悪役令嬢の弟は今日もBLルートを突き進む〜視聴者参加型の乙女ゲームに転生したが、破滅フラグは折れてもBLフラグは折らせてくれないようです〜

k-ing@二作品書籍化

第1話 弟、ゆるふわカシューナッツになった

「私はイザベラ・ダークウッド公爵令嬢と婚約破棄する」


 学園の入学パーティーで突然の婚約破棄に驚きを隠せない。


 婚約破棄されたのが俺の姉だからだ。


「殿下、なぜ私と婚約破棄をされるんですか?」


「私には大事な人がいる。その人と婚約をするためだ」


 キラキラした装いの男が入学したばかりの俺の元へ歩いてくる。


 俺の後ろにはこの乙女ゲームの世界のヒロインがいた。


 姉と婚約破棄したことは許せないが、そっと道を開ける。


 きっとヒロインに婚約を申し込むのだろう。


 だが、殿下は俺の目の前で止まった。


 そっとその場で片膝立ちになり、俺の手を取った。


「ダミアン・ダークウッド公爵令息よ。私と婚約してくれないか」


 ん?


 ヒロインは俺の隣にいるぞ?


「ちっ、私は兄弟カップリング推しなのに殿下かよ」


 この乙女ゲームのヒロインってこんなにキャラなのか。


 戸惑いすぎて俺の頭は混乱していた。


「どうなってるのおおおお!」


 俺の声はパーティー会場に響いていた。





 俺がこの世界に転生したのは幼い頃だった。


「ああ、これが初体験ってやつか」


 知らない天井に知らないベッド。


 これがいわゆるお持ち帰りというやつだろうか。


 社畜生活で疲れ切っていた俺は知らない間に初体験を終えたようだ。


「はぁー、意外に簡単に捨てられええええ!?」


 手を上げると自分の腕の短さにびっくりした。


 よく見たら俺は服を着ていた。


 どうやら初体験を終えることができなかったようだ。


――ガチャ!


