第5話 弟、必殺技を手に入れる
▶︎優しくお願いします!
怖い兄しゃまは嫌いだ!
僕が兄しゃまの上に乗るもん!
この選択肢だと一番最善の選択肢は二番目になるだろう。
一番目は優しく開発されるだけだ。
二番目はどうにか逃げる手段になりそう。ただ、逆上する可能性もある。
三番目は上に乗っても変わらないはず。
ってか10の開発方法って何を開発するのだろうか。
悪役顔をしていても、目の前にいる少年はまだ思春期に入ったぐらいの兄だ。
さすがに痛めつけるようなことはしないはず。
俺はそこに希望を持つことにした。
結局決めるのは視聴者だからね。
俺は視聴者が選択するのをただただ待った。
優しくお願いします!
怖い兄しゃまは嫌いだ!
▶︎僕が兄しゃまの上に乗るもん!
選ばれたのはまさかの三番目だった。
「僕が兄しゃまの上に乗るもん!」
俺の口は選ばれた通りに発言していた。
ただ、兄はどこか不気味な顔で睨んでいた。
「ならダミアンにやってもらおうか」
だから何をどうするのが正解なんだ?
兄は椅子に座ると俺を膝の上に乗せた。
背が高い兄からしたら、俺の顔は胸の位置にあった。
あっ――。
一瞬にして開発が何を意味しているのかがわかった。
俺の目前にはたぶん――。
いや、きっと兄の二つの突起があるに違いない。
未経験の俺に男で少年の〝お乳首様〟を開発しろってことか。
正直言って男女関係なく、めちゃくちゃハードルが高い。
むしろ童貞交際未経験の俺からしたら、ハードルを超えて高跳びの勢いだ。
「ひょっとしてどうしたら良いのかもわからないのか?」
その言い方だとダークウッド公爵家ならわかって当たり前だろって意味なのか?
どうしたら良いのかわからない俺はとりあえず抱きついてみた。
「はぁー」
俺の頭の上では兄が大きなため息を吐いていた。
やっぱり選択肢を間違えたようだ。
「ダミアンは可愛いな」
なぜか兄は強く抱きついてきた。
ただただ痛い。
俺が幼い子だということを忘れているのだろうか。
やめてくれと背中を何度も叩くが、さらに兄の力は強くなる。
「そんなに嬉しいのか」
いやいや、さすがに勘違いしすぎだろ。
どこから見ても降参だってわかるはずだぞ。
そんなことを思っていると、勢いよく扉が開く音が聞こえてきた。
「そろそろ解放してあげたらどうかしら?」
「なんだイザベラか」
「クララが外にいたら普通に気づくでしょう?」
力が緩んだ瞬間にクララは俺を持ち上げて、兄の膝の上から降ろしてくれた。
「すみません。オリヴァー様に少し席を外して欲しいと言われたので」
どうやら兄弟で大事な話がしたいと言われたため、外で待っていたらしい。
「俺とダミアンの時間をどうするつもりだ?」
「別にあなたのダミアンではないはずよ?」
あれ?
思ったよりもツンツンしていた姉が俺の味方をしている気がした。
(姉様頑張れー! 俺は開発なんかしたくないぞー!)
俺はそっと姉を応援する。
「俺のダミアンでなくても、おいおい俺のものになるだろ?」
「はぁん? 私が王女になったら私のものになるわよ?」
ああ、そういうことか。
おもちゃの俺が取られることが二人とも嫌なんだろう。
たしかに子どもの時っておもちゃを誰かに取られるのが嫌だったからな。
俺はこの家の中でも末っ子のおもちゃ代表だからな。
なら尚更中身が年上である俺が、どうにかしてあげないといけない。
「兄しゃま、姉様」
俺が話しかけると、キリッとした目で俺を睨みつけてきた。
やはり二人は兄姉だから似ている。
ビクッとなるほど、顔がとにかく怖かった。
でもこのままでは喧嘩になってしまう。
「喧嘩は嫌だよ?」
必殺〝可愛いゆるふわキュルルンビーム〟だ。
この見た目ならどうにかなるだろう。
今さっき思いついたばかりの容姿特化型の攻撃だ。
きっと
「はぁー」
二人して同時にため息を吐かれてしまった。
どうやら俺の作戦は失敗したようだ。
良い大人がせっかく愛嬌を振り撒いているのに、俺のHPの方が0になりそうだ。
ついついいじけて体操座りで床に座る。
「そりゃー恋愛未経験だから――」
「ダミアンが言うなら仕方ないな」
「ええ、そうね」
「えっ!?」
あまりにも落ち込んでいると思われたのだろう。
なんやかんやで優しい兄と姉は、その場で喧嘩をするのをやめていた。
ゆるふわキュルルンビーム最強説がこの時生まれた……のかな?
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