第2話 弟、世界を理解する

――視聴者参加型のゲーム


 それはAIが発展したことで開発された、画期的な新しいゲームと言われている。


 毎日同じ時間にゲームが始まり、視聴者が選択肢の中から選んだ通り行動し、選択肢によってAIのストーリーが新しく作られていく。


 普通のRPGゲームに落とし入れるのが難しかったが、この機能が輝いたのは乙女ゲームだった。


 元々決められた選択肢ばかりの乙女ゲームが、毎回選択肢が変わるのだ。


 それを知った女性達は乙女ゲームに食いついて、社会現象になるほどだった。


――夜の21時は乙女ゲームの時間


 そんなことが当たり前になるほど人気だった。


 ただ、自分の好みとは違うルートに進むこともたくさんあり、離れる人が多いのも特徴だ。


「それでもこの選択肢はおかしすぎるだろ!」


 優しくお願いします♡

 できれば痛くない方法で……

▶︎ぐちょぐちょにしてください


 まだ頭上で選択肢に困っているのか、ピコピコと矢印が動いている。


 流石に一番下の選択肢はやめてほしい。


 選択肢を選ぶのは視聴者の投票で決まるため、投票数が多ければ俺はぐちょぐちょにされてしまう。


 俺は必死に願うしかなかった。


 どうやら視聴者の答えが決まったようだ。


 さっきとは違って声が勝手に出てきた。


「あのー、できれば痛くない方法で……」


 選ばれたのは二番目の選択肢だった。


 どうやら視聴者はちゃんとした人達のようだ。


「へぇー、ダークウッド公爵家なのに痛いのが苦手なんだね」


 ひょっとしたら、俺よりも目の前にいるウィリアム王子の方がダークウッド公爵家の息子に相応しそうな笑みを浮かべていた。


 やはりこの選択肢も間違いだったのだろうか。


「ごめんなさい」


「いやいや、気にしなくてもいいよ」


 ウィリアムは薔薇を避けると、軽々しく俺を持ち上げた。


 その勢いに俺はびっくりして動いてしまった。


 あまり年の変わらない少年が動いたら、抱えていた方がどうなるかはすぐにわかる。


 俺は王子を押し倒して薔薇の外へ飛び出した。


「痛たた」


「ごめんなさい!」


 四つ這いで覆うように倒れた俺は必死に体を起こす。


 ああ、姉が婚約破棄されて公爵家が責任を取らされる前に、俺が問題になりそうだ。


 そのことが頭にぐるぐると駆け巡り、知らないうちに涙が溢れ出てきそうになっていた。


 どうやら俺の心は幼いダミアンに引っ張られているようだ。


「殿下……ごめんなしゃい……」


 ついに俺は泣いてしまった。


 そんな俺を見てウィリアムはにやりと笑っていた。


「君は本当に可愛い子だね」


 ウィリアムはそのまま入れ替わるように、俺を押し倒していた。


――チュ!


 そのまま額に優しくキスを落とした。


「えっ?」


 これはどういう状況だろうか。


 考えても何も思い浮かばない。


「これで泣き止んだでしょ?」


「あっ、ありがとうございます」


 どうやら泣いた俺を泣き止ませようとしたのだろう。


 ついホッとしてあんなことで泣いたのが恥ずかしくなってきた。


 きっと今頃頬も赤くなっているだろう。


「可愛いな……」


「ウィリアム殿下!」


 ウィリアムは何かを言っていたが、幼い女性の声でかき消されていた。


 ひょっとして今の声は悪役令嬢感がダダ漏れの姉だろうか。


「お姉ちゃんここにいるよー」


 とりあえず呼んでみることにした。


 するとウィリアムは頭を掻きながら、めんどくさそうに俺を起き上がらせてくれた。


 まだまだ若いのにウィリアムは力も強いようだ。


 姉と同い年と聞いているため、年齢は一つしか変わらない。


 それなのに身長は拳二つ分の差がある。


「怪我もないようだから一緒に戻ろうか」


「うん」


 俺は一緒に姉の元へ行くことになった。


 うん……。


 これはどういう状況だろうか。


 一緒に姉のところへ向かったのは理解できる。


 だが、その間ずっと手を繋いでるのだ。


 しかも普通の握り方じゃなくて恋人握りだ。


 たまに指を動かしてくるため、痒くてついつい笑ってしまう。


「あっ、殿……キャア!」


 俺達を見つけたのか姉と目が合うと、すぐに目線は手元に来ていた。


 あっ、手を繋いだままだった。


 目は大きく見開き、この世のものとは言えない怖い顔をしている。


 姉が近づいてくると、勢いよく俺とウィリアムの手を解いた。


 そして俺をキリッとした目で睨んできた。


 それもそのはず婚約者が弟と手を繋いでいて、嬉しいと思う人はいない。


 しかも、恋人繋ぎだ。


 俺の初体験(恋人繋ぎ)は隣にいる殿下に奪われた。


 さすがに姉弟で破滅フラグを加速させるわけにはいかない。


「姉様ごめんなさい」


「くっ……!?」


 やっぱりイライラしているのか声も出ていない。


 このままではいけないと思い、俺は走ってその場から立ち去ることにした。


 途中でまた足を引っ掛けて転んでしまったが、それでも逃げるように走った。


 もうどんなけ鈍臭い体をしているんだよおおおお!


───────────────────

【あとがき】


「どっ……どうしたら破滅フラグが折れるんだ……」


 ゆるふわキュルルンのカシューナッツが助けを求めているようだ。


▶︎★★★評価をする

 レビューを書く

 ブックマークする


「こっ……これは……!?」


 選択肢の投票が行われた。


「★★★評価をよろしくお願いします!」


 どうやら★★★評価をすると破滅フラグが折れるようだ。


「BLフラグは……?」

 


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