「ダミアン様申し訳ありません!」


 突然扉が開くとメイド服を着た女性が頭を下げている。


 初めて間近でメイドを見たが、中々可愛らしい服だと思った。


 田舎にメイドって中々いないからな。


 それよりも俺のことを〝ダミアン〟と呼んでいたことの方が驚いた。


 全く聞いたことのないアニメみたいな名前で、確実に自分ではない誰かの体に俺が入っていることが確信に変わった。


「やっぱり俺って転生したのか?」


 社畜生活の癒しはアニメやゲーム、ラノベといった非現実的な世界に触れることだった。


 そもそも現実の世界の女性なんか怖くて触れられる気もしなかった。


 その結果、25歳になっても未経験だった。


 童貞特典で転生でもしたのだろうか。


「ダミアン、目を覚ましたのか。それならお前はもういらない役立たずだな」


 突然扉から入って来た男がメイドの女性を掴むと、首を締め出した。


「くっ……」


 明らかに何が起きているのかはわからないが、すぐに止めないといけないことはわかった。


「やめてください!」


 俺の言葉に反応して、男は手を緩めた。


「ほぉ、父親で現ダークウッド公爵の私に歯向かうってことか?」


 明らかにさっきまでとは違う雰囲気に俺の体は震えてしまう。


 それでも今止めないと、目の前の女性が死んでしまうと思った。


 俺は睨んだこともない目で必死に睨んだ。


「くっ……ダークウッド家の次男としてはまだまだだがその根性だけは認めてやろう」


 そう言って男はどこかへ去っていった。


 どうやらこの体の持ち主はあの男の息子のようだ。


 ダークグレーの髪に真っ黒な瞳が特徴的だった父親を一目見た俺でもわかるほど悪役っぽかった。


 むしろ悪役過ぎてカッコ良いと思うほどだ。


 そんな悪役の息子でもある俺はさぞかしイケメンなんだろう。


 近くにあった鏡を手に取り自分の姿を写した。


「なんだこのゆるふわキュルルンな男は!?」


 鏡に映る俺の姿は父親とは似つかない、黒髪天然パーマでもこもこした髪。


 それに真っ黒なキュルルンとした目が特徴的な可愛らしい少年だった。


 どこかトイプードルと言われても納得できる容姿だ。


 ああ、これは転生しても一生未体験のままで終わると直感的にそう告げていた。


「ダミアン様ありがとうございます」


 落ち込む俺をメイドは慰めてくれた。


 ああ、もうこの際ならこの人でも良いのかと思ったがそうもいかなかった。


「ああ、俺の体まだ幼かったわ」


 ズボンをずらして股を見ると、小さなカシューナッツのようなイチモツが付いていた。


 どうやら俺はゆるかわキュルルンな幼児に転生してしまったようだ。



「ダミアン様は悪名高いダークウッド公爵家の次男です」


 俺はメイドのクララに自分のことを聞くことにした。


 どうやらクララは俺のメイドとして働いていたが、俺が転んで頭を打ったことで殺されることになっていたらしい。


 なんとも恐ろしい話にただただ苦笑いするしかできなかった。


 だって転んだ理由が自分の足に躓いただけなんだぞ。


 クララは何も悪くない。


 むしろ悪いのはこのいかにも悪役ですと言っているような〝ダークウッド公爵家〟だ。


 クララに屋敷を案内された時に見た肖像画も、俺以外みんな悪役な顔をしていた。


 父親はもちろん悪役顔、母親めちゃくちゃ美女だったが魔女みたいだった。


 兄はイケメンだが切れ長な目が印象的だったし、姉は〝THE悪役令嬢です〟って見た目を幼いのにしていた。


 なんとなく気づいたが、きっとこのままでは知らない間に破滅の道に進むんではないかと思ってしまう。


 まず父親は誰が見てもわかるほど、めちゃくちゃ人殺しをしてそうだ。


 魔女っぽい母親も同様に人を実験に使ってそうだし、兄も女性を容赦なく叩いてそうだ。


 姉は悪役令嬢として婚約破棄されそうだしな。


 それに姉の婚約者はこの国の王子だと聞いている。


 よくある攻略対象に婚約破棄される悪役令嬢とは姉のことだろう。


 最悪公爵家自体も責任を取らされるパターンなんてゲームにはよくある話だ。


 すでに破滅の道は確定している気がする。


 それに俺のカシューナッツはぴくりとも反応しないが、破滅フラグはビンビンに立っている。


「みんなはどこにいるの?」


「今屋敷にいるのはイザベラ様だけです。ちょうど殿下とお茶会をしている頃でしょう」


 ちょうど姉は婚約者の王子とお茶会をしているらしい。


 ここで険悪な雰囲気を漂わせていたら、確実に悪役令嬢の弟に転生したことが確定となるだろう。


 乙女ゲームの世界に転生したのか確認するためにも、俺はお茶会を覗きに行くことにした。


「クララ、あの人がこの国の王子?」


「そうです。あれがこの国の第一王子のウィリアム様です」


 いかにも王子ですと顔面で主張している人が庭にいたがやはりそうだった。


 周囲をキョロキョロと見渡したら、奥にお茶会をした痕跡が残っていた。


 ただ、姉の姿はない。


 きっとお茶会が終わったばかりだからだろうか。


 それか喧嘩でもしたのかもしれない。


 よくある悪役令嬢が婚約破棄される理由って、幼い時からあるっていうぐらいだ。


「あっ、痛っ!?」


 庭で隠れて見ていたら、どうやら薔薇の棘が刺さったようだ。


「クララ、棘を――」


「君がダミアンか?」


「へっ!?」


 声がする方に目を向けると、太陽がそこには立っていた。


 正確にいえばウィリアムの明るい金髪が、光を反射させて俺の目を直撃している。


 微かに見える青色の瞳は、綺麗な海のような瞳だ。


 ただ、眩しいから早く退いて欲しい。


「クララは?」


「クララって誰?」


 どうやらクララは俺を置いて、どこかへいってしまったようだ。


 王子に薔薇を退かしてもらうか迷っていると、王子は俺の顔を見て笑っていた。


 さらに白い歯が光って眩しすぎる。


「やはり聞いた話通り可愛い人のようだ」


 俺は何を言われているのだろう。


 首を傾げると、さらに薔薇の棘に引っかかってしまった。


 ここは頼むしかないのだろう。


 俺は口を開けた。


「あのー……」


 そこで急に声が出なくなった。


 必死に息を吐こうとしても声が全く出ない。


 急な出来事に驚きを隠せないが、それよりも驚くことが頭上に表示されていた。


▶︎優しくお願いします♡

 できれば痛くない方法で……

 ぐちょぐちょにしてください


 ああ、俺は頭上にある選択肢ですぐに気づいてしまった。


 この世界が視聴者参加型の乙女ゲームの世界だっていうことを――。


───────────────────

【あとがき】


 BL臭ガンガンで突き進みます!


 ぜひぜひ、推し活として★★★評価とレビューお待ちしております!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る