第15話 弟、犬の常識が変わる
「いっ……犬が話してる!?」
「おい、そんなに俺が話したらおかしいか」
俺は全力で頭を縦に振る。
だって、世の中犬が話すとは思わないだろう。
しかも見た目が黒色のポメラニアンだ。
ただ、大きさは大型犬ぐらいはある。
「お前は何でこんなところにいるんだ?」
「ああ、変な黒い物体を追いかけてたら、危ない男にあって逃げてきた」
「ああ、そうか。迷子ってやつか」
「ぐっ……」
否定しようにも否定はできない。
確かに迷子と言われてもおかしくない。
実際に今どこにいるかわからないからね。
そんな俺を元気づけようと、近くに寄って座り出した。
ああ、犬が正座しているよ……。
お利口な犬なんだろう。
腕に触れる毛がもふもふして、触り心地は良さそうだ。
――グゥー!
どこからか地鳴りのような大きな音が聞こえてきた。
チラッと犬に目を向けると、そっぽ向いて俺の方を見ようともしない。
どうやら自分ではないと言いたいのだろう。
俺は朝食をたくさん食べたから、まだお腹は空いてない。
だから隣から聞こえたのは間違いない。
そういえば、ポケットには潰れたパンが入っていたはず。
「パンとは言えないな」
ポケットから取り出すと一枚板のようになっていた。
――グゥー!
取り出したと同時に隣からお腹が鳴る音が、再び聞こえてきた。
やはり犬が出しているのは間違いないようだ。
チラッと見ると、よだれをダラダラと垂れ流している。
意地悪で口元に運ぼうとすると、だんだん顔が近づいてきた。
「食べる?」
「俺が人間から食事をもらうはずがない」
どうやら人から貰うのは嫌なようだ。
野生の犬は強がっているのだろうか。
正座をした状態で言われると威厳も怖さも感じない。
いや、犬が正座しているだけでも怖いか。
「なら、お腹いっぱいだから鳩にでもあげよう――」
「ちょっと待て、鳩なんかにパンをあげるんか?」
「だってお腹空いてないし、ずっとポケットに入れておくのも嫌だしね」
「それなら俺が食べてやってもいいぞ?」
さらに顔を近づけてくるため、よだれがポタポタと服に落ちている。
正直に食べたいと言えば良いのに、まだ強がっていた。
そこで良いことを思いついた。
「あっ、じゃあパンをあげるから表通りまでの道を教えてよ」
「ふん、それぐらいはやってやろう」
話しているのに視線はパンに釘付けだ。
よしよし、さらに意地悪でもしてやろう。
「ほらパンをあげたよ」
俺は両手を高く上げる。
「なっ、それは卑怯ではないか」
「だってさっきから正直に言わないからでしょ? 本当はパンが食べたいんだよね?」
「ぬっ……」
犬は俺を睨むと大きくため息を吐いた。
「パンをくれ! 早くパンをくれええええー!」
どうやら相当お腹が空いているのだろう。
ジタバタとする犬にそのままパンを渡す。
そのままの勢いで立ち上がった。
ムシャムシャと美味しそうにパンを持って齧っている。
この世界の犬って二足立ちもできるんだな。
さっきから驚きばかりで頭の思考回路がおかしくなりそうだ。
それに今頃パンを与えても良かったのかと疑問に思う。
惣菜パンではないから、変なものは含まれていないはず。
ただ、バターや砂糖に塩が多く含まれていなければ問題はないだろうが……。
少し心配になってきた。
「体調大丈夫?」
「問題ない」
どうやら体に悪いものは入っていなさそうだ。
食べている姿を見ていると、ついつい撫でたくなってしまう。
知らぬ間に手が伸びていた。
「やらないぞ?」
どうやら取られると思ったのだろう。
「全部食べていいからね」
優しく頭を撫でると嬉しそうにしていた。
犬はどの世界にきても可愛いのは変わりない。
正座もするし二足立ちもするけどな。
しばらく待っていると食べ終わったのか、口元を手で拭いていた。
「ははは」
どこか人間らしい姿についつい笑ってしまう。
それでもまだお腹が空いているのか、お腹が鳴っていた。
今度来る時はたくさんパンを持って行こうかな。
「じゃあ、外まで送るぞ」
「ありがとう!」
俺は犬の後を追うように歩きはじめた。
だが、角を曲がった瞬間に突然足を止める。
「どうしたの?」
「魔物が出た」
そこにはさっきまで追いかけていた謎の黒い物体がいた。
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