第30話 弟、ダンスの相手は誰だ?
みんなの視線が俺に突き刺さる。
きっと今頃は矢印マークが本当に突き刺さっている描写が出ているだろう。
それぐらい見られている。
ダンスは基本的に婚約者がいれば、その人と踊るのが習わしだ。
ただ、そんな相手がこのゆるふわキュルルン男子にいるはずがない。
その場合は近い爵位の相手に声をかけて踊ってもらうことになる。
一度挨拶に来た時に娘を相手にどうだと紹介されるのが一般的らしい。しかし、今回は父に圧倒されてみんなそさくさと逃げてしまった。
「誰に声をかけたら良いんだろうか……」
俺から声をかければ良いはずだが、誰が近い爵位の人か覚えてもいないし、なぜかみんな隠れている。
そんなに俺と踊りたくないのだろうか。
中身がおっさんでもゆるふわキュルルンカシューナッツボーイだぞ。
まだ身の危険を感じるほど男らしさもない可愛いやつだぞ。
同性と遊ぶ感じで楽しく踊るという選択肢もあるはず。
それなのになぜ隠れるんだ。
俺は周囲をキョロキョロして戸惑っていると声をかけられた。
「ダミアン、俺と一緒に踊る?」
声をかけてくれたのは兄のオリヴァーだ。
家族で同性だが、今のこの状況を見て心配になったのだろう。
優しい兄についつい緊張していた頬が緩んで微笑んでしまう。
「兄しゃまが踊って――」
「いや、ダミアンは私と踊りませんか?」
「へっ!?」
次に声をかけてきたのは殿下だった。
婚約者の姉がすぐそこにいるのに俺にダンスを申し込んできた。
ひょっとしたら婚約者の弟に恥をかかせないように気を使ってくれたのか?
優しいようで優しくない気がする。
ここで殿下の手を取ったら、恥ずかしい思いをするのは俺だ。
「殿下にそのようなことはさせられませんわ! 私がダミアンと踊るわ!」
「姉様?」
「なによ! 私と今まで練習してきたから完璧に踊れるじゃないの!」
次に声をかけてきたのは姉のイザベラだ。
確かにイザベラは一緒に練習しただけあって、一番踊るのに適しているかもしれない。
それに女性だから見ていて周りも違和感を感じにくいだろう。
だが、今の状況をよく考えてくれ。
兄のオリヴァー、姉の婚約者である殿下、姉のイザベラと全て身内だ。
考えただけで相手がいないから、身内が気を使って踊ってあげたと言っているようなものだ。
俺はどうしようか迷っていると、遠くに同じゆるふわキュルルン男子のフェルナンがいた。
手を振ると俺の存在に気付いたが、父親の背中に隠れてしまった。
本当に頼れる人がいなくて戸惑う。
すると頭上に選択肢が現れた。
▶︎オリヴァーとダンスをする
殿下とダンスをする
イザベラとダンスをする
最終判断は視聴者に委ねることになった。
ここまできたらそっちの方が、俺としては助かる。
結果が出るまで待っていると、矢印が動き出した。
オリヴァーとダンスをする
▶︎殿下とダンスをする
イザベラとダンスをする
どうやらダンスの相手は殿下になったようだ。
体が勝手に殿下の方へ動いていく。
今まで口が動いていたが、体も動いていく仕組みもあるようだ。
イベントからは逃げられない。
それと同時にどうにか破滅フラグは回収しないといけないことがわかった。
イベントからは逃げられないからな。
「殿下、一緒に――」
「おい、ダンスは父である私が一緒に踊る決まりだ」
「へっ?」
▶︎父とダンスをする
頭上にあった選択肢は横から押し飛ばされ、父の名前が出てきていた。
それに父と踊る決まりはなかったはずだ。
どういう状況なのか戸惑っていたが、頭の中に一つの言葉がよぎった。
――
確かに今までのことを思い返すと父の好感度は最近爆上がりしていた気もする。
常にご飯を食べさせてもらったし、最近は一緒に昼寝することもある。
それを思うと好感度システムの可能性は捨てきれない。
振り返ると兄姉や殿下はその場でしゃがみ込んでいた。
どこか体調が悪いのだろうか。
それなら父と踊るしか方法はないだろう。
「ダミアン行くぞ」
せっかく父と踊るなら、今後のためにも愛嬌を振り撒いた方が良いだろう。
「パパとダンスができてよかった! 一番はパパがよかったんだ!」
俺は今までにないぐらい微笑んだ。
あー、アラサーのおじさんが何を言ってるんだろうか。
「くっ……」
せっかく頑張って言ったのに、父は険しい顔でそっぽ向いていた。
アラサーのおっさんが頑張って言ったのにな。
俺の心は傷ついた。
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