第43話 弟、戦いが始まる

「ダミアン危ない!」


「うぇ!?」


 急に体が宙に浮く。


 俺は兄姉に会えたことが嬉しくて駆け寄ったが、何かで躓いてしまったようだ。


「ダミアン様はそろそろ鈍臭いのを理解したらどうですか?」


「ははは、クロちんありがとう」


 俺はクロに支えられて姿勢を戻す。


 ずっと従者をしているから、俺の行動を理解しているのだろう。


 本当に頼れる男だ。


 とりあえず、お礼に頭を撫でておいたが手を弾かれた。


 飼い主に歯向かいやがって!


 昔はあんなに可愛かったのにな……。


「兄様、あの男ってクロで合っているかしら」


「ああ、あの馴れ馴れしさはクロだな」


「犬には躾が必要ですわね」


「でもその前にダミアンだな」


 兄と姉は何かを話しているが、遠くて俺の耳には聞こえない。


 俺は再び大きな声で二人に声をかけた。


「会いたかったよおー!」


 俺は勢いよく二人に抱きつく。


「久しぶりだな」

「久しぶりですわね」


 二人して呆れた顔をしていたが、優しく迎えてくれた。


 ええ、なぜ抱きついているかってこれも計画だ。


 久しぶりに会った時こそ、俺の可愛い魅力を伝えていかないとな。


 俺には武器だったゆるふわキュルルンが減ったからな。


「ダミアン急に走ったらダメだぞ」


「貴族なんだから落ち着きなさい」


 うん、会わない間に兄姉は厳しくなった。


 昔から何も言わない二人だったのに、注意されてしまった。


「早く会いたかったのに二人はそうじゃなかったんだね」


 チラチラと二人の顔を見つめる。


 長年演技をしていた俺は今頃演技派貴族として名をあげるレベルだろう。


 映画コンクールがあったら、最優秀男優賞をもらっている気がする。


「くっ……」


 どうやら少し厳しくなっても、俺の演技には勝てないようだ。


「オリヴァー様、イザベラ様お久しぶりです」


 そんな二人にクロは挨拶をしていた。


 視線がバチバチとぶつかり合っている気がするのは気のせいか。


 俺はそんな三人を見ていると、遠くに殿下がいることに気づいた。


 その隣には女子生徒がいた。


 殿下には関わらない方が良いから、あまり視線を合わせないようにしよう。


 あの人って成長しても中身が危ないって姉から聞いているからね。


「ハァハァ……やばいやばい。獣人があんなにイケメンになっているとは――」


「カメリア令嬢。首席である君のそんな姿を誰も見たくはないだろう」


「今は良いんです。久しぶりの推し活で……あー、ダミアン様可愛いわ」


「君もダミアン狙いなのか!?」


 いや、ちょっと待てよ。


 よく見ると殿下の隣にいるってことはヒロインじゃないのか。


 すでに姉は危ない状況に陥っているんじゃないか?


「ねぇ、姉さん?」


「なんか姉様呼びじゃないのは気持ち悪いわね」


 そういえば、学園に行くから呼び方を姉様から姉さんに変えたんだった。


 いつまでも子どもではいられないからね。


 もちろん兄しゃまって呼ぶことももうない。


 滑舌も前よりは良くなった。


「殿下の隣にいるあの人って誰?」


「ダミアンは気にしなくて良いのよ。さぁ、教室に行くわよ!」


 明らかにおかしな姉の態度に、俺はあの人がヒロインだとすぐに気づいた。


 ピンクの髪に少しゆるふわなカールがかかった髪型が特徴的だ。


 誰が見ても可憐で可愛い女性に見えるだろう。


 今も大きく目を見開いてこっちを見ている気がする。


「さぁ、ダミアン教室に行くぞ」


 俺は兄姉に引っ張られながら教室に向かうことにした。


 俺の破滅フラグ回収はここからが戦いだ。


「はぁはぁ……ダミアンのカップリング楽しみだわ」


 一方、ヒロインも違う戦いの準備を始めていた。

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