第37話 弟、獣人に驚く

 パーティー会場に戻った俺達はすぐに終わりの挨拶をしてお披露目会を終えた。


 お披露目会は成功に終わったが、少し血がついた俺と父の姿に他の貴族達は引いていた。


 そんな中で笑っていたのは殿下の父である国王だけだ。


 何かに巻き込まれたのかとニヤニヤしながら、父に詰め寄っている姿を見て自由人だと感じた。


「クロ大丈夫かな?」


「傷はそんなに深くないので、ただ寝ているだけですよ」


 クララの言葉にホッとした。


 あの時俺を助けようとクロは噛みついたが、何かで切りつけられたのだろう。


 腹に切り傷ができたクロはすぐに止血され、今は包帯のような布で巻かれて休んでいる。


 寝息を立てているところを見ると少しホッとする。


 俺もやっとベッドに入って休めるのだ。


 屋敷に帰ってくるまで誰も話すことはなく、兄と姉は思い詰めたような顔をしていた。


 助けに来てくれたお礼を伝えたが、無事でよかったとハグをしたぐらいだった。


「今日はゆっくり休んでくださいね」


「クララもありがとう」


 礼を伝え、布団の中に包まる。


「うっ……」


 自然と涙が溢れ出てきた。


 死を近くに感じて怖くなかったわけではない。


 いくらアラサーのおっさんでも、首元に刃を向けられたら怖いと感じる。


 でもどこかでゲームの世界だと今までは思っていた。


 モブの男が父に刺されて死んだと聞かされたことで、急に実感が湧いてきた。


 この世界は俺が今生きている現実の世界だと――。


 俺が勝手な行動をしなければ、人を殺すことはなかったはず。


 目を閉じると脳裏にあの時の叫び声が今も響いている。


「大丈夫か?」


 声がする方に目を向けるとクロがこっちを見ていた。


「クロちん……?」


 まだ少し意識がぼーっとするのか、目は少ししか開いていない。


「なんで泣いてるんだ?」 


 それなのに俺が泣いていることにすぐに気づいたのだろう。


「俺のせいで人が死んだ」


「そうだな。お前のせいでもあるが、俺のせいでもある」


 クロが何を言っているのかわからなかった。


 どう考えても俺のせいのはずだ。


 クロは何も悪くはない。


「俺がもう少し強ければ、お前にそんな思いもさせなくて良かったんだ」


 それはクロがもし男達に勝てたらという話だ。


 さすがに犬一匹が複数の人間をどうにかできるわけではない。


「ははは、何言ってるんだよ。俺ももっと自分の身を守れるくらい強くなるよ」


「なら明日から一緒に稽古だな」


「そうだね」


 クロの声を聞いていたらどこか安心したのか、次第に眠たくなってきた。


「クロちん、また明日ね」


「ああ」


 俺はクロに抱きつくようにそっと目を閉じた。


「この姿は今日で最後か」


 眠ってしまった俺にはクロの声は聞こえなかった。





 俺は目を覚ますとクロがいるか確認する。


「クロおはよおおおおおおおお!」


 目を覚ますと俺は知らない青少年に抱きかかえられていた。


 一瞬オリヴァーかと思ったが、兄よりも髪が黒く肌が小麦色だ。


 アラブの王子って言われたら納得するような見た目をしている。


 それにしても綺麗な腹筋をしているし、腹には大きな傷がある。


「くくく、朝から騒がしいと思ったがそんなに俺の腹筋が気になるか?」


「うぇ!?」


 どうやら男は起きていたようだ。


 ベッドから降りようとしたが、そのまま転がって落ちてしまった。


「いたたたたた」


「相変わらず鈍臭いやつだな」


 少し体に響くようなハスキーな声に俺は驚いた。


「ひょっとしてクロか?」


「ああ、俺は獣人だからな」


「獣人? 人の言葉を話す犬じゃなくて?」


 獣人といえば動物の見た目をして話す生物のことだと思っていた。


 それなのに今目の前にいるクロは完全に人だ。


 どこからどう見ても人だし、ベッドに腰掛けたクロにはしっかりと股間にあれがぶら下がっている。


「俺がカシューナッツなのにそら豆って感じだな」


「獣人は体がデカイのが特徴だからな。まだまだ大きくなるぞ」


「おっ、おう……」


 今の状態でも昔の俺より大きいのに、まだまだ大きくなるらしい。


 それに以前年齢を聞いた時は同じぐらいだと聞いていた。


 子どもでこの容姿はどういうことだろうか。


 獣人が謎すぎて頭が混乱している。


――トントン!


「ダミアン、ちょっと良いかな?」


 扉をノックして入ってきたのはオリヴァーだ。


 ベッドに腰掛けてあれを見せつけるクロ。


 そしてそれをマジマジと見て混乱している俺。


「ダミアン体は……今すぐに離れろ!」


 ああ、これは変な勘違いをしていそうだな。

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