第44話 弟、爽やかに転職したい
「ここがダミアンの教室だ! 残念ながら俺の担当はイザベラのクラスだからな」
どうやら兄はイザベラのクラスを受け持っているようだ。
それはそれで問題ない。
すでにヒロインが殿下と近い距離感でいるってことは、破滅フラグがビンビンに立っているということだ。
兄がイザベラの近くにいた方が良いからな。
今すぐにでもフラグは折れるだけ、折る必要がある。
「せっかく兄さんが先生になったのにね」
「授業で教えることはあるから、全く関わらないわけではないぞ?」
「兄さんの授業なら勉強が好きになるかな?」
口では可愛いことを言っているが、勉強が好きになることはないだろう。
唯一できるのも魔法ぐらいな気もするからな。
「ぷっ!」
俺のことを知っているクロは後ろで笑っていた。
本当に従者としてこの態度は良いのかと思うが、一番の理解者はクロだからな。
「今日の夜は入学パーティーよ。ダンスの練習はしてきたかしら?」
「へっ? ダンスってまさか……」
「はぁー、ちゃんと説明したのか?」
兄はクロを睨んでいるが頷いていた。
えっ、俺は何も聞いてないぞ?
「何度言っても逃げてましたからね」
「そりゃー逃げるよ! ダンスなんて苦手分野だし、必要になるとは思わないよ」
「こんな感じでいつも逃げてましたね」
確かに屋敷にいる間、クロにダンスをしないかと声をかけられていた。
遊びで言っているのかと思い逃げていたが、まさかここで必要になるとは思いもしないだろう。
ちゃんと説明して欲しいものだ。
「ああ、ここは私達でどうにかするしかないわね」
「本当に手がかかる弟だな」
そう言って兄姉は自分達の教室に戻って行った。
あとで作戦会議をするとも言っていた。
俺はその作戦会議に呼ばなくても良いのか?
「そもそも入学パーティーくらい参加しなくても良いんじゃないか?」
俺はクロに話しかけるが、何を言っているんだという目でこっちを見ている。
俺の従者は冷たいからな。
「そんなことをしたら全員に目をつけられるぞ。ただでさえ、今も目をつけられているのに」
教室の入り口にいたら、教室から声をかけてくる男がいた。
「えーっと、どなたでしょうか?」
「はぁー、俺にあんなことを言ったのに忘れたのか」
俺にはこんな短髪で爽やかな男友達はいない。
そもそも俺にはクロ
「あんなことって?」
「〝頼りないから僕が守ってあげる〟って言っただろ? 可愛い騎士のダミアンくん」
「ん? その言葉どこかで聞いた……いや、言ったことがあるぞ」
クロが近づき耳元で小さく呟く。
「彼はヴァンサン公爵家のフェルナン様です」
ヴァンサン公爵家って有名な騎士家系だったはず。
以前、お披露目会で挨拶した時は、俺と同じゆるふわキュルルン系の――。
「あー、お前あの時のゆるふわキュルルン系男子か!」
「ゆるふわキュルルン系?」
あの時はすぐに逃げられたし、手を振ったのに無視されたことを今でも覚えている。
中身がおっさんでも地味に傷ついたからな。
「あの時は君に守ってあげると言われたのが嬉しくてね。今度は約束通り俺が守ってあげるからね」
俺はそんな約束をした覚えはないぞ。
フェルナンは俺に近づき、髪の毛を手に取る。
そのまま顔を近づけて髪の毛に口付けをしてきた。
うん、ちょっと待てよ。
最近お風呂に入るのがめんどくさくて、髪の毛を洗った記憶がない。
ひょっとしたらベタベタして汚いはずだ。
俺はすぐに手を振り払った。
「やめてください」
これはフェルナンのためでもあるからな。
髪の毛は不衛生だ。
「ははは、それくらい元気な子の方が俺は好きだね」
そうかそうか。
元気な子が好きなんだな。
ただ、俺に言っても友達がいないから意味はないぞ。
俺にはクロしか友達がいないからな……。
だんだん自分で言って辛くなってきた。
この際、学園で交友関係でも広げてみようか。
おっさんでも最近の若い子の話題についていけるだろうか。
「同じクラスなら友達としてよろしくね!」
「ああ……」
どこが戸惑っているが、とりあえず握手はしておいた。
見た目は爽やか系男子でも、中身はチャラチャラした元ゆるふわキュルルン系男子。
この反応は無事に友達になっているぞ。
きっと視聴者からは、好感度が出現しただろう。
学園生活の幸先は良さそうだ。
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