第16話 弟、魔物は可愛くない

 魔物ってよくゲームやアニメに出てくるあいつらだろうか。


 倒したら仲間になりたがっていると、起きてくる可愛らしいやつだった気がする。


「気持ち悪い」


 やはり出てくるのはこの言葉だけだろう。


 この世界の魔物は可愛さが全くなかった。


 簡単に言ったら気味悪い。


 大きなネズミみたいな形をしているが、目は飛び出て、体からは内臓みたいなのが飛び出ている。


 それでも普通に動いてケラケラと笑っている気がした。


「逃げるぞ!」


 俺はそのまま逃げようとしたが、犬はその場で立ち止まっていた。


「早く逃げ――」


「動けないんだ!」


 犬は動けないのかその場で固まっている。


 どうやら怖くて足がすくんでいるのだろう。


 さすがに逃げるにも体が大きいため、運ぶのに時間がかかる。


 それにダミアンの体って転びやすいし、そんなに足は速くない。


 逃げるよりもそのまま追い払った方が簡単な気がした。


 周囲を見渡すと、そこには大きな木の棒と石が落ちていた。


 視線を逸らさないように、ゆっくりと近づいて行く。


 木の棒まで残りわずかとなった瞬間に、魔物が走って飛びかかってきた。


 だが狙っているのは犬だった。


 人よりも犬の方が襲いやすいと思ったのだろうか。


 俺はすぐに石を持って投げた。


『ギャウ!』


 見事顔面に命中して鳴き声をあげていた。


 元野球部を舐めたらあかん。


 無駄にボールを投げていないからな。


 ただ、ダミアンの体と昔の自分の感覚が合っていないのか、その後も石を投げるが当たらない。


「おい、俺を置いて早く逃げろ」


「嫌だ!」


 ようやく魔物は俺を先に倒した方が良いと認識したのだろう。


 俺は木の棒を構える。


 いつ来ても木の棒なら直接殴ることはできる。


 動かなくなったら、何度も叩けば倒すこともできるはず。


 ただ、その考えが間違いだった。


 魔物が飛びかかってきた瞬間に俺は木の棒を大きく振りかぶった。


 こんな遅い物体なら、ホームランは確実だ。


――バキッ!


「えっ……」


 魔物の体に当たった瞬間、木の棒がそのまま折れた。


 ちゃんとしっかりした木だったはず。


 構える前に地面に叩きつけて、感触を確かめた。


 それなのに簡単に真っ二つに折れたのだ。


 すぐに体を傾けて避ける。


 だが、転びやすいダミアンの体は運悪く、地面の隙間に足を引っ掛けた。


「痛っ……」


 その場で俺は尻もちをついていた。


 すぐに目を開けると、よだれを垂らしながらゆっくりと近づいてくる魔物。


 近くで見ると魔物の気持ち悪さがより目立つ。


「食べても美味しくないです! ゆるふわだけど、わたあめとは別物です!」


 必死に食べられないように抵抗する。


『グワアアア!』


 そのまま俺に向かって飛びかかってきた。


 だが、その瞬間に全身が震えるような恐怖感に襲われた。


「消え去れ!」


 声が聞こえたと同時に魔物は破裂した。


 俺の目の前で目や内臓が飛び散っている。


 あまりの気持ち悪さに吐きそうになるが、今はそれどころではない。


 この震えるような感覚は何なのか。


 また新しい魔物が出てきたのか。


 そう思い、視線を向けるとそこには父と花屋の手下達がいた。


 ああ、魔物の方がよっぽど優しいだろう。


 怖い殺人魔顔のヤクザが俺を見て睨んでいた。

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