第22話 弟、お披露目の準備
異世界での生活もそこそこ慣れてきた。
時折、服が無くなるのは気になるが、公爵家はすぐに服を買い替える。
特に怒られることなかったため一安心だ。
それだけ財力があるなら、破滅フラグだけどうにかできれば将来は安泰が約束されていた。
そんな俺は犬にもたれながら、もふもふして楽しんでいた。
「なぁ、くろちん」
「なんだ?」
「なんか最近屋敷内でバタバタしているね」
「あー、そろそろパーティーがあるって聞いたぞ」
俺が聞いたこともない情報を犬は聞いていた。
そういえば、犬の名前は体の色が黒色だからクロと名付けた。
家族に聞いたら、"ゾディアック"とか"ラグナロク"って名前の案が出てきた。
どこから見てもそんなかっこいい見た目もしていないため、結局クロにした。
短い名前で呼びやすいし、今では俺と常に一緒にいる相棒だ。
「パーティーかー。まぁ、興味ないから俺はひっそりしているよ」
――バン!
突然扉が開いたと思ったら、姉が部屋に入ってきた。
「そうよ! あなたは目立たず影に隠れていればいいのよ!」
「ひぃ!?」
急にドアが開いてびっくりしてしまった。
やはり姉は俺のことが嫌いなんだろう。
「あっ……その……」
急に静かになる姉に俺は首を傾げる。
あれから殿下が遊びに来ることが多く、姉とお茶会をする合間に俺に会いに来ることが増えた。
婚約者の弟には良い顔をしたいのだろうが、異性より同性と遊ぶ方が楽しい年頃だ。
それがきっと姉にとっては嫌なんだろう。
俺としては正直めんどくさい。
それに殿下と過ごすと同時に兄姉も一緒に来ることが増えて、四人でいることが多い。
なぜか殿下が俺に絡んできて、それを兄と姉が邪魔をするというわけのわからない関係だ。
俺はクロとゆっくりできるなら、それが一番楽で楽しい。
「姉様、突然どうしたんですか?」
すぐに姿勢を正して、いつもの良い子ちゃんに変身だ。
「お父様が呼んでいるわ」
「わかりました」
俺はクロとともに父が待っている部屋に向かった。
「別にあなたのことが嫌いで……ってもういないわ」
姉の声が静かに廊下に響いていた。
父と接する時が一番気を使う。
何か暴力を振るうわけでもないが、ずっと眉間にシワを寄せて、しかめっ面をしている。
そんな父にはとにかく甘えたパパ大好き末っ子を演じればどうにかなるのが現状だ。
母もそんな感じだ。
「パパお待たせしました」
ひょっこりと扉から顔を出す。
これをやらないとたまに不機嫌な顔をするからな。
ああ、相変わらず今日もしかめっ面だ。
ちゃんとパパ大好きっ子を演じたのにな。
「ああ、待っていたぞ」
どうやら待たせてしまったようだ。
「すみま――」
「ダミアン早くこちらに来なさい」
隣には美魔女が微笑んでいる。
「うわー、ママ綺麗だね」
「ふふふ、ありがとう」
なぜか普段とは異なり、黒色の華やかなドレスを着ていた。
どこか輝いているのは小さな宝石が散りばめているのだろう。
「これはアメジスト?」
「さすが我が子だわ」
母は家族の中では優しい方だ。
ただ、見た目が少しキツめな感じがするのは否めない。
「ダミアン、お前はこっちに来なさい」
「嫌よ、やっと私もダミアンに会えたのよ」
「僕はパパとママに会いたかったよ」
こうやってちゃんと二人に媚びという名の愛を振り撒いておかないと、どちらかが嫉妬するからな。
本当にめんどくさい家族だ。
「顔に出てるぞ」
「ありがとう」
そんな俺を注意してくれるのがクロの役目だ。
俺の本性を知っているのはクロぐらいだからな。
「それで僕が呼ばれたのは何かあったんですか?」
「今度お披露目会をする衣装を選んでいるんだ」
「お披露目会?」
さっきクロが言っていたパーティーのことだろう。
「パパとママをお披露目するの?」
「私達をお披露目してどうするのよ」
「ああ、お前を貴族達に紹介するお披露目会だ」
どうやらパーティーの主役は俺らしい。
さらにめんどくさい案件が増えたようだ。
「今まではどうにか逃げ切れたが、殿下にバレてしまってはやるしかなくなったからな」
きっと俺が殿下に会ったのが影響しているのだろう。
まずはお披露目会についての情報を集めることになった。
あー、ずっと寝てダラダラしたいな。
せっかく子どもに生まれ変わったのにな……。
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