第38話 弟、平和なダークウッド公爵家

「兄しゃま落ち着いたら?」


「あんな状況を見たら落ち着いてられるか!」


 別にやましいことをしていたわけではない。


 同性同士だと、風呂場で息子の自慢をすることくらい誰だってあるだろう。


 それに今回は単純にクロの体に驚いていただけだ。


「兄しゃまはクロが獣人だって知ってたの?」


「獣人なのもそろそろ成長期に入って人型になるのも知っていたぞ」


 どうやら知らなかったのは俺だけのような気がする。


 それだけ獣人がわかりやすいのだろうか。


「お前はなんでそんな話し方――」


 俺は急いでクロの口を封じる。


 せっかく今まで可愛い弟を演じてきたのに、ここで暴露されたらキャラが崩壊してしまう。


 まだゆるふわキュルルンの見た目をしている時は、このキャラを通し続けたい。


 できれば誰だって人生イージーモードでいたいはず。


 俺のゆるふわキュルルンの見た目はそれを可能にするのだ。


「おい、だからダミアンから離れろって言っただろうが!」


 俺はクロの上に乗っていたからか、兄に無理やり剥がされた。


 それにさっきからクロもニヤニヤしている。


 今まで犬の姿だったから、兄と遊べて嬉しいのだろうか。


「クロは早く服を着る! ダミアンはすぐに準備をする!」


 オリヴァーはテキパキと動きながら、俺を着替えさせた。


 たまにしか部屋に来ないはずなのに、オリヴァーは下着や服の場所までしっかり把握していた。


 どこに何が置いてあるのかわかっているようだ。


 きっと記憶力が良いのだろう。


 着替えが終わるとクララが部屋に入ってきた。


「クララはクロを頼む」


「わかりました」


 オリヴァーはそれだけ伝えると、俺を部屋から連れ出すために引っ張った。


 特に何も話すことはなく、いつのまにかダイニングルームに到着した。


「ダミアンよく寝れたか?」


 すでに俺以外は席に座っていた。


 昨日あんなことがあったのに、父はいつもと変わらない表情をしている。


 俺よりも年下のはずなのに、精神年齢も父の方が上のようだ。


「たくさん寝れたけど、クロが人間になってたからびっくりしたよ」


「あいつは獣人だからね」


「だからあんなに兄様の声が響いていたのね」


「クロちゃんの新しい姿が気になるわね」


 やはり話せるただの獣だと思っていたのは俺だけだった。


 どこか仲間外れにされていた気がして寂しくなる。


「そんな悲しい顔をするな。さぁ、食事にしようか」


 俺がいつものように椅子に座る。


「ダミアン?」


「はい」


 父に呼ばれたため、視線を上げるとこっちを見て微笑んでいた。


「婚約相手が見つかるまで、パパの婚約者になるんだろう?」


「えっ?」


 部屋の中にいる従者も含めて声が揃った。


 昨日冗談で言ったが、途中で止められたから忘れていた。


 それに婚約者は作れと言っていた気がする。


 婚約者と朝食に何が関係しているのだろうか。


 俺が首を傾けて考えていると、父は自分の脚を叩いていた。


「ダミアンの席はここだぞ」


 ああ、そこに座って食べさせてもらうってことか。


 俺が椅子から立ち上がると、みんなして自分の脚を叩いていた。


「たまにはママのところも良いわよ」


「それなら俺のところでもいいでしょ」


「仕方ないから私が食べさせても良いわよ」


 どうやらみんなして俺にご飯を食べさせたいらしい。


 一体何が起きているのかはわからない。ただ、昨日の事件がきっかけで何かが変わったのは確かだ。


「とりあえず今日はパパのところにするね」


「うっし!」


 父は机の下で小さくガッツポーズをしていた。


 弟を守れなかったと後悔する兄。


 いつも冷たくすることしかできない姉。


 自分の不甲斐なさに気づく友。


 自分が一番ではなくなった王子。


 あの事件がきっかけで、各々の時間が大きく動き出したことに俺は気づかなかった。


───────────────────

【あとがき】


「どっ……どうしたら破滅フラグが折れるんだ……」


 ゆるふわキュルルンのカシューナッツが助けを求めているようだ。


▶︎★★★評価をする

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「こっ……これは……!?」


 選択肢の投票が行われた。


「★★★評価をよろしくお願いします!」


 どうやら★★★評価をすると破滅フラグが折れるようだ。


「BLフラグは……?」

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