第45話 弟、学園での初選択

「ここのクラスの担任を務めるモブウだ。一年間よろしく!」


 元気に挨拶する担任に俺は好感を抱いた。


 いや、判断するところが声しかないってことが問題なんだろう。


「なんで俺達の担任は影が薄いんだ?」


「あの人達はモブ一族だからだと思う」


 クロは後ろから俺の知らないことを教えてくれた。


 どうやらこの世界にはモブに特化した一族がいるらしい。


 俺からしたら顔が暗くて見えないが、他の人からはただ影が薄い人に見えるようだ。


 たしかに担任のモブウ先生は、昔懐かしい犯人のモブ伯爵家よりは影がグレーで見やすい。


 このクラスにもモブ一族は存在している。


 ただ、それと同じぐらいフェルナンのようにしっかりしたイケメンや美少女も存在する。


 これが登場する機会があるキャラクターとモブの違いなんだろう。


 ゆるふわキュルルン系だが、まだ俺の顔はしっかりあって良かったと思った。


「じゃあ、今から自己紹介をしていく」


 どうやら入学イベントが始まるようだ。


 今日の夜にパーティーがあるため、入学式とかはない。


 予定としてはクラスでの活動と学園内見学、夜に入学パーティーという流れだ。


 モブ一族が自己紹介をしていくが、名前もややこしくて覚えられなかった。


 モモブ、モブン、モッブ、モーブなどとりあえずモブと呼べばみんな振り返りそうな気がする。


「次は俺だよな。ヴァンサン公爵家のフェルナンだ。将来は騎士を目指す予定だ」


 なぜかやつは俺の方を見て自己紹介をしてきた。


 騎士になることを決意しているのだろう。


 わざわざ俺の方を見なくても良いのにな。


 それに女性の黄色い歓声が聞こえてくるから、結構人気のようだ。


 婚約者がいない俺とは全然違うな。


 きっと今頃は攻略者のような自己紹介PVが流れているだろう。


 いつから俺はゆるふわキュルルン人生を間違えたのだろうか。


 その後も自己紹介が終わっていき、教室の後ろでポツンと座っている俺の番になった。


 俺の周りにはなぜか誰も座っていない。


 入学式当日からボッチなのだ。


 でも後ろにいれば、従者であるクロが立っているため寂しい気持ちはなくなる。


 クロは俺の味方だよな? な?


「えーっと、ダークウッド公爵家のダミアンです」


 たしか将来の夢や希望を話すんだよな。


 俺の夢って破滅フラグを回収して幸せに過ごすことだ。


 続きを話そうとしたら口が止まった。


 頭上には学園に来て初めての選択肢が現れた。


 まさかこんな時に出なくても良いのにな……。


▶︎世界征服をする予定だ

 楽しく過ごしたいです

 婚約者を見つけて幸せになりたいです


 どれも選択肢としては面白かった。


 ダークウッド公爵家としては選択肢1が良い。


 選択肢2はどちらかと言えばモブっぽい気がする。

 

 ただ、この場合視聴者は選択肢3を選ぶだろう。


 視聴者の考えなんて、大体は理解している。


 世界征服をする予定だ

 楽しく過ごしたいです

▶︎婚約者を見つけて幸せになりたいです


 ほら、俺の予想は合っていた。


 だってこのゲームって乙女ゲームが主だからな。


 選択肢1になったら、バチバチの戦略ゲームになりそうだ。


「婚約者を見つけて幸せになりたいです」


 相変わらず勝手に口が動いていく。ただ、俺の言葉を聞いて教室の中は静まりかえった。


 やはりダークウッド公爵家は婚約者を探すのも大変なんだろうか。


「こんなことを言って――」


 謝ろうとしたら、先生に話を遮られた。


「それは先生も参加していいのか?」


 モブウ先生は優しいからか、俺の話に乗ってくれただけだろう。


「なら、俺も!」


「私も!」


 次々と生徒達は手をあげて席から立ち上がる。


 どうやらノリが良いクラスのようだ。


「ははは、みんな優しいね」


 俺はとりあえず微笑むと、後ろから大きなため息が聞こえてくる。


「クロちんどうした?」


「そろそろ自覚した方が良いですよ」


 ああ、自覚はしている。


 俺はこの世界で一番モテないゆるふわキュルルン系男子だからな。


 情けで婚約者候補になってくれると、冗談で言ってくれるやつらばかりだ。


 考えれば考えるほど辛くなりそう。


 俺はゆっくりと椅子に座った。


 誰か俺の婚約者になってくれ!


 心の中で俺はそう叫んだ。 

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