第31話 弟、父を尊敬する
父は俺の顔を見てキリッと表情を変える。
いや、あれは睨んでいるのだろうか。
体の周りからモワモワとした何かが出てきている。
「一緒に踊りませんか?」
片膝立ちで父は僕の手を取った。
ひょっとしてこれは俺が女性役ということだろうか。
殿下や兄とは練習していたため、特に問題はない。
むしろこういう時のために、あの二人は女性側の練習もさせていたのかと納得できた。
「よろしくお願いします」
父の手を取ると、さらに顔がキリッとした。
文字でエフェクトが出るぐらいの勢いだ。
「ああ」
俺を睨んではいるが、なんとなく喜んでいる気がした。
この人って普段怖いほど無表情だけど、嬉しそうな時にキリッと睨みつけることがある。
好感度システムによる影響かもしれないと、思えば思うほどそう感じてしまう。
ちなみに父とは一緒に練習はしたことがない。
ここで俺がミスをしたら、父の顔に泥を塗ることになるだろう。
「さあ、踊ろうか」
父が立ち上がると問題が生じた。
「パパ、大きい」
「くっ!?」
身長が高めの父と踊るってなると、手を上げてバンザイをした状態になる。
むしろ少し足が浮いていた。
それで踊るにはさすがに姿勢が崩れるし、操られている人形状態だ。
もはや体格差では解決ができない。
きっとお披露目会は失敗するのだろう。
「これじゃあ、一緒に踊れ――」
今まで頑張ってきたことが台無しになる。
中身がおっさんでも、小さい体で毎日必死に練習してきた。
そのことを思い出すと涙が出てきそうだ。
「大丈夫だ」
父はそう言って足を動かし始めた。
その姿勢は中腰のままだった。
父に合わせてステップを踏んでいくが、だんだんと表情が険しくなってくる。
大人を経験している俺だからその辛さは知っている。
今の父はあの時の俺よりも身長が高い。
そして俺は同じ年代に比べて小さめだ。
これってめちゃくちゃ腰が痛いやつじゃないか。
「無理しなくても――」
気づいた俺は父に声をかける。
「我が子の晴れ舞台を台無しにすることはできないからな」
それでも彼は俺の父だった。
若いのにその気持ちについ拍手したくなる。
クルッと回るタイミングで僕の体は宙に浮いた。
「えっ……」
同時に父は体を起こして、腰を伸ばしていた。
父の器用さに驚きを隠せない。
きっと一瞬の出来事で誰にも、バレてないだろう。
宙を回っている俺に注目が集まっているからな。
今は悪役よりもフィギュアスケートでもやっているのかと思うほど輝いている気がする。
いや、もはやクルクルしすぎてトリプルアクセルを飛んでるみたいだ。
そのまま俺はキャッチされると同時に曲が終わった。
急いでポーズを決める。
会場は静けさに包まれていた。
父の顔を見ると、ニコリと笑っている。
ああ、今の笑顔はさすがに中身がアラサーのおっさんでもドキッとしてしまった。
「うおおおおお!」
会場が拍手と同時に絶賛する声が鳴り響く。
どうやら成功に終わったようだ。
「パパはすごいね!」
「ダミアンのためならなんでもできるぞ」
この世界に来て父の凄さを感じた。
二人で礼をしてその場を去ろうとしたが、そうもいかなかった。
「次は私と踊りませんか?」
「父の次って来たら兄だろ?」
「殿下にご迷惑をおかけする前に、私が踊ってあげますわ!」
後ろにはさっきまで選択肢で出ていた三人が立っていた。
ああ、好感度による強制イベントの後にもちゃんとしたイベントが待っていたようだ。
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