第29話 弟、ゆるふわキュルルンに会う
ああ、あんなことを言うんではなかった。
そう思わせるほど父の顔はニヤニヤとしている。
「俺はダミアンのものか。そうかそうか」
俺は見慣れている顔だから、ただ悪役顔のイケメンがニヤニヤしているようにしか見えない。
ただ、招待された貴族達は引いていた。
「私もダミアンのものよね? そうだよね?」
「ママは兄しゃまと姉様のものでもあるよ?」
ここで返事したら父が再び拗ねそうだし、兄と姉を可哀想に感じてしまう。
「そんなー」
「だってみんなの大好きなママだもん!」
ここで追撃をすれば問題ないだろう。
伊達に童貞おっさんではないからな。
「いやーん、ダミアンはこの世で一番可愛いわ」
この通り母はこうやって扱えばいいのだ。
ただ、アラサーのおっさんにこんなことを言われて嬉しいのかと疑問に思ってしまう。
正直言って、演じて言っている俺の方が辛い。
こういう時こそ選択肢が出てきて欲しい。
そうしたら勝手に口が動いてくれるからな。
俺の精神的なダメージは少なくなる。
「ははは、ダークウッド公爵家は以前と比べて明るくなったってことだな。ダミアン、せっかくのパーティーを楽しむんだぞ」
王は豪快に笑ってどこかに行った。
どうやら問題は解決したようだ。
いや、まだ解決していないことが山積みだった。
「ダミアン、兄さんはダミアンのものではないのか?」
「私は殿下のものだけど、仕方ないからダミアンのものになっても良いわよ」
やはり今日はやたら家族が優しい気がする。
姉がこんなに優しいはずないからね。
「兄しゃまも姉様も僕のもの!」
とりあえず幼い兄姉二人に微笑んでおく。
ずっと笑っているから表情筋が疲れてくる。
それなのに兄と姉の顔は険しくなっていく。
あれ?
言葉の選択は間違えてないはずなのにな……。
王の挨拶が終われば、少しずつ貴族達が俺に挨拶しに来た。
みんな父にビクビクしており、特に印象がなかったが一人だけ記憶に残っていた。
「ヴァンサン公爵家のフェルナンです。ダミアン様と同い年になります」
「わぁー、とても可愛らしいですね」
目の前にはゆるふわキュルルン系の茶髪バージョンがいた。
俺と並んだらアイドルユニットができそうな可愛さだ。
俺は黒髪だから猫系に近いが、フェルナンはリスなどの小動物系に近いだろう。
「私は将来騎士になります。その時はダミアン様の騎士にさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「フェルナンが?」
「はい!」
こんなに可愛い少年でも、この国では将来が決まっているのだろう。
フェルナンの父も俺の父と話しているため、比較的爵位が近いから仲が良いのだろう。
今後も関わりが深い相手になりそうだしな。
「んー、まだ頼りないから今は僕が守ってあげるね」
どちらかといえば中身がおっさんの俺が守るべきなんだろう。
そう思って伝えたが、フェルナンは驚いた表情をしていた。
「えっ……」
あっ、これはまた間違えたのだろうか。
フェルナンは泣いてどこかに行ってしまった。
「ははは、私のフェルナンはまだまだ子どもだからすまないね」
そう言って父と話を終えたヴァンサン公爵家の現当主はフェルナンを追いかけて行った。
「パパ……僕何か間違えたのかな?」
「騎士家系だから仕方ない」
ヴァンサン公爵家は代々騎士家系のため、将来は騎士になるのが当たり前だ。
だから俺の言葉で傷ついたのかもしれない。
戻ってきたらちゃんと謝った方が良いだろう。
そんなことを思っていたら、何かの演奏が流れてきた。
「ダミアン、ダンスの時間だぞ」
俺の運命を決めるお披露目会の一番のイベント。
ダンスを披露する時がやってきたようだ。
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