第36話 弟、パパは悪役ヒーロー!
「パパ!」
俺は思ったよりも父が助けに来てくれて嬉しかったようだ。
今までにないぐらい父に会いたいという気持ちが言葉として溢れ出ていた。
「ああ、こいつを殺すから待ってろ」
さらっと爆弾発言しながら微笑む父。
うん、ヒーローじゃなくて本当の悪役だった。
「すみません。ダークウッド公爵家の息子と知らず――」
「知らなければ殺して良いと? なら俺もお前のことは知らない」
父は再び剣を突き刺そうとしていた。
これは誰かが止めないといけない。
後ろにいる殿下や兄姉も見ているだけで何もしない。
動けるのは俺しかいないようだ。
「パパダメ!」
俺はそのまま立ち上がりモブ伯爵の前に立った。
こうすれば父も人殺しにならずに済むだろう。
「ダミアン……」
「はっ、自分から人質になりにくるバカだったか」
だが、その行動は間違いだった。
男は再び俺の首にナイフを突きつけた。
モブなりの抵抗だが、そんなことして父が黙っているはずがない。
「ブサイクの次はバカ呼ばわりか。お前はここで死にたいんだな」
父はニヤリと笑う。
どこか猟奇的な笑みに本当の姿はそっちだったのかと思ってしまう。ただ、それはそれでカッコいい気もした。
男ってこういう悪役でかっこいいキャラ好きだからな。
「こいつをブサイクと言って何が悪い。お前も殺人鬼みたいな顔をしているだろ」
「パパは世界一かっこいいもん!」
断じて父は殺人鬼みたいな顔をしているわけではない。
少し危なそうで、簡単に人を殺しそうな悪役顔をしているだけだ。
少し大袈裟に言ったが、父も――。
「くっ……」
その場で悶えていた。
「ははは、どうせ俺を殺せまい!」
どうやら男は自分が何かやったと思っているのだろう。
実際は俺が何かをやらかしてした。
何をやらかしたかまではわからない。
それに俺が捕まっているから、父が手出しできないのは事実。
俺も少しはカッコ良いところを見せないといけないな。
そう思っていると、突然頭上に選択肢が現れた。
▶︎股間を蹴る
顎に頭突きをする
腕を噛みつく
行動を視聴者が選ぶのは珍しい。
今までは言葉と一緒に動いていたが、本当に選択肢単体のようだ。
どれを選択しても良さそうだが、選択肢2だと誤ってナイフに触れる可能性もある。
それなら選択肢1か3だが、同じ男としては1は一番嫌だな。
股間を蹴る
顎に頭突きをする
▶︎腕を噛みつく
どうやら視聴者の中にも男性がいたのだろうか。
一部の女性には心に男性器があると、わけのわからない比喩表現も聞いたことがある。
ここは俺なりにセリフを付けてみるか。
「僕だってパパの息子だもん!」
俺は勢いよく男の腕を噛むと、その隙に父は俺を抱きしめる。
そのまま男に剣を刺して後ろに下がった。
「ぐわああああああ!」
声が倉庫の中に響き渡る。
これで事件は解決するだろう。
それに後ろの方で殿下が終始事件を見ていたようだ。
自己防衛だと言い訳もできるはずだ。
「ふぅー」
大きくため息を吐くと父は俺の顔を見ていた。
「ダミアンもう一回言ってくれ」
えーっと、これはもう一回同じことを言えば良いのか。
「僕だってパパの息子だ――」
「それじゃない」
父はジーッと俺の顔を見つめる。
段々と眉間にシワが寄ってきていた。
――〝パパは世界一かっこいいもん〟
これだとさっきと同じで面白みも減るだろう。
試しに今まで言ったことのない、子ども定番のあれを言ってみることにした。
「パパだいしゅき! 婚約者は見つからなかったけどパパで――」
「それはだめだ」
噛んでまで婚約者はいらないと言おうとしたが、拒否されてしまった。
どうやらちゃんと婚約者をみつけないといけないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます