第28話 弟、パパ大好きっ子になる

「ダミアン、イモマッチョだ」


 父の脚の上に座っている俺は、大きな口を開けて待機している。


「んー、いつもより濃厚だね」


 普段のイモマッチョより味にチーズぽさが出されており、濃厚なイモマッチョだ。


「ああ、今日のために最高級を用意したからな」


 最高級のイモムシ――。


 いや、イモマッチョだ。


 高いのか安いのかはわからないが、パーティーにも出されるぐらいだから高級品なんだろう。


 それにみんなが俺を見ている。


 そんなに食べたいのだろうか。


 なんで俺は父の膝の上にいるかって?


 単純に離してくれないからだ。


 完全に体がロックされて動けないでいた。


 さすがダークウッド公爵家当主だ。


 体術も極めているのだろう。


「みんな――」


 ここで俺の口は止まった。


▶︎にはあげないよ!

 に食べさせても良い?

 に食べさせてもらった方が良いのかな?


 全く異なる選択肢に俺は戸惑う。


 ダークウッド公爵家なら選択肢1が正しいだろう。


 ただ、選択肢2ならダークウッド公爵家の優しい次男と呼ばれるようになるだろう。


 選択肢3に関しては、もはやなぜ出てきたのかわからない。


 たまに現れる謎の選択肢が今後どういう形でAIが学習していくのか全く不明だ。


 できれば選択肢2をお願いします!


 にはあげないよ!

 に食べさせても良い?

▶︎に食べさせてもらった方が良いのかな?


「みんなに食べさせてもらった方が良いのかな?」


 なぜその選択肢が選ばれたのだろうか。


 俺の言葉で父の顔がイケメンラスボスから第二次形態になっている。


 鬼のような形相で俺を見ている。


「なぜだ?」


 俺は見慣れているから何も思わないが、お披露目会に来た子ども達が恐怖のあまり震えているのが見えた。


 確実にラスボスに怯えるはじめの町にいる村人状態だ。


 ここは俺がフォローしないとな。


「僕のお披露目会だけど、パパを独り占めしたらダメだと思って……」


 少し落ち込んだ表情を追加で演出した。


 年齢的には俺の方が上だから、演技なんてすぐにできてしまう。


「くっ――」


 また選択肢を間違えたのだろうか。


 父の顔がさらに険しくなった。


「ははは、こいつのこんな顔が見れるとは思わなかったな」


「はぁー、だからお前を呼びたくなかったんだ」


「さっきぶりだね。私が挨拶しないとみんな挨拶に来れないからな」


 俺は父の上から降りて、王らしき人に目を合わせる。


「この国で王をしているクラウスだ。君の将来の夫だな」


「えっ?」


 夫ってどういうことだろうか。


 他にも違う意味の単語があるのか。


 どういう意味なのか分からず、俺は父の方を見るとすごい顔で睨んでいた。


 もうヤクザや悪人を超えて悪魔に見える。


 あっ、そういえば挨拶をされたら、話が終わるまで他の人が入ってくることができない仕組みになっていた。


「えーっと、先ほどは失礼な態度で申し訳ありませんでした。ダークウッド公爵家次男のダミアンです」


 さっき父に抱かれた状態で挨拶をしたため、しっかりと訂正をした。


 これで問題にならないと思ったが、背中からチクチクとした視線が痛い。


「ほぅ、この年齢で礼儀もしっかりしているのか。それで申し訳ないことをしたと思っているから、私に抱かせてくれるのだろうな?」


 王は父に何か視線を送っていた。


 その顔は笑っている。


 この人結構意地悪な性格なんだろう。


 さっきから父の舌打ちと苛立ちが足音に変わり、ちょっとしたリズムに聞こえてくる。


 ここはちょっと父の機嫌を取っておこう。


「いや、パパは僕のだもん。おうしゃまにはあげないよ」


 振り返って父に隠れようとしたら、そのまま躓いてダイブしてしまった。だが、父は軽々と受け止めた。


 その顔は見たこともないほどニヤニヤしていた。

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