第3話 弟、痛くないもん! ※一部クララ視点
逃げるように部屋に戻ると、すでにクララは部屋の中にいた。
「ダミアン様どこに行ってたんですか!?」
いや、俺を置いてどこかに行ったのはクララの方だ。
「クララがいなくなるから……」
「くっ……」
正直、帰ってくる時におもいっきり転んだのが痛くて泣きそうだ。
必死に堪えながら伝えると、クララも自分のせいにされたことで怒っているのか何も言わない。
ずっと目頭を押さえて天井を見ている。
目頭を押さえて堪えたいのは俺の方だ。
小さい体だと、少しの傷でもめちゃくちゃ痛いんだぞ!
「ごめんなしゃい……」
謝るとクララの目は大きく見開いた。
「あっ、ダミアン様が悪いわけではないですよ。足も怪我をされているようなので手当をしますね」
その言葉を聞いて冷や汗が垂れて来た。
俺が頭を打っただけでクララは殺されそうになった。
怪我をしたのがバレたらきっと殺されてしまうだろう。
この家は悪役……いや、ヤクザの集まりだ!
「大丈夫、痛くないもん!」
必死に強がることにした。
ただ、痛いのは変わらない。
俺の白い肌がさらに大きな擦り傷を目立たせていた。
「もう寝るから心配しないでね」
とりあえず布団の中に篭る。
そうしたらバレないだろう。
ただ、俺の体は疲れていた影響か知らないうちに眠っていた。
♢
ボロボロの姿でダミアン様は帰ってきた。
痛みに耐えている姿は私の心を揺さぶった。
「ダミアンは大丈夫かしら?」
私が布団の中で眠ってしまったダミアン様の足をそっと治療していると、姉であるイザベラ様が心配そうに部屋に入って来た。
私は口元に手を当てて静かにするように伝える。
「今は眠っています。転んだのに泣かないで我慢していたんですよ」
「ああ、私のせいよ……」
私はイザベラ様に椅子に座らせて話を聞くことにした。
「何かあったんですか?」
「あの性格がひん曲がった王子と手を繋いでいたのよ! 可愛いダミアンの性格が曲がったらどうするのよ」
どうやら私がいなくなった後に何かあったのだろう。
ちゃんと声をかけたのに、ダミアン様には聞こえなかったようだ。
その結果、王子と会わせることになってしまった。
それにこの国の王子はすでにダークウッド公爵家を敵に回したようだ。
ダミアン様はダークウッド公爵家の天使と言われている。
そのダミアン様と手を繋いだ。
それだけで地位に関係なく死刑確定だ。
それぐらいダミアン様は見た目が
ダークウッド公爵家って、とにかく見た目が悪役っぽい。
とことん怖い見た目をした人しか集まらない変わった公爵家としても有名。
そんな私の顔も怖すぎて友達ができたことないくらいだ。
そんな中に突如現れた天使に、一瞬でみんなはメロメロになった。
公爵家で働く私も目つきが悪いメイドなのに、ダミアン様ニコニコして天使の微笑みを向けてくれる。
「私が急いで手を解いてあげたのに、ダミアンは勘違いして走って逃げていくし……心配になっちゃうじゃない」
イザベラ様も泣きそうになっていた。
自分の婚約者の腕を無理矢理解いて大丈夫なのかと心配になる。
ただ、今はそれよりもダミアンが走り去ったことの方が気になっているようだ。
そんな彼女も弟を溺愛している。
むしろ溺愛を通り越して病的な感じだ。
「綺麗な顔を涙で汚したらダメですよ。王子なら私が始末しておくので大丈夫です」
私の言葉に安心したのか、イザベラ様は睨みつけるように笑っていた。
ダークウッド公爵家はみんな特徴的な笑い方をする。
それが睨みつけるように笑うのだ。
きっと切れ長の目がそう見えてしまうのだろう。
さっきも心配した当主が目覚めたばかりのダミアン様の元へ急いでやって来たが、不器用な言葉選びが発動していた。
私が落ち込まないように、休暇を取ってリフレッシュさせると言いたいのに始末すると言っていた。
それに首元にゴミが付いていても、すぐに取ってくれる優しい公爵様だ。
全ては公爵家特有の悪役顔の遺伝子に問題があるのだろう。
逆にダミアン様を脅かしてしまったと、悲しそうに帰っていく後ろ姿が印象的だった。
ダークウッド公爵家は全ての人がダミアン様を愛している。
それだけ見た目や性格がとにかく可愛いのだ。
私も見た瞬間に、この人のために命をかけようと誓ったのが最近に感じる。
「んっ……」
どうやらダミアン様が目を覚ましたようだ。
「あっ、お姉様?」
「ふん、やっと目を覚ましたようね」
ここにも不器用なダミアン様好きがいたわ。
さっきまであんなに心配していたのに、うまく言葉に発することができないのだろう。
不器用なイザベラ様。
いや、不器用ばかり集まったダークウッド公爵家ね。
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