこに行ったんだ?」
「さっきクロに肉をあげてくるって嬉しそうに中庭に言ったわよ」
「それにしても遅くないか?」
俺は時計を見てダミアンが中々帰ってこないことが気になっていた。
ダンスが終わり、休憩しに行ったにしては遅い。
それでイザベラに声をかけたら、獣人のクロに肉を渡しに行ったと言っていた。
あいつも最近ダミアンにベタベタして気に食わないが、ダミアンから触れているから仕方ない。
それで俺がダミアンに嫌われる方が嫌だからな。
「ちょっと見てくるよ」
「なら私もいくわ」
俺はイザベラと共に中庭に行くことにした。
「それなら私もついて行こう」
それなのに殿下も付いてくると言い出したのだ。
「いえ、殿下には――」
「私は風に当たりたいだけだから心配しなくても良い。王族の私が外に出てはいけない理由はないだろう」
「くっ!」
イザベラも悔しそうな顔をしていた。
王族って言われたら、貴族である俺達は従うしかない。
最近やたらとダミアンに突っかかってくるが、婚約者のイザベラでも止められなくなってきた。
気づかれてはないと思うが、殿下には変わった趣味があるからな。
きっと可愛いダミアンを自分のものにしたいのだろう。
「お父様、少し風に当たってきます」
「ああ」
俺達は父に一言伝えて中庭に出ることにした。
「まだまだ寒いわね」
外に出ると風が強く吹いていた。
こんな中にダミアンがいるのかと思ったら、早く会場に連れ戻さないと風邪を引くだろう。
ダンスで汗をたくさんかいていたからな。
すれ違った時にダミアンの汗を舐めてみたが、今まで食べたデザートよりも甘い気がした。
それに気づかないダミアンは無防備すぎるとその時思った。
やっぱり兄が弟を守ってあげないといけない。
「なんか血の臭いがしないか?」
殿下は何を言っているのだろうか。
ただ、この捻くれた殿下も過去に色々巻き込まれたことがあるから血の臭いに敏感なのかもしれない。
「ねぇ、あそこにいるのって」
そこには我が家の獣人が倒れていた。
「おい、大丈夫か」
「早く、ダミアン様を――」
俺達の前で声を出したのは初めてだった。
獣人は獣の姿をしていても話さないわけではない。
ダミアンがクロと話しているところを隠していたから、二人だけの秘密にしたかったのだろう。
そんなクロが話したということは、ダミアンに何かあったのだろうか。
「ダミアンがどうしたんだ?」
「連れさら……」
その場でクロは倒れて意識を失った。
近くにいた従者にクロのことを頼むことにした。
まずはダミアンの居場所を探す方が先だ。
手がかりを……。
「これってイモマッチョか?」
殿下は近くにあったイモマッチョを手に取っていた。
相変わらずウニョウニョして気持ち悪いが、ダミアンの大好物だ。
あのドロッとした液体とムニムニの感触がどこかあれを連想させてしまう。
ダミアンが食べている姿を見て、股間が暴走したのを今でも覚えている。
きっとクロと一緒に食べようと思ったのだろう。
「あれってイモマッチョの液体じゃないかしら?」
転々とイモマッチョの液体がパーティー会場外に向かって垂れていた。
ひょっとしたらダミアンが追えるように細工をしたかもしれない。
犯人の罠かもしれないが、今はそれしか手掛かりがない。
「あれを追っていくぞ」
殿下は一番に駆け出した。
本当に王族なのかと疑問に思ってしまうが、今は人が多い方が良いだろう。
「私も行きますわ」
「俺の大事な弟だからな」
俺達はダミアンの後を追いかけた。
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