第4話 弟、兄しゃまに会う
目を覚ますとメイドのクララと姉のイザベラが不気味な笑みを浮かべて話していた。
さっきから禍々しい邪悪な気配をあの二人から感じる。
悪の組織と言われたら納得するだろう。
「んっ……」
声をかけづらい雰囲気に、わざと今起きたように演技をしながら声を出す。
「あっ、お姉様?」
「ふん、やっと目を覚ましたようね」
相変わらず姉は俺のことが嫌いなようだ。
さっきも婚約者である殿下に手を握られたと思ったら、おもいっきり振り解かれた。
あの様子だと怒っているのだろう。
「ごめんなしゃい……」
俺はその場で謝ると、キリッと睨みつけて部屋を後にした。
この口はちゃんと謝ることもできない。
さすが破滅フラグを突き進む悪役令嬢だ。
「うあああああああああ!」
部屋の外で癇癪を発揮しているところを見ると、明らかに怒っているのは間違いない。
さすがに破滅フラグをどうにかするためには、学園に通うようになっても、殿下と姉がそのまま婚約してくれていることだ。
よくある話では優しいヒロインが攻略対象者達を救うパターンだ。
それを姉がやることで破滅フラグを防ぐことができるはず。
ただ、今の俺には何にも情報がないのだ。
まずは情報を集めるところから始めることにした。
「クララ、本が読みたいけど良い場所を知らない?」
クララに尋ねると驚いた顔をしていた。
「ダミアン様がお勉強なさるんですか?」
うん、相変わらずクララは生意気だ。
過去の記憶でもクララがメイドぽくないのは知っている。
それにダミアンが勉強嫌いだったのも影響しているのだろう。
「僕が勉強したらおかしい……かな?」
「はぁー」
クララは大きなため息を吐いたと思ったら、キリッと睨みつけてきた。
そんなに悪いことを言ったつもりはない。
むしろ自分から勉強するって言うほど良い子を演じているはずだ。
「屋敷の中に図書室があるのでご案内します」
「ありがとう」
俺はクララに笑みを向けると、再び大きなため息を吐いていた。
おいおい、主人にそれはないぞ!
「ここに本がたくさんありますが、私は読めませんよ?」
真剣な顔でクララは話しかけてきた。
威圧的に自分は馬鹿ですよと言っているようなものだ。
実際に俺もまだ文字は見たことないが、異世界に転生した特典で文字が読めるって話はよく聞く。
その確認も含めて本を探していたのだ。
とりあえず近くにあった本を手に取ってみた。
「読めねーよ!」
つい思ったことが口に出てしまったようだ。
やはり俺の頭ではこの世界の本は読めなかった。
言語理解とか勝手に翻訳するスキルがあると思った。
だが、実際は全く読めないし、文字はミミズのような絵にしか見えない。
どうやらちゃんと覚えないといけないようだ。
「ん? こんなところでどうしたんだ?」
声がしたと思い振り返ると、そこには眼鏡をかけた目つきの悪い少年が立っていた。
頭の中で整理するが、全く誰かわからない。
「ああ、すまない」
少年が眼鏡を外すと一瞬にして誰かわかった。
「兄しゃま!」
そこにいたのは俺の兄にあたり、次期ダークウッド公爵家の後継者になるオリヴァーだった。
「あっ、噛んじゃった」
〝兄様〟と呼ぶつもりが〝しゃま〟になってしまった。
兄は口角を上げると不気味な笑みを浮かべながら近づいてきた。
眼鏡をかけていると知的な兄に見えるが、外したら完全にあの凶悪な顔の父を色濃く受け継いでいた。
「こんなところでどうしたんだ?」
「べっ……勉強しようと思いました!」
俺は手に取った本を兄に見せると、少し驚いた表情をしたと思ったらすぐに睨んできた。
勢いよく言ってみたものの、何が原因で怒っているのかわからない。
ただ、睨んでいるその姿は将来有望そうなヤクザの頭になりそうだ。
「ダミアンはこれが何て書いてあるのかわかってるのか?」
「んー、わかんない」
やっぱりどこか怒っている。
さっきより目を細めて睨んできた。
「そうか。ならこれを試して見ようか?」
「ん? 試すって何を?」
俺は知らない間に手首を掴まれていた。
「〝どんなやつでも魅了にさせる10の開発方法〟って本の題名通りのことをね」
うん。
なぜそんな本が普通に屋敷の本棚に入っているんだろうか。
せめて裏にでも隠しておいた方が良いだろう。
「何も言わないってことはやっても良いってことだよな?」
熱烈な瞳で見つめてくる兄にどうするべきか迷った。
周囲を見渡してもいつのまにかクララもいない。
力は兄には勝てないし、叫んで口を塞がれたら終わりだ。
とりあえず話で解決しようとしたが、全く声が出なかった。
ええ。
俺の頭の上には再びあの選択肢が出ていたからだ。
▶︎優しくお願いします!
怖い兄しゃまは嫌いだ!
僕が兄しゃまの上に乗るもん!
はぁー。
心の中で大きなため息を吐く。
どれを選択してもダメな気がした。
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