第42話 弟、学園に向かう
学園までは宿屋に泊まりながら向かう予定だ。
「おい、なんでそんなに離れるんだよ」
「ダミアン様の寝言がうるさいからです」
「別に俺との仲だから良いだろ!」
俺はクロに抱きつくと、ビクッとしていた。
従者と主人が一緒のベッドに寝ることは基本ない。
ただ、学園までの移動中はそれが許される。
だってこの場にいるのは俺とクロだけだからな。
「こうやって寝るのは久しぶりだな」
「そうですね」
犬の時は一緒に寝ていたが、人型になってからは一緒に寝ることはなくなった。
たまにひっそりとベッドに入ってくることがあったため、クロも寂しいと思っているのだろう。
従者からは一緒に寝たいとも言えないからな。
「それにしても本当に大きな抱き枕になったな」
「ダミアン様もある意味ちょうど良いですけどね」
相変わらず憎たらしい。
それでもクロは寝返りして俺に抱きついてきた。
言葉と行動は全く違うが、それが可愛らしい一面でもある。
目の前にあるクロの顔はどこか大人びていた。
本当にイケメンに成長したな。
ちなみに兄のオリヴァーと殿下もとてつもなくイケメンに成長した。
これがゲームの攻略対象者補正なんだろう。
それに悪役令嬢であるイザベラもめちゃくちゃ美人だ。
きっと現実世界にいたら有名女優になるレベルだと、俺は思っている。
その中で唯一変わってないのは俺だけだ。
それを思うと一人だけ置いていかれた気になって、少し寂しく感じる。
カシューナッツからピスタチオになったぐらいだからな。
「寝れないんですか?」
「少し寂しくてね」
「俺がいますよ」
おっさんもいつのまにか甘えた属性が身についてしまったからな。
そう言ってクロは俺を抱きしめて、頭を優しく撫でてくれた。
大きな手から伝わる優しさと体温が次第に眠気を誘ってくる。
うん……。
犬に撫でられるおっさん。
今、画面上の絵面は大丈夫なんだろうか。
「クロいつもありがとう」
そうは言っても俺の眠気は強くなってくる。
俺はそのまま夢の世界に落ちていった。
「はぁー、俺のことも少しは考えてくださいよ」
学園までの移動中、クロが夜中になるたびにトイレにこもっていたのを俺は知らなかった。
あいつお腹が弱かったんだな。
「やっと兄さんと姉さんに会えるね」
「その前にダミアン様は勉強ですよ」
「くっ……」
俺は馬車の中でクロに勉強を教えてもらっていた。
「本当に覚えが悪いですね」
「脳に栄養が行ってないんだよ!」
「脳も体も栄養不足ってことですね」
「一言多いわ!」
でもクロの言うことには一理ある。
中身がアラサーの俺はとにかく記憶力が悪かった。
体がダミアンでも脳は俺の年齢だ。
ダミアンの歳と合わせたらアラフィフに近い。
そんな男に今頃勉強しろと言われても、全く覚えきれないのだ。
その結果、学園にもギリギリで入学できた。
裏では父と兄が学園長を脅したとの噂も聞いたが、さすがにそこまではやらないだろう。
「ダミアン様、学園が見えてきましたよ」
「わぁー、なんか大きな要塞みたいだね」
「辺境地なので魔物も多いですからね」
学園が辺境地にあるのは俺も疑問だった。
単純に土地がなかったのかと思ったが、それはダークウッド公爵家が管理している土地と関係があった。
「魔王を止める力を学ぶ場所だもんな」
「ええ」
この世界にも魔王と呼ばれる存在がいる。
魔物を操って人間を襲うと言われているが、その存在を見たことあるのは本の中だけだ。
戦う力があるのは"魔法"を使える貴族の特権でもある。
侵略を食い止めるには俺達貴族の手にかかっているのだ。
"絶望のノクターン"らしいと言えばらしい設定だが、本当に魔法が使えなければすぐに死んでしまうだろう。
そんな俺は勉強ができなくても、魔法の才能は長けていた。
そもそもラノベやアニメ、ゲームが好きな俺が魔法の存在を知ったら暴走しないわけがない。
むしろ知識のほとんどがそこに注がれているから、バカになったと思っている。
馬車が止まるとクロが先に降りた。
「ダミアン様、どうぞ」
「ありがとう」
俺はクロの手を取ると、馬車からゆっくりと降りる。
本当に要塞のような壁に囲まれた学園の中はどこか異国のような気がした。
「あれって……」
「オリヴァー様とイザベラ様ですね」
遠くにはオリヴァーとイザベラの姿があった。
二人に会うのは一年振りだ。
俺のテンションは上がりすぐに駆け出した。
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