第35話 兄、無力さを知る ※オリヴァー視点
外に出てもイモマッチョの液体はポタポタと垂れていた。
特徴的な白い液体は整備された地面に目立つように色が付いている。
一瞬錯乱させるために犯人がつけたのかと思ったが、犯人も焦っていて気づいていない可能性もあった。
「おい、お前達勝手にパーティーから抜け出すとは何事だ」
突然体が重くなったと思ったら、すぐに父の声が聞こえた。
俺とイザベラの体を掴んでいたのだ。
普段は魔力に驚いて体がビクッとするが、ダミアンを追うことに集中して気づかなかった。
それだけ俺達にとってダミアンは大事な存在だ。
「ダミアンが誘拐され――」
「誘拐だと!?」
ダミアンの話をしたらその場で気持ち悪くなるほど、魔力が解き放たれた。
父の魔力はこの国でも恐れられているほどだ。
近くにいた野良猫も一瞬にして気絶する。
「ダークウッド公爵、魔力を弱めてくれないか」
「はっ!」
殿下に言われて父も魔力を調整すると、普段の怖い顔に戻った。
いつも魔力を調整している時は、悪魔のように怖い。
ダークウッド公爵家は魔力が多いため、それを制御するために目つきが悪くなる。
そうでもしないと多すぎる魔力が溢れて出てしまう。
「それで何を手掛かりにしているんだ?」
「イモマッチョの液体です」
「ああ、ダミアンだな」
イモマッチョを食べる人=ダミアンっていう認識に父もなっているのだろう。
父もダミアンに勧められたときは、目を閉じて一瞬で飲み込んでいた。
本当になぜ平気な顔で食べられるのか疑問だ。
ダミアンは昔からどこか変わった弟だからね。
それがまた愛らしいってのもある。
「すぐにダミアンを連れて戻るぞ」
父はそう言って走っていく。ただ、速すぎて追いつくのがやっとだった。
「はぁ……はぁ……」
俺達は息を整える。
街の路地裏を通り、角を曲がったところで急に父は立ち止まっていた。
小さな倉庫に人がいるようだ。
よく見るとそこには、縛られたダミアンの姿があった。
「私が一番に縛る予定だったのに……」
隣にいる殿下から不吉な言葉が聞こえた。
やはりダミアンを殿下に近づけてはいけないようだ。
それはイザベラも思ったのだろう。
俺達は急いで近づこうとしたが父に止められた。
「首元をみろ」
よく見るとダミアンの首元にはナイフが突きつけられていた。
走ってばれたりでもしたら、ダミアンが殺されるかもしれない。
そう思うと額から冷汗が流れてくる。
俺に力がもっとあればダミアンを悲しませることはなかったのに……。
そう思っても今の俺には全く力がないし、どうにかできるほどの知識もない。
父はバレないように犯人に近づいていく。
「おい、さっき黙れって言ったよな」
「うっ……」
「こんなブサイクはすぐに殺せば良い」
ゆっくりと近づき剣を抜く。
「ほぉ、世界一可愛い我が子をブサイクと呼ぶお前はよほどカッコいいようだな」
「お前はダークウッド公爵!」
「正解だ。モブ伯爵」
父は男に剣を突き刺す。
俺は初めて目の前で父が、人を殺すところを目撃した。でも、なぜが恐怖心は全く感じない。
むしろその姿すらかっこよく見えた。
それと同時に己の無力さに気づかされた時でもあった。
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